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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第3章 小国哀歌編
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○ダルダロス軍 軍団長ミアーザ


 ここは王都に至る街道のひとつ。

 いまロウス軍がいくつかの部隊に別れて、進軍を続けている。


 ロウス軍の猛攻をしのいでいる軍団長のミアーザは、敵の攻撃が一段落したことで、ようやく一息ついた。


「非戦闘員は陣の壊れた箇所を修復。怪我人を後方に移送しろ! 予備の部隊はどうした?」

 敵も一旦引いたものの、体制を整えて再びやってくるのは確実である。


「予備の部隊、確認できました。まもなくやってくるとのことです」

「そうか。ならばここは正念場だな」


 陣を捨て、後方の町に落ち延びる予定もあったが、怪我人が多い。

 それでも昨日までは自力で動ける者が多かった。


 今日の猛攻で、怪我人が量産されてしまい、いまでは怪我人の半数が寝たきりの状態だった。

 彼らを置いていくわけにはいかない。


 ミアーザは傷を癒やす部下たちを眺めた。

 救援要請を城に送って三日、つい先ほど城から援軍が到着した。


 といっても、到着しているのは先行した数人だけであり、本隊はもう少し遅れる。

 だがこれで少しは盛り返せる。


 そう思うものの、先行してやってきた者たちの話では、他の戦場も酷いことになっているようだ。


「ルイズの所は町に近いから大丈夫かと思ったが……」


 軍団長のルイズもまた、こことは違う街道で敵の侵攻を留めている。

 ルイズの所は敵の数が多いらしく、城も早々に増援部隊を送ったと聞いた。


 ただし、王城の兵は有限。無から湧いてでることはない。

 ではどうしたのかと言えば、複数の町や村から徴兵したのだ。


 これは簡単に兵力が手に入る反面、軍が戦いの素人ばかりになる危険性があった。

 命令を理解できない兵は、こちらの思い通りに動いてくれない。


 ときに味方の邪魔になり、崩れるときは一気に雪崩れる。

 敗色濃厚の場合、新兵などいない方がよいと言われるゆえんだ。

 だが、あまりに寡兵だと兵全体の士気が上がらない。


「しかし、ルイズならば持ちこたえているかと思ったんだがな」


 結局ルイズ軍は、戦力を増強しても焼け石に水だったようで、いまは砦を放棄して、撤退戦の真っ最中だという。


「……ルイズが飛んできてくれるのを期待したんだが、うまくいかないものだな」


 ミアーザは乾いた笑いを漏らす。

 跛行はこう天狗族のミアーザは、魔法攻撃に特化しているものの、空を飛ぶのはそれほど得意ではない。

 狙い撃ちされるのを避けるため、地上から魔法を打つことが多い。


 一方、烏天狗からすてんぐ族のルイズは、空の上でこそ実力を発揮する。

 ミアーザとルイズが組めば、地上と空から絶え間ない魔法攻撃を繰り出せる、とても相性の良いコンビであった。


「そろそろ来るぞ。迎撃の準備しろ!」


 敵も休息を終え、部隊の再編が済んだようだ。

 敵陣に動きが見えた。


 しばらくして陣の一部が開き、巨大な何かがやってきた。


「……ッ!? あれはゴーレム族。敵は本気だぞ」

 足の遅いゴーレム族は、こちらの陣に辿り着く前に魔法で破壊し尽くされるだろう。あれは使い捨ての壁だ。


 それでも何体かは生き残って、陣にたどりつく。

 ゴーレム族の膂力はミアーザもよく知っている。


 陣の補修した箇所など、容易に破壊し得る。

 目の前で次々とゴーレム族が魔法に倒れていく。それでもゴーレム族の足は止まらない。


 十体に一体でもいい。陣にたどり着けばそれで勝てる。

 敵はそう思っている。ゆえにミアーザは檄を飛ばす。


「最大火力で殲滅しろ!! たどり着かせたら終わるぞ!」


 ここに来て出し惜しみはなし。

 これでもかと魔法弾をゴーレム族に向けて打ち出す。


 破砕音が連続して響き、土煙が爆風で高々と舞い上がる。

 視界が奪われ、何も見えなくなった中から、思ってもみなかった種族――鎧王亀よろいおうがめ族が姿を現した。


「各自、衝撃に備えろ!」

 ミアーザの判断は早かった。


 鎧王亀族はゴーレム族よりも足が遅いものの、突破力は群を抜いている。

 何しろ、体当たりを許せば、そのまま最奥まで突き抜けていくのである。


 直後、鎧王亀族の体当たりで陣に使っていた木材がはじけ飛び、ミアーザの身体は宙を舞った。




○街道での戦い ファルネーゼ


 軍をとりまとめて、おっとり刀で駆けつけてみれば、味方は崩壊。敵の蹂躙が始まるところだった。


「全軍、このまま突撃」


 ファルネーゼはそう叫ぶや否や、自ら先頭に立って、敵軍に突撃をかけた。


 敵は驚いたことだろう。

 勝利目前で後方から現れたのが敵の軍である。


 いままで街道を制圧しつつ進軍していたのに、後方に回り込まれた形になってしまったのだ。

 すぐに反転して敵を討たねば……そう思ったようで、ファルネーゼの突撃にいくつかの部隊が反応した。だが……。


「遅い!」


 ファルネーゼが突撃したのは、自らの力を過信したからではない。

 そう足るだけの実力があるからだ。


 迫り来る部隊を蹴散らし、一直線に突き進む。

 気がついたら、敵陣を抜けて自陣までたどり着いてしまった。


 部下も同様である。

 将軍に負けじと、みな必死な形相で後を付いてきた。


「もう一度戻るか」

 往路で戦ったのだから、復路でも戦える。

 そう考えたファルネーゼは、軍をとって返し、また敵陣の中へ身を躍らせた。


 ファルネーゼが敵陣を二往復させたとき、運良く敵の軍団長の前に躍り出ることができた。

 そこでファルネーゼは、敵将を一騎打ちの末、下している。


 ファルネーゼ軍の勝利である。




「……ここは?」

 ダルダロス将軍麾下の軍団長、ミアーザが目覚めたとき、空は茜色に染まっていた。

 野ざらしというわけではなく、なにか板の上に寝かされているらしかった。


 上半身をおこし、周囲を確認する。

 戦闘は終わり、自軍とは別の者たちが事後処理をしていた。


「あれは……ファルネーゼ将軍の軍?」

 ヴァンパイア族の姿をみつけ、そう理解した。


「お目覚めですか」

 やってきたのは、ミアーザの副官だった。


「あれからどうなった?」

「ファルネーゼ将軍が援軍として参られまして、戦争はこちらの勝利。いまは戦後処理をしています」


「なんと!? 将軍みずから来られたのか? これはお礼を言わねばならないな。将軍はいずこに?」


「大事な用事があると、単身で戻られました。また、周辺の街道すべてにファルネーゼ将軍の部隊が展開しておりますので、他方面でも我が軍の勝利は疑いないとのことです」


「そうか……勝ったか。それで将軍は戻っていったと……」

 将軍が忙しい中を押して駆けつけてくれたのだと分かった。


「ダルダロス将軍に連絡は?」

「入れてあります」


「ではせめて、我々の職務を果たすとしよう」

 街道の安全を確認しなければならない。これは夜通しかかる作業となろう。


 ミアーザはそれでも敵と戦うよりかはマシだろうと立ち上がった。




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