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終わってみれば呆気ない戦いだった。
すでに敵に戦意はない。
ボスと戦おうと思ったら、終わっていた。
そんな感じだ。何かの片鱗を味わった気分だ。
「リグたちを呼んできてくれ」
手近なオーガ族のひとりにそう伝え、俺は味方の部隊がいる方へ向かった。
そっちも戦闘は終了しているらしく、事態を収拾させている最中だった。
「俺は部隊を預かるゴーランだ。そっちの隊長はだれだ?」
途中で声をかけると、奥から黒いマントをなびかせた髑髏男がやってきた。
顔だけがガイコツで、身体は普通に血肉があるタイプ。スケルトン族とは違う。
彼は魔法を得意とするスカル・シャーマン族だ。
「私が部隊長のイニッヒだ」
黒マントと節くれた杖を持つ姿に、子供の頃にみたアニメを思い起こさせた。
(こんな悪のヒーローみたいなのがいたな……はははははっと笑うやつ。名前は、なんだっけか)
そんなことを考えていると、イニッヒは深々と頭を下げた。
「ゴーランよ、手伝ってくれて感謝する。どうにも数の不利は否めなかったのでな。どうしようかと悩んでいた所だった」
「ふむ。現状を知らせてくれるか? 俺たちはファルネーゼ将軍の町に向かう途中なのだ」
「どこまで知っている?」
「二カ国が同時に攻めてきのと、ダルダロス将軍が軍をふたつに分けて迎撃に出た所までだな」
「そうか……いまこの周辺は侵攻してきているロウス軍を押し返すために、どこも戦場になっている。全てのルートで押し返すのは難しいが、抜かれると王城までの道が出来てしまう」
「分かる」
「このルートは私が押さえに向かったが、こちらは一部隊、向こうは三部隊と数に差があってな。時間稼ぎをしている所だった」
このルートに敵の軍団長はいない。ただし、三人の部隊長がいたらしい。
敵は一部隊だけ出撃させ、イニッヒはそれを迎撃している最中だったのだという。
「一部隊だけ? 全軍でくれば蹴散らして終わりだろうに」
なんでそんな悠長なことを?
「ああ、私たちは先に強固な陣を作ったのでね。敵は被害が出るのを嫌ったのだと思う」
最初、イニッヒたちは陣の中に籠もって出てこなかった。
三部隊で陣を攻めたとしても、強固な防護陣を崩すのは難しく、しかも狭いために全軍が戦えるわけではない。
このあとの戦いを考えても、兵力を温存したい。
そんな思惑があったようだ。
そこで敵は考えた。陣に籠もっているのならば、引きずりだしてやろうと。
三部隊で襲いかかれば、陣の中から決して出てこない。
だが一部隊ならばどうだろう。
陣を挟んで部隊どうしが睨み合っていた場合、余った二部隊がここを無傷で通過してしまう。
それを避けるためには打って出て戦わなくてはならない。
「なるほど。それで敵が増援を出してきたら陣に籠もると。要するに陣を挟んで戦いの駆け引きをしていた感じだな」
双方とも勝利条件が違うことが原因か。
そこに俺たちが参戦したらしい。
後方に控えていた二部隊に突撃をかけ、部隊長ふたりを倒した。
本陣を攻められ浮き足だっていた部隊は、イニッヒがここが正念場と攻め立て、犠牲を出しながらも部隊長の撃破に成功。
残った者たちの戦意がなくなったことで、勝利が決まったらしかった。
「このままだったら、じり貧になっていた。本当に助かった」
出撃してくるのは一部隊だけとはいえ、敵はローテーションできる。
出撃しっぱなしで補充のできないイニッヒたちが潰れるのは時間の問題だったようだ。
「お役に立ててなによりだ。俺たちは先に進むが、後始末を任せていいだろうか?」
「ああ。こんな時に移動するんだ。重要な任務なんだろ?」
「そうだ。この国の命運が掛かっているかもしれない」
「だったら行ってくれ。ここは私たちで何とかする」
戦意を無くした敵兵は武器をとりあげているので、滅多なことはないだろう。
「じゃ、済まんが、先に行かせてもらう」
リグたちと合流して、もとの道に戻った。
「ねえ、ゴーラン。もう終わりなの?」
「そうだぜ、まだ敵が残ってたじゃんか」
「だまれ駄兄妹。目的を達したからもういいんだよ」
「えー、全員倒すまでが戦争でしょ?」
「家に帰るまでが戦争だぜ」
「どこでそんな言葉覚えたんだよ!」
なんて物騒なやつらだ。
しかも俺の獲物を取りやがったし。
今回、敵も兵を割いたことで事なきを得たが、あそこに軍団長がいたら、また違った結果になっただろう。
「しかし……この国の内部まで入られているな」
本当に急いだ方が良さそうだ。
ダルダロス将軍の軍にばかり負担がかかっているのもよくない。
俺たちは道を急ぎ進んだ。
その後は何事もなく、無事ファルネーゼ将軍の町に到着した。
日数に余裕を見たことと、道中急いだことで、期日より四日早く着くことができた。
この四日がこの国の運命を変えることになる。
「……といいなぁ」




