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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第3章 小国哀歌編
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「おう、戻ったぞ」

「お帰りなさいませ、ゴーラン様。なにやらお疲れのようですね」


 副官のリグが出迎えてくれた。

 こっちは、急いで村に戻ったばかりで息が切れている。

 リグの方は、相変わらず落ちついている。


 数日だが村を開けていた不安が、リグの態度で霧散していく。


「一昼夜走り通しだった。ちょっと休みたいな。その前に編成の方だが、どうなっている?」


「すでに出来ております。ファルネーゼ様より追加で申し送りがございましたので、そちらも反映させております」


 将軍から追加で何か来たようだ。面倒でなければいいが、リグが反映させたというくらいだから、問題ない部類だったのだろう。


「将軍の申し送りと編成したリストの両方を見せてくれ」

 リグから資料を受け取って眺めてみると、なんとなく将軍の意図が分かった。


「これは……鍛えてほしいということかな」

 将軍からは飛鷲ひじゅう族を編成に組み込むよう、書いてあった。


 といっても部隊長のビーヤンとは違い、軍とは無関係な生活をしていた飛鷲族のようだ。


 そもそも飛鷲族は、戦闘能力が乏しいと考えられている。

 まして飛鷲族の素人など、いきなり軍に組み込んでもまったく使えない。


「ファルネーゼ将軍がメラルダ様に確認をとりましたところ、こちらから供出する軍は、訓練が主体となるようです」


「他国の軍を鍛えるのか?」

「実戦配備するよりかはマシと判断されたのかもしれません」

「……それはそうかもな」


 部隊の交流は、こちら側にメリットしかない。

 向こうは貴重な軍を貸し出す。それだけだと外聞が悪いので、反対に俺たちも部隊を出す。


 だが、向こうからやってくる戦力と違い、俺たちの総合力は大きく劣る。

 やってくる戦力の後釜に、俺たちを据えるのは無謀。


 かといって遊ばせるわけにもいかない。


「……新兵と一緒に鍛え直される感じかな」

「かもしれませんね」

 まるで戦力になりませんと言われた気分だが、実際にそうなんだろう。


 一万の中から戦える者を十選ぶのと、百の中から十選ぶのでは違いすぎる。

 兵たちにとっては屈辱的だろうが、ここは甘んじて受けるしかない。


「それで編成された連中は……ふむ、こんな感じか」


 リグが選んだのは、オーガ族が二十名、死神族が五十名、飛鷲族が二十名、コボルド族が十名の計百名。

 これにファルネーゼ将軍が用意した百名を入れた、総勢二百名が俺たちの総戦力となる。


 ここの百名は、はっきり言って弱い。

 上位種族は死神族だけという体たらくだ。


「まあ、運用次第で何とかなるだろうが、向こうにはいい顔されないだろうな」

 魔王トラルザード側の認識では、オーガ族は肉の壁、飛鷲族とコボルド族は非戦闘員扱いだと思う。


 舐めてるのか? と難癖つけられても、謝ることしかできない布陣だ。謝らないけど。


「それでいつ出発できる?」

 最初の目的地は、ファルネーゼ将軍は治める町となる。

 そこで他の部隊と合流して国境を越える。


 移動は徒歩なので、なるべく余裕を持っておきたい。

 できれば、移動途中で俺が訓練を施したいくらいだ。


「明日、飛鷲族の一団がやってきますので、明後日には出発できます」

「明日出発すれば間に合うな」


 この辺の調整はリグに任せておけばいい。うまくやってくれるだろう。




 翌朝、予定より早く飛鷲族がやってきた。

 話では午後になるということだったが、急いだようだ。


「これは幸先がいい」

 こうやって早め早めの行動を心がけてくれると、俺としても助かる。


「……って、思っていたんだけどな」

 早くやってきたのには、理由があった。


「これは拙いですね」

 リグは頭を抱えている。俺もだ。


「うん? ゴーラン、どうしたんだ?」

 サイファがやってきた。相変わらず脳天気な声だ。

 少しだけイラつく。


 リグが慌てて、俺の顔を見る。

「飛鷲族が情報を持ってきたんだ。リグ、話してやれ」


「よろしいのですか?」

「どうせすぐに知れ渡る」


「分かりました。……小魔王クルルおよび小魔王ロウスの軍勢が、わが国に攻め入ってきました」


「おっ、戦争か?」

 楽しそうだな、サイファ。


「そうだ、戦争だよ。二国同時侵攻で、こっちが受けて立たねばならん」


 これは拙い。

 小魔王レニノスを倒さんと準備を進めているところに、他の小魔王国からちょっかいをかけられたのだ。


 しかもクルルとロウスが同時に侵攻ときた。


「ゴーラン様、あの二国は裏で繋がっているでしょうか」

「繋がっているだろうな」

 そうでもなければ、同時侵攻なんてできやしない。


 つい最近まで、クルルとナクティ、ロウスとルバンガが手を組み、四国入り乱れての戦争をしていた。


 仇敵どうしがこの国に同時侵攻してきたとするならば、四国が一時的にも手を組んだことを意味する。


 いまこの国は小魔王レニノスと戦争中だ。

 これで四国がこの国を狙ってくれば、五国同時に相手をしなければならなくなる。


「こんなときに国を離れるのか、俺たちは」

 トラルザード領にいる間に国が無くなったなんてこともあり得る。


「非常に拙い状態ですね」

「ああ、唯一の救いは、レニノスとファーラが直接対決していることだけだな」


 レニノスはいま、ファーラ軍と大激戦の途中で、南に軍を派遣する余裕がない。

 だがそれは、ただの気休めでしかない。


 地力のあるレニノスが形振なりふり構わなくなったら、軍を分けて俺たちの国を併呑しにやってくるだろう。

 そうなったら勝ち目がない。


「…………参ったな」


 正直、これから先、俺たちの国がどうなるのか、まったく予想できなくなってきた。





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