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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第3章 小国哀歌編
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「お久しぶりです、メラルダ殿。オーガ族のゴーランです」


 ファルネーゼ将軍に続き、会談の場に臨んだ俺は、以前会ったときと同じ姿形のメラルダと対面していた。


 メラルダの服装は相変わらず、古い時代の日本の着物のようだ。


「おお、久しいの。われが名を覚えているオーガ族なぞ、お主くらいのものよ」

「それはそれは……お礼を申し上げた方がよろしいのでしょうか」


「といっても、他にオーガ族の知り合いもいないがの」

「なら当たり前だろっ!」


 思わず突っ込んでしまった。

 メラルダはケラケラと笑っている。怒ってないようだ。


「昨日はファルネーゼ殿と話をしたが、堅苦しくていかんの。お主が来てくれて助かったわい」

 ファルネーゼ将軍が苦笑している。


「昨日はさんざん脅しておいででしたのに、どういう風の吹き回しか」


「終始かた苦しい話ばかりでは、肩が凝るだけであろう。我もせっかくここまで来たのだからな。歓迎の宴が数日続くくらいのもてなしがあるかと思ったぞ」


 いまの話を聞いて、俺はやはりと思った。


「ということは、秘匿しなくてよいとお墨付きをいただけるのですね」

 ファルネーゼ将軍の顔が「?」になった。


 一方、メラルダはニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。

「うむ。なにゆえ我がここに来たかといえば……」


「牽制につかえということでしょう」

「その通り」

 ファルネーゼ将軍にもようやく理解の色が見えた。


 これまで魔王トラルザードとの同盟は密約であった。

 お互いの利益が一致したがゆえに、可能な範囲で互いの目的を達成させるべく動く。

 そんな感じだ。


 メラルダが使者ではなく、なぜわざわざ来たのか。

 しかも将軍の町ではなく、王城にだ。


 その理由は、これまで軍を国境付近に派遣できなくなったのを伝えるとともに、両国は密接な関係があることを知らしめて、少しでも有利に働かせろと、裏から手助けしてくれたのだ。


「魔王はただ強いだけではなれぬのじゃ。強さに貪欲は当然。他をいくらでも喰らわねば、魔王にはなれぬ。ゆえに魔王どうしの戦いは苛烈を極める」


 レニノスとファーラ、どちらかが魔王になれば、東は大魔王の領土。

 ならばかならず西へ勢力を伸ばそうとしてくる。


「西には魔王ジャニウスと魔王トラルザードがありますね。もし攻め入るんでしたら、どちらへ進むと思いますか?」


 俺としては、メラルダがどう考えているのか知りたい。


「我が主の治める国であろうな。戦争で疲弊しているのはわが国の方だし、領土が大きい分、兵が足らん」


「それと以前、魔王バロドトとの戦乱がありましたからでしょうか」

 ファルネーゼ将軍の言葉に、今度は俺が首をかしげた。


 魔王バロドトはもういない。天界からの侵攻に敗れていまは魔王不在のはず。

 複数の小魔王国に分かれて相争っている最中だ。


「そういうことじゃ。リーガードとの戦いも日に日に激しくなっており、旧バロドト領付近にも多数の兵を常駐させておる。あそこは昔からの敵国じゃしのう」


「そうだったんですか」

 魔王になったらなったで、大変そうだ。


「それに最近は、西方がきな臭い――つまりワイルドハントの阿保どもがかき回しておかしくなった。あちらの国境に沿って、かなりの兵を置かねばならんようになってしまった」


「あちこち大変ですね」


「うむ。いまのところ魔王ジャニウスの国とは敵対してないが、レニノスやファーラをわが国が襲えば、危機感を募らせるだろうな。なにしろ、ジャニウスの国の半分をわが国で囲うことになるゆえ」


 簡単にいうと、「あっちもこっちも大変だから、キミんとこだけでもうまくやってくんない?」ということだ。


「昨日の会談の内容は聞きました。兵を国境から引かせるとか。……そうすると、俺たちもかなり困ったことになるんですけど」


 戦争をやめた小魔王がこの国に攻めてくるだろう。

 それしか場所がないのだし。


「そこを蹴散らして、なんとかしのいで欲しいと思っておる」

 メラルダの口調はそっけない。


「できますか?」

 俺がファルネーゼ将軍に尋ねると、将軍は首を横に振った。


「一国だけならば耐えられもしましょう。ですが、あそこは四つの国が二つずつに分かれて戦っていました。来るとしたら連合するでしょうね」


 国を落としたあとの分配で揉めそうだが、戦争の泥沼化を恐れて停戦したらしいので、俺たちの国と戦うときも、長期化を避けようとするだろう。


 つまり、大戦力で一気に決着をつけに来る気がする。


「そうさせないためにも、国境付近に兵がいてくれると助かるんですが」

「それについては、本当に申し訳ない。どうにもできんのだ」


 メラルダは魔王麾下の将軍。

 自分の意見で軍を動かせるわけではない。


「何か代案とかはありませんか?」


 同盟を維持するならば、協力は不可欠。

 それが分からないメラルダではないはずだ。


「代案……か」

 メラルダはしばらく黙ったまま何かを考えるようにうつむく。


 現状わが国が生き残るには、いくつかの幸運が重ならないと難しい。


「代案は……ある」


 俺は「おやっ」と目を開いた。

 代案はないから、自分たちで何とかしろと言われると思ったのだ。


「それはなんです?」


「昨日伝えた内容は違えることはできん。我も主の命を受けて任務に就かねばならんのでな。じゃが、我の部下ならばギリギリその限りではない」


「……というと?」


「一方的に部下を貸し出しては他の将軍から何か言われよう。じゃが、部隊を交換するならば……まあ、かなり難しいが不可能ではない」





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