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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第3章 小国哀歌編
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○エルスタビアの町 ファルネーゼ


 やってきた伝令は、王都からだった。

 副官のアタラスシアがファルネーゼに送ったものだった。


 屋敷の庭には、魔王トラルザードの援軍がいる。

 そこで報告を聞くのはさすがに拙いと思い、ファルネーゼは伝令を執務室まで呼んだ。


「それで何があった?」

 かなり急いできたらしく、伝令の息が切れている。

 落ちつくのを待ってから、ゆっくりと尋ねた。


「報告が複数あります。まず、隣国の情勢についてお知らせします」

 それだけで嫌な予感がするファルネーゼである。


 伝令はもう一度息を整えると、いっきにまくし立てた。


「まず、小魔王ロウスの国と同盟を結んでおりました小魔王ルバンガの国ですが、戦争状態に突入。ルバンガの一方的な侵攻だと思われます。これにより両国の同盟は即時破棄。ただし、最新の情報ではすでに小魔王ロウスが斃れ、事実上小魔王ロウスの国が崩壊したということです。これにより、小魔王ルバンガが小魔王ロウスの国を併呑し、二国所有の小魔王となった模様です」


「なんだと?」


 つい先ほどまで、小魔王ロウスの国がこの国と戦争を起こしていたのではなかったのか。

 ロウス軍はいくつもの部隊に別れて、王都を目指して進軍していた。


 ダルダロス将軍がそれを迎え撃ち、ファルネーゼもまた援軍として軍を率いた。

 それがようやく片付いてこの町に戻ってきたというのに……その元となった国が滅んだというのだ。


 しかも相手はもとから同盟を結んでいたルバンガという。

 ファルネーゼとしては、「どういうことだ」と伝令を問いただしたい衝動に駆られた。


 ただしここはファルネーゼの屋敷。

 庭には他国の援軍がいる。あまり目立つ行動は避けたかった。


 ゆえにファルネーゼは頭を働かせる。

 ロウス軍がこの国に来たことで、ロウス領内にいる軍はかなり少なくなっているはずである。


 その直前までルバンガと同盟を結んで、他の二国相手に戦争をしていたのだから、もともとロウスは兵の数も減っていたのではなかろうか。

 その場合、少ない兵をさらに割いてこの国に侵攻したことになる。


 そして今回の併呑劇。

 最初からルバンガがロウスを狙っていたことも考えられる。


 甘い言葉を囁いて、ロウスをその気にさせたのは作戦として分かる。

 腹が立つのは、この小魔王メルヴィスの国がその当て馬に使われたということだ。


「小魔王ロウスが死亡し、ルバンガが旧ロウス領を治めているのだな」

 ファルネーゼが念を押すと伝令は頷いた。


「続けて報告致します。同時期になりますが、小魔王クルルの国と同盟を結んでおりました小魔王ナクティの国ですが、こちらも戦争状態に突入し、小魔王クルルは現在行方不明。今なお、クルル領ではクルルの捜索が続けられている模様です。同時にナクティはクルルの国の吸収作業に入ったようです。このままクルルが見つからなければ、国は解体されるか、完全にナクティに吸収されるだろうとのことです」


 今度は、クルルとナクティの話だ。

 両国もまた同盟国であったが、クルル軍がこの国に侵攻している間に、ナクティがクルルとの同盟を破棄して、攻め込んだらしい。


 対応が嫌になるくらい似通っている。

 つまり、ルバンガとナクティは示し合わせていたわけだ。


「ルバンガとナクティは戦争状態だったはずだが、どこで手を結んだのやら」

 それに気づけなかったロウスとクルルは滅んだ。


 この国も同じだ。

 ロウスとクルルの軍が攻めてきたことで、必死に迎撃していた。

 裏でそんなことが行われていたとは、最後まで知らなかった。


 そういえばと、ファルネーゼは思い出した。

 ロウスとクルルが攻め込んだとき、同盟国もまた、この国にやってくるものと思っていたが、そんな知らせは来ていなかった。


 どうやら、いろいろと初めから仕組まれていたらしい。

 そのせいで、この国は隣に危険極まりない二つの大きな国を持つことになってしまった。


「続けます。小魔王レニノスの国が、小魔王ファーラの国と不戦条約を結んだようです」


「その可能性は考えていた。両国はこの周辺に覇を唱える国。現段階でぶつかれば、たとえ勝ったとしても国力低下は必至。他の国に潰されよう。両国がぶつかるのは、互いにそれ以上領土を増やせなくなってからだろうな」


「そのため、小魔王レニノスは軍を南に向け始めたようです」


「南というと、狙いはわが国かクルルの国……いや、併呑したナクティの国か?」

「まだそこまで分かっておりませんが、規模からするとわが国を狙いに来ているのではとのことです。また未確認ながらロウスとクルルの国境付近に兵の姿が確認されました」


「四つの国が大きくなって二つの国になったわけだけど、もとの敵国――レニノスの国だけでなく、その大きくなった二国もわが国に戦争を仕掛けてくるか。さすがにそれは対処できないな」


 レニノスがやってきた段階でまだ、他の二国と戦争していた場合、抵抗らしい抵抗も出来ずに負けてしまう。


「……さてこんな状況、どうしたらいいのやら」

 伝令の話など聞かなければ良かった。そう心底後悔するファルネーゼであった。




 ツーラート将軍は北の国境線から離れられなくなり、ダルダロス将軍はいまだ戦後処理の真っ最中。それが終われば自分の町に戻って軍の再編をしなければならない。


 ロウスとクルルとの戦争が終わったものの、その両国は別の国に滅ぼされてしまって、隣国の緊張は相変わらず。


 王城にいるアタラスシアはもう限界とばかりに、即時帰還を求めてきた。

 ファルネーゼとしても、こうなっては自分の町にいてもしょうがない。


 すぐに王城に向けて出発した。

 トラルザード領から来た援軍の扱いや、この後の動きなど、考えることはいくらでもある。

 ファルネーゼとて処理能力がパンクしそうな状態である。




 王城に着いたファルネーゼは、控えの間で待っていたフェリシアと長い長い話をすることになる。


 小魔王メルヴィルの国を巡る騒乱は、いまだ終わりを見せる気配がなかった。




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