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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第3章 小国哀歌編
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 俺たちは移動途中、戦争に巻き込まれたものの、それ以外は何も問題がおきなかった。

 予定より四日早く、エルスタビアの町に着くことができた。


 すぐにファルネーゼ将軍の屋敷に向かった。

 二度目なので、道も分かっている。


 屋敷はとても広く、庭に百人が入ってもまだ余裕があった。


「みな、よくきてくれた」


 将軍はまず、部下の百人を労ってくれた。

 こういう細やかな気遣いができるから将軍として人を導けるのだろう。


「ゴーランも引率ごくろうさま。道中、変わったことはなかったかい?」

「ありましたよ。ダルダロス将軍の軍とロウスの軍が戦っているところに出くわしました」


「ほう。ゴーランが通るルートだと……それなりに国の内部になるな。そこまで侵攻されていたのか。これは私も早く戻らないと拙いかな」


「いくつかのルートに別れて侵攻しているようでした。俺が出会った道は、たまたま部隊長クラスしかいなかったので、何とかなりましたが」


「ということは戦ったんだな。そのわりには、みな平気そうだけど」

「後ろから本陣に襲いかかりました。あとは部隊長をウチの部下が倒したので、戦闘自体はすぐに終了しています」


 あれがもし、軍団長が率いている部隊だった場合、それなりの被害が出ただろう。

 ヨレヨレの部隊を引き連れてメラルダの所へ向かったら、何を言われるか分からない。

 あそこに軍団長がいなくてよかった。


「ロウスの国は少し前まで戦争していたからな。十分な戦力を揃えられなかったということもある。もともと小魔王国の中ではそれほど大きくないこともあって、単独で戦えば、わが国が負けるはずはないのだし」


「それでも今回は時期が悪いですね。だからこそ同盟を組んで攻めてきたのかもしれませんけど」


「そういうことだ。ゴーランが早く来てくれたおかげで、私も予定よりも早く王都に戻れそうだ」


 俺の部隊が魔王トラルザード領へ行けば、同じように向こうから部隊がやってくる。

 ファルネーゼ将軍は、それを連れて王都に向かう手はずになっていた。


「いま王都の守りはどうなっています?」

「副官のアタラスシアに任せてある。私がいなくても十分防衛戦を張れる立派な副官だよ」


「それは安心ですね」

 将軍がそこまで言うのならば、実力は確かだろう。


「では早速、私が揃えたメンバーを紹介しよう。ゴーランが来たときに伝令を出してある。そろそろやってくる頃だ」


 今回、俺たちの国は二百名の部隊を出す。

 俺の部下が百名で、将軍が百名用意することになっていた。さて、どんなのが来るのやら。




 屋敷の外が騒がしくなった。

「うん、始まってるな」


 ファルネーゼ将軍が呼び寄せた者たちが到着したのだろう。

 そして、俺の部下が屋敷の庭にいる。


 つまり……。


 入口の扉が破壊されて、ゴロゴロと何かが転がってきた。

「……まっ、いつものことか」


 新顔がいる → メンチを切る → 殴る


 これがオーガ族の通常運転だ。


「何なんだ、一体!?」


 将軍が執務室から慌てて出てきた。

 手に書類を持っていることから、決裁の途中だったのだろう。


 ひっくり返って目を回しているのは、意外なことにヴァンパイア族だった。

「おそらくですが」

「うん?」


「俺の部下がじゃれた(・・・・)んだと思います」

「………………」


 非常にうさん臭い目で見られた。

 俺は変態ではないので、ゾクゾクしたりしない。


 将軍と一緒に外に出ると、ちょうど三人目が空高く打ち上げられたところだった。

 いい笑顔で拳を振り抜いたのはサイファ。駄兄妹の兄の方だ。


 こういう場合、妹が大人しくしているかといえば、そうではない。

 視線を彷徨わせると……いた。


 すみっこで関節技をかけている。

「あれ、痛いんだよなぁ……」


 うつ伏せになった相手の下半身が反っている。

 エビ反りではなく、もう少し凶悪な技。サソリ固めだ。


 ちなみに他のオーガ族も乱闘しているので、ベッカが目立っていることはない。


「なんなんだ、これはーっ!!」


 ファルネーゼ将軍の叫びに全員の動きがピタリと止まった。

 甘いな。俺ならば、その間に二人は沈める。


 乱闘した連中を集めて話を聞いてみれば、流れは俺が予想したとおり。

 オーガ族はそういう「お約束」を外さないのだ。


 ちなみにオーガ族に怪我人はなし。

 俺が鍛えただけのことはある。その中でも選抜したことで、平均的な戦力は並のオーガ族を軽く凌いでいたりする。


 一方、乱闘に巻き込まれた方はというと……。


「なかなか壮観だな」

 包帯をまいて、出血した部分に薬を塗っている。


「それは嫌みか、ゴーラン」

「いえ。現実を直視したまでです」

 結構酷い有り様なのだ。


「……まあいい。順番が逆だが、紹介しよう。これが私が集めた百名だ」


 将軍が選んだ百名は、こんな感じだ。


ヴァンパイア族 十名

デイウォーカー族 五十名

ルガルー族 四十名


 ヴァンパイア族は死神族と同じく上位種族だが、集められた十名は若者たちだ。

 未熟者と言えば分かりやすいだろうか。

 次代を担うと言えば聞こえがよいが、現時点ではものにならない連中。


 デイウォーカー族は、ヴァンパイア族の下位互換となる。

 中位種族となるが、中位種族はピンからキリまでいるので、評価は避ける。

 一応希望を募って、選抜したらしい。


 そしてルガルー族。

 彼らはヴァンパイア族に従う連中というのが一番正しい。

 狼の顔をしている種族だ。


 日本でいうところの狼男だろうか。

 ただし、月夜に変身するわけではない。変身しっぱなしだ。


 ルガルー族は戦士たちの中から選抜したという。

 期待が持てると将軍は言っていた。


 ただしベッカにサソリ固めを決められて泡を吹いていたのが、ルガルー族をまとめている男なので、お察しのような気がする。


 なんにせよ、これで二百名全員が揃った。




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