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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第3章 小国哀歌編
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○エルスタビアの町 ファルネーゼ


「王城から使者がやってきただと?」

「緊急だそうです」


 ファルネーゼはすぐに使者と面会した。

 場所はファルネーゼの執務室。


 同じ部屋に兵士はいない。文官がひとりいるだけだ。


「どうした? 何があった?」

 使者の切羽詰まった顔を見て、嫌な予感が頭をよぎった。


「ダルダロス将軍から、ロウスとクルルの両方は受け止められないと、王城に連絡が入りました」


 いまは、二国の侵攻を将軍ひとりに任せてしまっている状況である。


「そうかもしれんな。現状はどうなっている?」

「自国内ですので、防衛は容易です。強固な陣を各所に築いて防衛中とのこと。ただし、押し返すには戦力が足らないと。また、長引けば撤退もやむなしと報告を受けています」


 耐えることはできるが、それだけ。じり貧ということだ。

 敵戦力を考えれば、致し方ない事かもしれない。


「それでも今は、侵攻を受け止めているのだな」

「はい。ただし、いくつか抜けてくる部隊もあるようです」


 敵は複数のルートを利用して侵攻している。

 当然、目が届かないルートもあるだろう。敵が丁寧に侵攻ルートを教えてくれるわけではない。


 国土はそれほど広くないため、抜けられた場合は直接王城に到達される可能性が高い。


「城へ到達した敵部隊はいるのか?」

「二部隊がやってきましたが、いずれもアタラスシア様が迎撃に出て、蹴散らしています」

「そうか。それはよかった。ただ、今後も増えそうだな」


 抜けるルートがあると分かれば、敵はそこを突いてくる可能性がある。


 副官のアタラスシアが王城に詰めているかぎり、滅多なことはおきないと思うが、ネヒョルのこともある。

 王城で迎撃するよりも、もっと別の場所に陣を敷いた方が良いとファルネーゼは考えた。


(……それだと、結局迎撃に出るのと変わらなくなるか。いっそ、レニノス領へ張り付かせているツーラート将軍を戻させるか)


 難しい選択を迫られるとファルネーゼは思ったが、ここで安易に判断を下し、選択を間違えてしまうと大変なことになる。


「他に報告は?」

「ダルダロス将軍は、クルルからの侵攻を止めるために出陣しました」


「将軍自ら前線に出るか。いよいよ尻に火が付いたな」

 前線に出てしまえば、他の部隊への指示は出せなくなる。


「ファルネーゼ様には、ロウスの軍を後ろから襲撃してもらいたいとのことです」

「ロウス軍か……」


 ゴーランからの話もあったが、いまロウス軍はこの町から近い場所にいる。

 ダルダロス将軍も、それをアテにしてクルルの軍の迎撃に出たのかもしれない。


「魔王トラルザードからの援軍が到着してから動くつもりだったが、それでは間に合わんか?」


「ダルダロス将軍の見立てでは、そろそろ限界であると」

「そうか……」


 ダルダロス将軍がクルル軍との戦いに赴いたことで、ロウス軍の動向が把握できなくなっている。

 ここはなにを置いてでも駆けつけた方がよいのかもしれない。


 もしファルネーゼが向かわねば、最悪敵の本隊が防衛戦を抜いてくるかもしれない。

 そうすると敵の大軍が王城に到達してしまう。


「……仕方ないか」


 トラルザード領から味方となる部隊がやってくるとしても、あと数日はかかる。

 それをアテにしてここにいては、間に合うものも間に合わなくなる。


「出撃いただけるのでしょうか」


「ああ。客のもてなしは家の者に任せることにしよう。それより早くしてほしいのだろう? ロウス軍のルートを教えてくれ」

「は、はい! 敵の侵攻ルートはこちらにあります」


 使者は地図を差し出した。

 そこには敵味方の予想される勢力図と、これまで戦っていた場所などが書き込まれていた。


 地図の内容を読み解くと、ファルネーゼの眉間に深いシワが寄った。

 この町からたった一日半の距離にある場所で、かなり危険な戦いをしているのだ。


「両軍の数はこれであっているのか?」

「確認とってあります」


 こちら側がかなり寡兵のようだ。四分の一くらいしかいない。

 ダルダロス将軍も慌てるわけだとファルネーゼは思った。


 なにかあれば、一気に押し切られてしまう戦力差である。

 いまも絶望的な戦いを繰り広げているのかと考えると、いてもたってもいられなくなった。


「使者が王都からこれを持ってきたということは、戦場が移動していると仮定して……後方で陣地を構築しつつ、脆くなった陣を放棄して撤退戦……いまはこの辺かな」


 この戦い、敵は兵の損耗を避けているからこそ、踏ん張っていられる。

 本気の戦いは王城でと決めているのだろう。


 一緒にいた文官は、ファルネーゼの言葉を書き留めていく。


「よし、軍をまとめてすぐに出立する。……そうだ。ついでにレニノス領への監視は半分にして、残りを王都に帰還するようツーラート将軍にお伺いをたてろ。もしそれが叶うならば、ツーラート軍が王城に現れた時点で、王城にいる我が軍の半数は、ダルダロス将軍の援護にかけつける」


 ファルネーゼは文官にそう伝え、執務室を出て行った。


 トラルザードからの援軍をファルネーゼが迎え入れる手はずになっていたが、それは叶わなくなった。


「みな、私は出撃する。あとは頼むぞ」

 屋敷の者たちにそう伝え、ファルネーゼは兵を集めるため、庭に出て行った。




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