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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
11/359

011

 大牙たいが族は魔獣種に分類される。

 人型をとることはなく、常に四つ足で行動する。


 賢狼けんろう族の強化版と考えればいいが、ちょっと勝てるビジョンが思い浮かばない。


 俺が魔界で鍛えてきた戦闘技術は、日本の格闘技をベースにしている。

オーガの力を効率よく発揮できるよう、自分で修正を加えたものだ。

 元々が対人格闘術なので、獣用にはできていない。


「罠に誘い込んでって訳にもいかねえしな」


 魔獣の一種とはいえ、ただの獣とは大きく違う。

 ちゃんと知性もあり、会話だって可能なのだ。


 敵は周囲を睥睨へいげいして俺に狙いを定めた。


「まさかと思ったが、貴様がここの部隊長か?」

「そのまさかだぜ。お茶でも出してくれるってのか?」


「少人数で攻めてきたと思ったら、こんな小者が部隊長とは我らを舐めてくれる」


 それは俺も同意だ。冷遇されているんじゃないかって思うくらい、こっちは人が少ない。

 だがそれを敵に言われると腹が立つ。


「ここを攻め落とすんだぜ。このくらいがちょうどいいだろ。いや、少し多いか?」

 俺がせせら笑うと、大牙族の顔が憤怒ふんぬに染まった。


 どうしてこう、魔界の連中ってのはあおり耐性が低いのか。

 日本の掲示板デビューは程遠いぞ。


「そのような大口は、我を倒してから言ってみよ!」


 向こうはやる気だ。

 といってもここで戦う選択肢以外は残されてない。


 俺は手に持った鉄棒を強く握りしめた。

 人が獣と戦う場合、武器の有無が生死を分ける。


 ないよりはマシ程度だが、これは俺の命をつなぐ大事な生命線だ。


 そんなことを考えていたら、仲間が三体、敵に向かっていった。

「おい、やめろ!」


 制止したが間に合わない。

 爪の一振りで二体のオーガが三つに引き裂かれ、合わせて六つの破片になった。

 もう一体は噛みつかれ、首と胴体が別々の方へ飛んでいった。


「……武器を持っていても変わらねえかも」

 正確に魔素量を量れないのが悔しいが、敵の部隊長の魔素量はネヒョル軍団長よりやや少ない程度のはず。


 軍団長クラスと戦うと、こうも圧倒的なわけか。

 敵陣を落とす以前に、俺の命が風前の灯火になってしまった。


 だが、みなを守るためにはやるしかない。

「てめえらは手を出すな!」


 俺が大声で言うと、今にも襲いかかろうとしていた仲間たちの足が止まる。


「その意は見事だが、実力が伴っておらんな。我ならば、全員を一度に相手したところで毛ほども疲れはせんよ」


 たしかにそうだろう。そのくらいの実力差はある。

 魔界でなぜ下克上がもてはやされるのか。


 それは決して下の者が上の者を喰えないからだ。

 実力差がある相手に奇跡は起こらない。


「……って言われているけど、ようは戦い方が単純なだけなんだが」

 正面から殴り合ったらそりゃ、番狂わせは少ないだろう。


「ではいくぞ」

 敵が跳躍してきた。


 テレビで見た、虎が獲物を補食するシーンのようだ。

 両前足で身体を掴み、一気に牙を立てるつもりだろう。


「へっ!」

 スライディングで躱し、奴の後ろ足を鉄棒で思いっきり殴りつけた。


 ――ギイン


 束ねた針金を殴ったような感触だった。筋金すじがねが入っているってやつか?

 俺のフルスイングでも、かすり傷ひとつ与えられなかったぞ。


「無駄だ」


 やせ我慢している風でもない。ということは、渾身の一撃が効いてないことになる。

 これはヤバい。


 跳躍して避けられたからだろう。

 今度は大地を踏みしめて突進してきた。


(受けたらはね飛ばされるな)


 四つ足の状態でも俺より背が高いのだ。

 あの突進ならば、大型ダンプすら軽く蹴散らせそうだ。


「こなくそっ!」


 握りを変えて、バンザイをする。

 いま鉄棒にぶら下がるような格好になっている。


 左右に避けたところで、爪にひっかけられるか、踏みつぶされて終わりだ。

 棒高跳びの要領でジャンプして空中に逃げたが、まだ足らない。


「はっ!」

 俺をかみ砕こうと大口を開けたところに鉄棒をはめ込んでやった。

 これはさすがに予想外か。


「ががっ!!」


 口が閉じられないで焦ってやがる。

 すかさず俺は顔にとりつき、目玉を引き抜こうと手を突っ込んだ。


 グチュっとした感触があったが、目玉を潰す前に振りほどかれた。

 驚いたことにヤツの爪が擦っただけで、俺の背中にバカでかい傷が走った。


 背中から足に大量の血が流れ出しているのが感じ取れた。

「……こりゃ、やべえかも」


 その間に奴は、俺がはめ込んだ鉄棒を咀嚼して吐き出しやがった。

 こうまで力量差があるのか。


 取り込んだ魔素量の差が絶対的である以上、簡単に番狂わせができそうもない。


 そもそもこの魔素というのは何なのか。

 常々俺は考えている。


 俺ら魔界の住人はだれでも、体内に支配のオーブというものを持っている。

 臓器とは違う異質なものだ。


 そこは魔素を溜める役割をしつつ、体内に魔素を巡らせる役割を担っていると俺は考えている。


 つまり魔素をたくさん持っているということは、支配のオーブがたくさんの魔素を溜めておけることと同義であり、身体にたくさんの魔素を巡らせて、強い力を発揮できる仕組みなのだと。


 魔素が少ない者は、多い者に勝てない。

 これは真理だ。


 では単純に魔素が多くなれば、その相手に勝てるのだろうか。

 その答えはひとつ。


「このままじゃ勝てそうにねえな」


「ふん。勝てる見込みがあるような言い方だな」


「あったらどうする?」

 俺は挑発するように言って、少し距離を取った。



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