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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第3章 小国哀歌編
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 オーガ族の村からメルヴィスの城まで歩くと数日かかる。

 これまで俺が城に呼ばれることはなかった。


 ゆえに安心していたのだが、よりにもよってメラルダとの会談に同席してほしいようだ。

 重い足取りを引きずりながら向かった。


 軍団長ともなれば専用の騎獣がいるが、俺にはない。

 一応、将軍直属の部下なので、持ってもいいのかもしれないが……。


「まあ、歩いて済むならそれでいいよな」


 現代日本のように一分を争うような忙しなさとは無縁の世界だ。

 のんびりゆっくり行こうじゃないか。


「……遅かったな」


 着いた早々、ファルネーゼ将軍からディスられた。理不尽だ。


 言い訳しようと思ったが、「だったら騎獣くらい持て」と言われそうなので、遅刻の定番「渋滞に巻き込まれましたので」と言ったら、「なんだそれは」と返された。


 ニュアンスは伝わったようで、「まあいい」と有耶無耶になった。


「メラルダ将軍が来ると伺いましたが」

「来るではなく、来ただな」


 メラルダは俺より早く着いたらしいが、俺は徒歩だ。

 あまりその辺を突っ込むと、「じゃあ、騎獣を持て」と言われるので、そのまま流す。


「よく城に呼びましたね」

 メラルダが城内で暴れれば、かなりの被害が出る。


「同盟を結んでいるからな。それに軍事的協力もしてもらっている。来たいと言われれば、断れるものでもなかろう」

「なるほど……」


 ちょっと黒いことを考えた。同盟を結んだ後で城に乗り込み、敵を討つ。

 どこかを攻めるときに使えそうな手だ。


 実際にやったら、周辺国から非難の嵐だろうが。


「もっとも、ほとんどの者はメラルダ将軍を恐れて城に寄りつきもしないし、私が近づけたくない者は城に呼んでいない」


 強者は魔素を多く持つがゆえに、一般の者は近づかないらしい。

 それと、秘匿したい連中はあえて近づけない……俺が呼ばれるわけだ。


「俺はいいんですか?」

「おまえは……なんというか、鈍感なのか?」


 またディスられた。


「あー、そうみたいですね。相手の魔素量を測るのが苦手で」

 でも事実だ。だから相手が強大でもあまり脅威を感じることもない。


「それは……いいんだか、悪いんだか」

 ファルネーゼ将軍は微妙な顔をしている。


「気楽に生きるには、助かる場合が多いですね」

 いちいち自分より強そうだ、弱そうだとか考えたくない。


「そういうものか。それで、今日の会談はもう少ししたら始まる。先に情報を共有しておきたい」


 メラルダが到着したのは一昨日で、昨日はじめて会談をしたようだ。


「あとで話に出てくると思いますけど、今回の訪問の目的はなんだったのですか?」


 使者をたてた後にわざわざ本人がくるとは穏やかではない。

 道中、結構気になっていた。


「魔王国の方針転換を伝えに来た。向こうで戦争が活発になったようだ」

「それって……嫌な予感がしますけど」


「魔王リーガードが戦力を増強している。先日大規模な戦いがあって、双方合わせて五体の小魔王が死んだらしい」


 魔王にはそれなりの数の小魔王が配下についている。

 それでも一度の戦いで五体も小魔王が倒されるとは、どれだけ大規模な戦いだったのか。


「とすると、メラルダも戦線復帰するということですか?」


 前回、はっきりと教えてくれなかったが、戦場に投入する部隊はローテーションを組んでいるようなことを言っていた。


 そのような形式を取れるのは、戦力に余裕があるからだ。

 だが敵が戦力を増強したならば、その限りではない。


「そう考えていいと思う。……もっともメラルダは別の件を気にしていたが」

「別の件ですか?」

 敵対している魔王が戦力を増強する以外で、何を気にするというのか。


「ワイルドハントによってかき回された小魔王国群だ。いま酷い状態になっているらしい。逃げてきた一団がトラルザード領内に入り込んだりして被害も出始めているとか」


「ネヒョルですか。ここにきて祟られますね」

 誰か倒してくれないかと本気で思う。


「西方が不安定になったため、その付近へも軍をおきたいらしい。結果、東へ張り付けていた軍を撤収させたいと言いに来た」


 俺たちはレニノス領へ攻め込むために、他国からの介入を防ぎたかった。

 そのため、メラルダの軍を重しに使っていたのだが、それが外れる。


「南方の戦争が収まりかけていますよね」

「あれは来ると思うか?」


 つまり、この国に攻めてくるかということだ。


「来るでしょうね。勢力を広げるには、ここは小国で都合がよいですから。それで、どう答えたんです?」


「私一人では判断がつかないから、少し相談したいと伝えてある」

「あー、そうですか」


 頭の痛い問題だ。

 来なきゃ良かった。


 メラルダは、東に置いてある軍を撤収させる命令を受けているのだろう。

 同盟を組んでいるからこそ、こうしてやってきて事情を説明している。


 こちらが否と言っても、覆せない所まで来ているような気がする。

 魔王トラルザードの軍が睨みを利かせていたからこそ俺たちは他国へ侵攻できた。


「もうすぐ会談だが、どうしたらいいと思う?」

「できれば別の譲歩を引き出したいところですね。難しいと思いますが」


 俺たちは小国。しかも盟主は永い眠りについていまだ目覚めない。

 頼みの将軍は一人欠け、戦力的には低下している。

 他国の戦争は収まりつつあり、ここが狙われる十分な理由もある。


「メラルダも長居はできないだろうから、何か考えておいてくれ」

「……いつまでですか?」


「今日の会談が始まるまでだ」

「……今日」


 俺は天を仰いだ。



「ここはキレイな天井だな」




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