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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第3章 小国哀歌編
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○ファルネーゼ


 ファルネーゼは、軍を急いで派遣した。

 それだけでなく、ファルネーゼ自身も軍を率いて救援にかけつけた。


 多くの者が町を出て行った。それはもう、町を空にする勢いである。

 その甲斐あって、侵攻するロウス軍をなんとか押しとどめることができた。


 膠着した戦場もあったが、他で戦いが終われば、それ以上深入りしてくることはないと思われる。


「私は町に戻る」


 一段落したので、ファルネーゼは部下にそう言い残して、文字通り飛んで帰った。

 これから、大国の援軍を迎え入れるのだ。

 事情を知らない者に接待を任せておけない。


 空を飛んで町に帰ると、ちょうど先触れが到着したところだった。


「間に合ったな」

 ギリギリだったと、ファルネーゼは胸をなで下ろした。


 先触れと簡単に話をし、やってくる者のリストを受け取った。

 翌日、本隊が町にやってきたので、手はず通り招き入れた。


「……これは」


 やってきたのは複数の部隊だった。

 戦場で戦うことを前提とした場合、毛色の違う部隊どうしで組ませるのが最も良いとされている。


 部隊を単一の種族で揃えた場合、うまくかみ合えば爆発的な力を発揮する。

 だが、弱点を攻められると途端に弱くなってしまう。

 そのような部隊は、多方面で活躍することはできない。


 以前聞いた話。

 湖畔での戦闘だからと水妖系の者たちだけで部隊を組んだある国は、水辺から切り離されたところで戦いを強いられ、為す術もなくやられたという。


 ひとつの特性だけで固めてしまえば、弱点属性を狙われる。

 ゆえに、トラルザードの国からやってきた援軍が、複数の部隊構成になっているのは理に適っている。


「最初はセルム族か」


 セルム族は砂漠の軍隊と呼ばれる、集団で狩猟する種族である。

 集団がまるでひとつの生き物のように機能し、格上の相手でも容易に討伐し得ることから、巨人殺しとも呼ばれている。


 そもそも個々の戦闘能力が強いのに加えて、集団になるとそれが数倍にまで高まるのである。

 敵にするととてもやっかいな種族である。


 セルム族が一糸乱れぬ行進で町中を行進する。

 次に来たのが、インフェルバイパー族である。


「これはまた……熱くて近寄れんな」


 外見はラミア族に似ていて、上半身は人で下半身が蛇となる。

 ただし、上半身からは絶えず炎が吹き出ており、その姿を炎の中に隠す。

 溶岩蛇族とも呼ばれる。


 近寄るだけで炎のダメージを受けるため、戦う場合、近接攻撃は御法度。

 通常は水系の魔法で対抗することになる。


 ただし、インフェルバイパー族に効果がある水系魔法を習得するのは大変である。

 インフェルバイパー族は上位種族であるため、魔法耐性はかなり高いのだ。


 そのため苦手属性の水系でも、よほどの使い手でないと傷一つ与えられないことになる。

 やはりこれも戦いにくい相手であろう。


 インフェルバイパー族が進むにつれて熱気が町中にたまっていく。

 ファルネーゼは吹き出る汗を拭いながら、次にくる部隊を待った。


 小刻みに地面が揺れ、先の方で喚声があがる。

 最後に姿を現したのは、ソードジャイアント族であった。


 彼らは巨人種の中でも希有な種族で、全身が分厚い鎧で覆われた種族である。

 リビングメイル族のように中が空っぽということはなく、ファルネーゼは兜の奥にある双眸を見ることができた。


 ソードジャイアント族の特徴はなんといっても、鎧の各所から飛び出ているやいばであろう。


 肩口、肘、膝は当然として、延髄や背中にも多数の刃が生えている。

 あれで横になるとき大丈夫なのかと心配するほど、多くの刃が身体から生えている。


 そしてその飛び出た刃すべてが切れ味抜群で、体当たりをするだけで相手に大ダメージを与えるという。


「話にきいていたが、大きいな」

 巨人種であるから大きいだろうと予想していたが、それよりも大きかった。

 背丈ならばファルネーゼの三倍くらいある。


 横幅や身体の厚みも相当あり、あれで体当たりをされたらどれだけのダメージが来るのか想像できないほどだ。

 ファルネーゼはそれを体験したいとは思わなかった。


「彼らがレニノスを倒す切り札か」


 みな一騎当千の者たちである。

 これらを使ってレニノスを倒し、ファーラを倒さねばならない。




 行軍の最終地点はファルネーゼの屋敷である。


「みな、よく来てくれた」

 あれほど広かった屋敷の庭。彼らがいると、とても狭く感じる。


「さっそく来てもらったところ悪いが、ここからわが国の王城に向かってもらい、そこでレニノス討伐の作戦を発表する予定だ」


 作戦はフェリシアが今頃考えている最中である。

 複数国との戦争や今回の戦略のように、知識と経験が必要な作戦を立案できる者は、できるだけ秘匿しておきたい。


 なにかの折りにフェリシアのことがバレ、狙われることもあるからだ。

 ゆえに発表はファルネーゼの口から行われることになっている。


「疲れているところ悪いが、状況は切迫している。明日の朝出発するので、そのつもりでいてほしい」


 そこまでファルネーゼが話したとき、一体のヴァンパイア族が飛行してくるのが見えた。


 町中では、よほどの理由がないかぎり、軽々しく飛行しないよう伝えてある。

 伝令でも通常は道を通ってやってくる。


 さらに今は大事なとき。にもかかわらず、飛行してくるとは。


「……なんだ?」

 悪い予感を覚えるファルネーゼであった。



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