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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第3章 小国哀歌編
110/359

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 夜会が始まった。

 絢爛豪華な室内に着飾ったご婦人たちが「オホホホ……」とやっているアレを想像したが、少し違った。


 ドレスを着ている女性は皆無。みな質素なものだ。

 テーブルに料理が並べられているし、ふんだんに使われているのは、上質な油を使ったランプ。

 まるで日中のように明るい室内は、この会場がとても贅沢な空間だというのが分かる。


「獣脂の匂いがしないのはいいな」


 俺の村だと、野生動物の油に混ぜ物をしたろうそく(・・・・)が使われている。

 煤が出るのと、獣の匂いがするので俺はあまり使いたくないしろものだ。


「ゴーラン。その姿、似合っているぞ」

 ファルネーゼ将軍が俺の肩をポンと叩いて笑いやがった。


 俺は白のシーツをスッポリと被せて、頭だけ出したような服を着ている。

 周囲の有象無象はみんな同じ格好だ。


 将軍職にある者は軍服、文官は縦縞のやはり俺と同じような服を着ている。

 どうやらこれが正装らしい。


「以前城に来たときは、革鎧で良かったんでしたけどね」

「そういえばそうだったな。あれからまだそれほど経っていないというのに……いやはや、最近は激動だな」


 この国だけで軍団長が出奔して、将軍のひとりが亡くなっている。

 まあ、出奔した軍団長――ネヒョルは、見つけたら俺は殴るつもりだが。


「それでメラルダ将軍はいずこに?」

 今日の夜会の主賓だろうに、姿がみえない。


「しきたりでな、主賓は我々が全員揃ったところで迎えることになっている。登場はまだ先だな」


 この夜会。主催はファルネーゼ将軍となっている。

 ゆえに会のはじまりからここにいて、采配をふるっている。


 それで偉くなさそうな者から順に出席するため、俺はこんな早い段階からいなくちゃならない。


「フェリシアはどうするんです?」

「呼ばん。あれは存在を秘匿する方が価値が上がるからな」


 軍師がいなければ、戦いのときに敵は舐めてくる。

 策にはめて勝利を得るには、その存在を匂わせない方がいいらしい。


 戦争の切り札として使いたいようだ。


 各将軍が抱えている軍団長が入ってきた。

 俺はだれがだれだかよく分からない。


 それと城の文官たちの中に、ときどき種族が分からない者がいる。

 魔界に転生してからの十七年間、村を訪れる商人や狩人、旅人などからできるだけ知識を仕入れてきたが、それだけでは限界がある。


 とくに種族については、教えてくれた人の偏見が入っていたりするので、実際に会って言葉を交わしたほうがわかり合えたりする。


 そういうわけで、この夜会を利用して声かけを行っているのだが……。


「…………」

 無視されることも多い。


 どうやら、俺が着ている服が底辺の位を表すものらしく、色が付いていたり(強い)、柄が入っていたり(頭がいい)すればまた違ったのだろう。


「それと、オーガ族だからだろうな」

 はっきり言って、オーガ族は脳筋として名高い。


 どうして久し振りに開かれた夜会で、脳筋と名高いオーガ族と話さなきゃならないのかと思われたのだろう。


「そういう相手と親しくしてもしょうがないしな」

 俺は諦めることにした。


「ゴーラン、将軍たちがやってきたぞ。紹介しよう」

「はい、お願いします」


 俺に話しかけてくれるのはファルネーゼ将軍だけだ。

 主催だというのに、その細やかな心遣いに涙が出てくる。


「ツーラート、彼が私の直属のゴーランだ。あの時の戦いで、ファーラ軍とレニノス軍を翻弄した猛者だよ」


「紹介にあずかりましたゴーランです。過大な紹介をされましたが、一介のオーガ族と思ってください」

 そう自己紹介して、軽く頭をさげる。


「あの作戦については俺も聞いている。その前にあった丘での戦いもだ」


 ツーラート将軍はサイクロプス族。

 本来は無口なようで、これだけ話すにも実は時間がかかっている。


「ツーラートは、ゴロゴダーンに並ぶ力持ちでな。今度ゴーランも一戦してみたらどうだ。そういうの好きだろ?」


「はあ、では機会がありましたら」

 俺はそんな戦闘狂ではないのに、ファルネーゼ将軍も冗談がうまい。


 その後、いくばくかの話をしたが、ツーラート将軍は言葉少なに返すだけだ。

「口下手でな」

「いえ、構いませんよ」


「ならば次は拳で語り合おう」

「……はい」

 戦闘狂がここにいた。


 ツーラート将軍との会話が終わり、ホッとしていたら、漆黒の翼を持ったカラス天狗みたいなのがやってきた。

 飛天族のダルダロスだろう。


「やあ、ダルダロス。楽しんでいるか?」

「このような席を楽しめるようでなければ、部下はついてこんさ」


 事前に集めた情報からも、ダルダロス将軍は部下に慕われ、実直な性格から他の将軍からも信頼されていることが分かっている。


 ファルネーゼ将軍との話を聞いているだけでも、他者への気配りがよくできていることが分かる。

 多くの者を従えるには強さだけでは駄目だと思わせる。見習いたいものだ。


「あれは……カリスマかな」

 一番似つかわしい言葉を探していたら、ふっと口を突いて出た。


 ちなみにネヒョル軍団長の場合、話せば話すほど「うさん臭い」と思ったことを考えると、俺の評価もそれなりに当たるのじゃないかと思える。


 魔界の住人は、面従腹背が苦手……というか、思っていることが顔や言葉に出やすいのだと思う。

 上に立つ者ほどそれを隠す、もしくは偽るのに長けている。そんな気がする。


 ダルダロス将軍とは、軍議もどきの会話を続けていたら、ファルネーゼ将軍がやってきて、肘で突っついてきた。


「主賓が登場するぞ」


 コボルド族が急に慌ただしく動き出した。

「なるほど、メラルダ将軍の登場ですね」


 夜会はようやく本番を向かえようとしていた。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] ネヒョルは元軍団長では?
[気になる点] ツーラートはトールトロルから進化したのですか?
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