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他国の侵攻に対して、わが国の迎撃はどうなっているのだろうか。
俺が思うに、いまこの国で余裕のある部隊は、ダルダロス将軍のところだけだ。
「リグ、飛鷲族からもう少し詳しい話を聞いてくれ」
「どの辺りを聞けばよろしいでしょう」
「敵の規模とこちらの対応だな」
「分かりました」
その間に俺は他の連中をまとめる。
総勢百名。部隊の規模としては少ない。
「まあ、魔界は数で押すより、強力な奴を中心に周囲を固めた方が効率がいいからな」
どう説明すれば分かりやすいだろうか。
メダカをぞろぞろと引き連れた一匹のコイと、コイとフナの群れが戦う感じを想像してもらえば分かると思う。
勝利条件は明確で、敵大将の撃破だ。
メダカの群れを蹴散らすフナたち。その後にあるコイ同士の一騎打ち。
数は重要だが、それがすべてではないのだ。
俺たちは飛鷲族の到着に合わせて出発する予定だったため、準備はできている。
「物資も揃っているし、武器や防具も問題ない。士気は……高いようだな」
往来で武器を振り回している奴がいる。士気が高い以前の問題だな。
とりあえず地面を何度かバウンドするくらい殴っておいた。
「ゴーラン様、詳細が分かりました」
「リグか。早かったな」
「敵の侵攻は、もう何日も前に行われたようです。状況はあまりよくないですね」
リグに頼んだのは敵の規模とこちらの対応だ。
敵の規模だが、ふたつの国がそれぞれ将軍クラスの部隊を派遣してきたらしい。
「メラルダの軍が国境近くに張り付いているってのに、よくやってきたな」
メラルダの部隊はロウスとの国境近くにもいるはずなのだが。
魔王トラルザードの国と国境を接していないクルルを除いて、他の三つの国境近くに、メラルダの軍が見え隠れしているはずである。
小魔王国としては、かなりのプレッシャーになっていると思ったのだが。
「トラルザードの国が攻めてこない確証でもあったのでしょうか。わが国は、南の小魔王国群をそれほど警戒していなかったので、侵攻に気付くのが遅れたようです」
侵攻は予想外だったのだろう。俺も予想外だった。
しかも監視の目が緩んでいる場所をうまく突かれたようで、気付いたときにはかなり国内に入られた後だったらしい。
王城に話が行くまで時間がかかり、そこからようやく迎撃となる。
北のレニノス領ばかり気にしていたツケがまわって来たような感じだ。
「それで迎撃については?」
「ダルダロス将軍が軍をふたつに分けて、迎撃に当たっているようです」
飛鷲族がここに話を持ってきた段階で、すでに戦闘は始まっている可能性が高いらしい。
「軍を二つに分けたのか?」
なんて無謀な。
「ファルネーゼ将軍は王城を離れられませんし、旧ゴロゴダーン将軍の軍はレニノス領付近に常駐したままですので」
「……そうだったな」
このあと、ダルダロス将軍が北征する予定だった。
そのとき旧ゴロゴダーン将軍、つまり今のツーラート将軍と部隊を交代することになる。
現実的に考えれば、動けるのはダルダロス将軍しかいない。
ゆえに二国を相手に戦うしかないが……。
「釈然としないな」
ファルネーゼ将軍が王城を開けて救援に行ったらどうだろうか。
いや、駄目だな。
「王城が手薄だとバレた時点で、少数でやってきてそのまま占領される」
ちょっと使えない手だ。
「これはわが国存続の危機ですね」
「ああ……これ以上ないくらいヤバい」
打開策はあるだろうか。
そもそもこの国は複数の国相手に戦って勝てるだけの戦力を有していない。
魔王トラルザードと同盟を結んだとはいえ、それは互いの利益になるからこその同盟であり、今でさえこちらの立場が弱い。
これ以上の「お願い」をすれば、同盟に値しない国と思われかねない。ならば……。
「ゴーラン様、どうされました?」
「すぐに出発する」
「はい?」
「俺たちが一刻も早くトラルザード領へ向かえば、それだけ国が助かる確率があがる」
「それはどのような理由でしょうか」
「一日でも早く、部隊を交換させるんだ」
メラルダとの約定には、交換する部隊を戦力として使っていいとある。
つまり、強力な部隊がアテにできるのだ。しかもすでに了承を得た状態で。
「すぐに出立するぞ。道中は駆け足だ。それで二日早める!」
そうと決まればぐずぐずしていられない。
リグに全員を集めさせた。
「急な話だが、予定を早めることにする。文句はあるだろうが従ってほしい。それと道中、急ぐこともあるかと思う。各自、心しておくように」
「「うぃーっす!」」
「「ハイッ!!」」
オーガ族とそれ以外で返事が違うが、それはいつものことだ。
俺たちは早歩きでファルネーゼ将軍の町を目指した。
街道を移動すること二日目。
昼の休憩時に、先行させていたコボルド族が慌てて戻ってきた。
「街道の前方、草原のあるあたりで戦闘しています」
それは、この国に侵攻してきた敵軍と、迎撃に出たダルダロス将軍の軍がぶつかっている知らせだった。
「もうここまで来ているのか」
敵の侵攻は、想像以上に素早かった。




