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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第3章 小国哀歌編
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 俺はラミア族が住む洞窟に向かった。

 彼らの場合、「住む」よりも「棲む」だろうか? いや、それは失礼か。


 なんというか、彼らは文化的な生活をしていなさそうなので、棲息しているというイメージが強い。


 ラミア族は半人半蛇の身体を持つので、通常の生活は難しいだろう。

 そういう意味では「棲む」もあながち間違いではないかもしれない。


 それはいい。なぜ俺が彼らと知り合ったかといえば、小魔王メルヴィスの支配を受けていない種族がいると、俺が調査に向かったのが始まりである。


 ラミア族のテリトリーは、洞窟内と外の池と湿地帯周辺。

 それならばと、洞窟内に棲みつくのは黙認すると伝えた。


 何かあれば、住処を守るために力を貸してくれるかもしれないと思っている。


「あれでも強力な種族だしな」


 あの後、俺はラミア族について調べてみた。

 するとちょっとシャレにならない力を持っていることが分かった。


 意外なことに彼らは魔法が使える。水魔法に適性があるようだ。

 そういえば、外の池と洞窟内の湖が地下で繋がっていて、行き来できていたなとあらためて気がついた。


 そう、彼らは水中でも呼吸ができるのだ。


 そしてオーガ族と同じく、ラミア族も魔素を身体強化に使えている。

 強力な肉体を持つのだ。

 蛇の下半身はほぼ筋肉でできており、それに魔素による補正が加わる。

 巻き付き、締め付けなどされると、オーガ族でも危ない。


 湿地では素早く移動できるし、水の中を泳ぐのも得意。砂地も問題ないらしい。

 なかなかにマルチな性能を持っていると思う。


 そして極めつけは毒。

 なんとラミア族は体内で毒を生成できるらしい。蛇と同じだ。


 血液を凝固する毒であるため、噛まれるとかなり危険だ。


 この世界、血清や解毒薬のたぐいはほとんど存在せず、気休め程度に消毒作用のある葉っぱを揉んで患部に塗ったり、飲み込んだりする程度である。


 そのレベルの処置で、血液を凝固させる毒をどうにかできるとは思えない。

 噛まれないことが第一だ。


「上位種族にはあまり毒が効かないんだっけか」

 上位種族くらいになると、毒すら受け付けないらしい。


 体内で異物を感じると無効化するか、排出するのだ。

 それを聞いたとき、「なんてチートな!」と思ったものだ。

 なんでもありだな、上位種族。




「……さて、ここだったな」


 洞窟の入り口についた。

 あとは中に入って、ラミア族と対面するだけだ。


 いまだ小魔王メルヴィスの支配を受け入れてないのは、理由があるはずだ。

 それは聞いていない。聞いたところで何とかできるわけでもないし。


 そういうわけで、ラミア族は現在、敵とは言わないまでも、中立の立場にいる。

 いつ気が変わって俺を襲ってくるか分からない。気を引きしめていこう。


 ゆっくりと洞窟内を進むと、柵がこしらえてあった。前はなかったので、最近設置したのだろう。


「なにかトラブルでもあったかな?」


 ここに来る前に、他のオーガ族の村にも寄ったが、ラミア族から襲撃を受けたことはないという。


 俺は共存は無理でも棲み分けは出来ると俺は考えている。

 その話を聞いて、ホッとしていた。


「この柵……破壊するのも拙いよな」

 不意の接触で互いに不幸な結果にならないよう、柵はラミア族が設置したものかもしれない。


 柵は洞窟の壁に埋め込むようにして、丸太と板が交互に縛り付けてある。

 考えあぐねた末、板をいくつかを外し、隙間から俺は中に入ることにした。


 しばらく歩くと水音が聞こえてきた。

 ラミア族がいる証拠だ。


「俺はオーガ族のゴーランだ。話があって来た」

 足を止めてそう怒鳴ると、洞窟の奥で俺の声が反射して戻ってきた。


 激しい水音がいくつか聞こえたあとは、シーンと静まり返ってしまった。

「ふむ……行ってみるか」


 しばらく待ってから奥に進むと、一体のラミア族が水辺で待っていた。

 他の姿はない。おそらく水中に隠れているのだろう。

 この辺の警戒心の高さは前と同じだ。


「久し振りだな。ダルミア」

 そこにいたのは、前回俺と話をしたラミア族のダルミアだった。


 以前会ったときと同じ、上半身にはピッタリと密着した水着のようなものを身につけていた。


 調べた今だから分かるが、あれは水中に生える草を編んだものだ。

 淡水の中に生えているが、昆布に近いものだと俺は予想している。


 それを編み込んで着ていると、水中でも動きが阻害されないばかりか、すぐに劣化しないらしい。


「ダルミアは変わりないか。他の種族を襲ったり、だれかに襲われたことは?」

「ない」


「そうか、それはよかった。今日は話があって来たんだ。話を聞いてくれ」

「分かった」


 ダルミアの瞳孔がキュッと絞られた。

 これは俺を注視しているのだけど、間近で瞳を見るとかなり怖い。


「俺はしばらく村を出ることになった」


 戦争に行くとか話せればいいのだが、小魔王メルヴィルの支配を受けていないラミア族にはやはり、その話は聞かせられない。


「どのくらい?」

「ちょっと分からない。長くなれば一年ということもある」


 魔界は長寿な種族がいるせいか、時の感じ方がみんなバラバラだ。


 他の種族と話していて、「この前、隣村と争って」なんて聞いたから、そんなことあったかなと思ったら、数百年前の出来事だったなんて話もある。


 俺にとって一年は長いが、ラミア族にとってはどうだろうか。


「一年は長いな」

 やはり、そう思うのか。俺とあまり感覚が違わなくて良かった。


「その間、この辺の村はすべて別の者に任せることになると思う。ここの事も話しておくから、それは安心してくれ」


 ただし、俺とは連絡がとれなくなる。

 その部分だけは理解してもらいたい。俺はそう告げた。


 それと、俺がいなくなっている間に周辺の種族と争いを起こしてほしくない。


「分かった」

 返事は素直だ。本当に分かっているのか不安になるが、前もダルミアと話したときは同じ感じだった。


 ちょっとぶっきらぼうな喋りだったので、不安に思ったものだ。

 それでもこうして他の種族と軋轢をおこすことはなかったので、信用しても大丈夫だと思う。


「何か困ったことがあったら、村にいるコボルド族を頼ってくれ。ちゃんと伝えておく」

「分かった」


「…………」

 大丈夫だよな。本当に。


 ラミア族がなぜここに来ているのだろう。

 安住の地を求めてのことだとは理解できるが、問題はどうして今までの住処を捨てたのかだ。


 追われたのか、自ら去ったのか。

 他種族に追われているのか、いないのか。


 隠れ住んでいる感じから、なんとなく触れて欲しくないのだろうと思ってそのままにしてきたが、いつか問いただす時が来るのだろうか。


 本当は強引に支配を受け入れさせるか、それが嫌ならば国から追い出すくらいしてもいいのだが、どうしてもそういう気持ちになれないのだ。


「俺からの話は以上だ」

 これで次に会うのはいつになるだろうか。


 そんなことを思っていると、ダルミアが音を立てずに近寄ってきた。




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