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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
13/359

013

 おれは目を開いた。

「……出てくんのは久しぶりだな」


 自分の身体を眺め、周囲に目を向ける。


「おいおまえら、その鉄棒を貸せ」

 受け取ったそれは、あまりに細く頼りない。


「ないよりマシか」

 出てきたのはおよそ二年ぶり。


 俺(・)の方がバカみてえに器を広げやがって、おれ(・・)が出てくるだけで身体に負担がかかるじゃねーか。


 今だって長くいられやしない。

「……急ぐか」


 呆けたように動かない敵。

 俺は間合いを詰めて、伸びた鼻を鉄棒でぶん殴った。

 一撃で鉄棒はひん曲がり、使いものにならなくなる。


「きっ、貴様……その魔素量は!?」


「オイッ、次だ!」

 鉄棒を放り捨て、新しいのを受け取る。


 もう一度殴ったところで結果は変わらないだろう。

「貴様、その魔素量はなんだというのだ。聞いているのか!」


「知るか、ボケ!」


 おれと俺は、会話ができない。

 だがある程度の記憶は共有できる。


 俺はもと人間で、人間の器しか持たなかったから死にかけた弱いやつ。

 おれはオーガ族で、長時間表に出ると身体が耐えられない強いやつ。


 俺が器を広げれば、おれの器も広がる。

 二種類の器だからそうなるんだと、俺の方は納得しているらしい。よく分からん。


 ただひとつ分かっていることは……。


「ぐちゃぐちゃうるせえよ。こっちはデカ過ぎて、身体に収まりきらなくて、イライラしてんだよ!」

 鉄棒を敵の鼻っ面に突き刺した。


 続いて、上あごと下あごを鉄棒で縫い止めてやった。

 これで無駄口を叩けなくなったはず。


「……さて、時間がねえことだし、暴れさせてもらうぜ」

 身体を共有している手前、おれが身体を壊すと俺も困るだろう。


 目の前のコイツ、魔素量はおれより多いが、その辺は誤差だ。

 おれの記憶には、俺が日々鍛錬している格闘技とか、剣術とか、棒術とか、そんなものが入っている。


 詳細はよく分からんが、有用そうな動きだ。

 それを使わない手はない。


「オラァ、次の鉄棒をもってこい……いや、全部寄越しやがれ!」


 集まった十を越える鉄棒を抱える。


「さあ、狩りを始めようじゃないか」

 楽しいなあ、オイ。


 おれは不敵に笑った。


          ○


 俺は目をあけた。

「これはまた……」


 戦塵が舞い散った後の戦場は、ひどいありさまだった。

 屍がそこかしこに散乱している。


 敵の屍が多いのは、こちらが勝ったゆえか。

「いや……軍の規律をちゃんと作ってないからだろうな」


 ボスが殺られたあと、敵軍は大混乱だった。

 今まで戦っていた敵兵が急にオロオロしだし、弱兵に早変わりした。


 ボスは一番強い者がなるため、そのボスがやられたら、自軍で相手を倒せる者は誰もいなくなったと思うらしい。


 戦場で部隊長が死んだら、軍団長が次の部隊長を決めないと、いつまで経っても兵はこのままだ。

 それが分かっているからこそ、仲間たちは勢いづいているのだ。


 なんかもう、軍隊ではなく野盗の集団にしか見えなくなってくる。


 敵は陣地を捨てて撤退。仲間の半分は勝ち馬に乗って追いかけていった。

 その際、負傷者は置いていかれる。健常な者ほど我先にと逃げていくからだ。


 生き残った敵に嬉々として止めを刺していく仲間たち。

 止めを刺せば、ほんの少しだが自分の器が広がる。


 つまり、魔素を溜め込める量が増えるのだ。

 彼らがとどめを刺すのを躊躇(ためら)う理由はない。


「この光景を見ると、本当に世紀末(ヒャッハー)の世界だな」

 俺が知っているフィクションの世界そのままだ。


 俺は膝(ひざ)の上に片肘をついて、これからどうしようかと考える。


 いま俺が腰掛けているのは頭だ。

 大牙族の頭。


 巨大な身体が俺の尻の下で屍を晒している。

 何しろ俺に意識が戻ったとき、この状況だった。


「仲間たちは恐れて近寄ってこねえし……」


 記憶はある。あるだけだが。

 身体は俺ではなく、おれが使用していた。


 なるほど、同じ身体を使っても、結果がこうも違うのかと見せつけられた気分だ。


 次々と大牙族の身体に鉄棒をぶっ刺し、とどめは頭蓋へ垂直におっ立てた。

 思い返してみても、戦慄するような戦い方だった。


「……やべっ、足が痙攣(けいれん)しはじめたか」


 身体がそのままで、体内を流れる魔素量だけが増加した弊害だ。

 魔素量が増えれば、肉体を巡る魔素だって増える。これは止められない。


 身体の細胞ひとつひとつがいま、悲鳴を上げている。

 その中でも酷使した部分は、魔素が余計に使われる。


 必然、故障しやすくなる。


「まあ、俺はほっとかれそうだし、しばらくこのままでいいか」

 敵陣は落としたし、敵の部隊長も殺せた。


 これ以上働けとは、誰も言わないだろう。


 俺は大牙族の屍に背中を預けた。

 頭上に十を越える鉄棒が乱立しているのが見えた。


「……本当に、どうしようかね」


 戦場であるまじきことだが、俺は目を閉じた。

 身体がクタクタなのだ。


 敵は逃げ去ったし、味方は怖がって近づいて来ない。

 だったら少しだけ寝かせてもらおう。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 二重人格はちょっと、、
[一言] 二重人格系かぁ…。
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