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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第3章 小国哀歌編
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 グーデンに言いたいことはまだまだあったが、時間も限られているし、なにより本人がすべて覚えられないと言っている。


 中途半端な話をするくらいならば、あとでコボルド族からフォローさせた方がいい。

 実際、グーデンはこれまでも部隊長を務めてきたのだ。


 戦術以外は信用して大丈夫だろう。そう、戦術以外は。


「じゃあ、俺は戻るが、もしネズミが増えたと感じたら、かならず触らずに駆除してくれ」

「がっはっは、分かった。任せい」


 これで一通り回るべきところは終えた。

「本当は見晴らしの丘にも行きたかったんだけどな」


 見晴らしの丘はここから少し遠い。

 歩くと数日かかる。


 町は復興して、樹妖精族も戻ってきているはず。

 チェリーエント族のじいさんのことを聞きたかったが、今回は俺の個人的な動機で寄り道する訳にはいかないな。


「国を離れるのがもっと早く分かっていたら、先に寄ったのだが」


 じいさんたちは年が明けないと目覚めない。

 その頃になったら一度訪れようと思っていたが、どうやらそれは叶いそうもない。


 グーデンと別れて、俺は大急ぎで赤いネズミが出た村へ急いだ。


 村までの道中、なぜ病原菌を持ったネズミが出たのか考えてみた。

 ラミア族が持ってきたか、連れてきたのかと最初は考えたが、彼らが生きたままの病原菌を持ったネズミを持ってくるはずがない。


 罹患したら自分たちだって危ないのだ。しかも、ネズミが発生したのはラミア族がやってきてからかなり日数が経っていた。


「そもそも自分たちの住処の近くでそんなことをする理由はないしな」

 原因がラミア族であるならば、俺に赤いネズミの存在を教えるはずもない。


 となると、偶然ラミア族がいた場所からやってきたのか、最初からこの付近にいたのか。


「以前と今で違うことといったら……」

 この国は、長い間戦争を経験してこなかった。


 つい最近、はじめて他国から攻め込まれた。

 ここから歩いて数日の場所にある見晴らしの丘で、二度の攻防戦が行われた。


 この辺の村からも多数のオーガ族が参加した。


「戦争が原因ということもあるか」


 たとえば、もともと病原菌を持っていたネズミが山にいた。

 だがそれは山の奥深くにいて、村には出てくることがなかった。


 人知れず発症し、死んでいく赤いネズミの存在は知られることはなかった。

 だが、戦争によってネズミを取り巻く環境に変化が訪れた。


 見晴らしの丘周辺にいた動物が逃げたとする。

 野犬や狐、野兎などは魔界にもいる。


 奴らが戦争を嫌って山を越えて逃げた可能性はある。


 すると、逃げた先で獲物を探さねばならなくなるが、そこにいた大量のネズミたちはただ餌となるのを享受するだろうか。


 そんな訳はない。やはり逃げるだろう。

 自分よりも凶暴で身体の大きな敵から逃げるには、山を下りるしかない。


 そうして村にネズミが増えたが、その中に病原菌を持ったものもいた。

 理由としてはそんな感じではないだろうか。


「いま、魔界中で戦争しているよな」


 ここと同じように、生態系の変化がおきて、未知の伝染病が蔓延った例もあるかもしれない。


「これもまた、戦争の犠牲のひとつなのか?」


 直接的、間接的に戦争は人の暮らしを奪っていく。

 魔界でもそれは同じなのかもしれない。




「いま戻った。ネズミはどうなった?」

 赤いネズミが出た村に着いたので、その辺の若者に聞いた。


「ネズミはたくさん捕まったっす」

「そうか、どのくらい駆除できた?」


「数えてないっすが、かなり数が多いっす」


 今まで気にも留めていなかったが、いざ捕獲してみると結構な数がいたという。

 探してみるとやはり目に付くのだという。


 思ったよりも多いので、すべてのネズミを駆除できるか分からないという。


「そうか……ほかにいい罠はあったかな」


 水を入れる桶を全て使ったようだ。

 罠だけで六十以上設置してあるという。


 そして言いつけ通り、決してネズミには触らず、そのまま穴に桶の水ごと入れているらしい。

 数が多いようなので、罠を増やしたいが、桶の数が足らない。


「水が漏れるようなのは使えないしな」


 落ちた先でネズミが死んでくれないと、脱出されてしまう。

 そうするとネズミが学習してしまって、次は引っかかってくれない。


 ふとみると、空き地に罠に使おうと思って集めたが、使えなかったものが積み上げられていた。

 かごが多い。編み目になっているが、ネズミが逃げるような隙間はない。


「これをうまく使えないだろうか」


 水は張れない。空の籠に落としても、足をかけて逃げられてしまう。

 いっそ籠に蓋でもしようかと考えていたら、ひとつ思いついた。


「古典的だが、これがイケるかも」


 籠をひっくり返して、つっかえ棒をする。棒には細い紐を結わいてその先を手で持つ。

「籠の中に餌を入れて、ネズミが食べに来るのを隠れて待っていれば……」


 ネズミが中に入れば、紐を引くだけだ。

 試しに引いてみたら、すっと籠が落ちた。


「よし、このやり方をやってみよう」


 昼間はどこかに隠れているネズミも、夜は餌を探して出てくるはず。

 オーガ族は少しくらい寝なくても大丈夫。交代で、隠れて紐を引く役をやらせよう。


 急遽、紐引き罠の設置を決めた。集めた籠は、大小あわせて五十。


 それをネズミが出そうな場所に設置して、紐を引く連中は隠れてもらう。

 これを一晩やってみた結果、紐引き罠に七匹のネズミがかかり、効果があることが分かった。


「これも続けていこう」


 そう思った矢先、体調の悪い者が出たと知らせが入った。




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