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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第3章 小国哀歌編
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 足下で何かがガラガラと崩れ落ち、おれは口を開いたまま固まった。

 と思ったら、両膝をついてうなだれていた。いつの間に?


「ゴーラン、これオイシイよ~」

「なあ、これ。喰っても良かったんだよな。もう遅いけど」


 ベッカとサイファの陽気な声が耳に入る。

 土産を勝手に喰われていることも気にならないほど、俺は動揺していた。


 部隊を交換させるというのだから、てっきり今回戦う将軍の部下から選ばれると思っていた。

 待機要員から出すはずはないと勝手に考えていたのだ。


「どうしたの、ゴーラン?」

 さすがに不審に思ったのか、ベッカが顔を覗き込んできた。


「ちょっと……いやかなり心労になりそうな報告を受けてな。それより、土産はどうだ? 美味しかったか?」


「うん。すごく美味しかったよ」


 果物を四個買ったはずだが、四個ともない。

 みれば、ベッカとサイファが二個ずつ食い終わっていた。


 勝手に喰うのは構わないが、全部喰うことはないだろ。

 俺だって楽しみにしていたのに。


 呑気に味の品評会をやっている駄兄妹をみて、コイツらは絶対に連れて行こうと固く誓った。


 気を取り直して、リグとペイニーにも土産を渡すことにする。

 リグに細工した木箱、ペイニーには日傘だ。


 ふたりとも恐縮していたが、俺が日頃の感謝の印だと言って、強引に受け取らせた。

 勝手にむさぼり喰った駄兄妹とえらい違いだ。



 そして夜。

 リグと二人だけになったときに、詳しい事情を聞き出した。


「すでに決定事項のように扱っていた印象を受けました」

 俺が城を出るときには、まだそんな段階まで行っていなかった。


 土産を買うなどの寄り道をしたし、ゆるゆると街道を歩いて戻ってきたのだ。

 その間に城の方で決めたのだろう。


「送る部隊についてなにか言っていたか?」

「部隊を編成して連れてくるようにとだけ。ただし、メンバーが決まったら、連絡を欲しいそうです」


「ということは、物資は将軍の方で用意してくれるのかな」


 村に余分な蓄えはない。

 戦争に行くならば、それに見合った物資が支給されるか、これはそれとも違う。


 自前で用意しろと言われたら、いろいろ困っていたところだ。


「他になにか気づいたことはあるか?」

「ゴーラン様が到着なさっていないのを知っていたように思います。直接私のところへきましたし、ゴーラン様を探す素振りもありませんでした」


「……なるほど」


 俺が城と村を歩いて移動しているのは、ファルネーゼ将軍も知っている。

 伝令は騎獣に乗ってきたのだろうし、俺よりも早く到着するのは可能だ。


 ただし、村に入って俺の所在を確認しなかったり、俺の帰りを待たず、副官のリグに言付けただけで帰還していることから、俺がいない方が事が上手く運ぶと考えたのだろう。


 なんとなくだが、フェリシアの入れ知恵のような気がする。

 将軍は面倒でも筋を通そうとするタイプだ。


 フェリシアは過程より結果を重んじる。

 ぐだぐだと言い合いをやって、何度も使者が往復する労を嫌ったのではなかろうか。


「命令ならば、従うのは確定だろうしな。……まあいいか」


 俺が村にいたら文句のひとつもあったし、ゴネるくらいはしていたはずだ。

 それを見越したのだろう。


 将軍に会ったら、盛大に文句を言ってやろう。




「さて……これから先だが、どうするかな」


 部隊を編成して行くのはやぶさかでない。

 だが、懸念材料がいくつかある。


 それをどうするかだが、やはり俺がやるしかないだろうな。


「リグ」

「はい、何でしょうか」


「兵を選抜してくれ。長期の遠征になることを伝えて、しばらく戻って来られない、それでもいいと言う者たちだけを集めてほしい」


「分かりました。数についてはいかがしましょうか」


「集まった中から決めればよい。最終的な選抜は俺がするから、そのことも話しておいてくれ。俺は少し村を出るから、連絡がつかなくなると思う。できるか?」

「かしこまりました。問題ありません」


 リグは言われたことを忠実にこなしてくれる良い部下だ。

 仲間集めもきっと上手くやってくれるだろう。


「では頼むぞ」




 この国は戦争に巻き込まれている。


 今までどの国も恐れて攻め込んでこなかったと聞いたが、こんな小国を落とすのに多大な戦力を使って、多くの犠牲を出すのは、割に合わないと考えたのではなかろうか。


 だが、世界は混沌の様相を呈してきており、俺たちも無関係ではいられない。

「まず、あそことあそこに行って話を通さねえとな」


 メラルダが告げた期限は、三十日後。

 俺が村に帰るまでに五日かかっている。土産を買うのにゆっくりしたのも響いている。


 軍をファルネーゼ将軍の町まで向かわせるのに十日を見ておくとして、残りは十五日。

 そこから国境を越えたり何なりするのに五日くらいかかるだろうか。


「村を出るまでの猶予は十日間か。なにげに少ないな」


 軍を編成して出発できるようにするのに十日間しかないのは厳しい。


 明日から俺が村を離れるとして、七日間ほどで戻った方が良さそうだ。

 移動だけでもそのくらいかかるので、かなりタイトなスケジュールになると思う。


「……ったく、初めから城にいる連中の中で部隊を選抜しておけばよかったものを」

 愚痴のひとつも言いたくなる。


 王城から帰ってきたばかりだが、またすぐに出かけなくてはならない。

 本当に、人生はままならないな。



 翌朝早く、俺はみなが寝静まっている時間帯に村を出た。


「最近、一人旅ばかりだ」

 これでは独り言ばかり多くなってしまう。


「はぁ、憂鬱だ」


 俺の気持ちとは裏腹に、雲ひとつない青空が広がっていた。




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