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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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 俺が国に帰ってきてから、十日が経った。


 この十日間で良いことと悪いことがひとつずつ起きた。


 まずは良いこと。

 レニノスに敗れたゴルゴダーン軍だが、部隊の損耗は思った程ではなく、部隊長先導のもと、多くの兵が帰還していた。


 残ったファルネーゼとダイダロスの二将軍が合議して、新しい将軍を選出した。

 選ばれたのは、再戦に燃える若き元軍団長。


 これによって、旧ゴロゴダーン軍が新しく生まれ変わろうとしている。


 ――新しい将軍の名はツーラート。


 トールトロル族の益荒男ますらおだ。

 トールトロル族はトロル族の亜種で、すでに種族として定着している


 ゴロゴダーンの軍には何体かのトールトロル族がいるので、意思疎通もバッチリだろう。

 老練なゴロゴダーンの後釜に若者を起用したのはいい判断だと思う。


 ダイダロスにはまだ会ったことはないが、戦争では損な役割でもしっかりと引き受けるあたり、好感の持てる人物ではないかと思っている。


 なんにせよ、小魔王メルヴィスの国は、ゴロゴダーン亡き後もちゃんとやっていけそうである。


 それだけならばまだいいが、悪い話もある。

 小魔王ルバンガの国を中心とした小魔王国群の戦争だが、それがどうやら収まりそうな気配を見せている。


「戦乱が収まれば平和になる」と言われそうだが、実はそうではない。

 四国が二つに分かれて戦っていたが、兵を引き始めたのだ。


 この四国の戦争だが、レニノスに対抗するため、周辺国をまとめ上げようと考えたのが始まりである。


 にもかかわらず、他国を支配下におくどころか、戦争で貴重な兵をどんどんと減らしてしまった。

 国力が拮抗しているため、このまま総力戦になったら、たとえ勝ったとしても内部はボロボロになる。


 レニノスにしてみれば、疲弊した小国を併呑するのは容易い。

 戦う意味がないことに、遅まきながら気づいたようだ。


 ではどうすればいいのか。

 四国の外に敵を求めればいい。ちょうど良いことに一国だけ残っているではないか。

 そう、小魔王メルヴィスの国が。


 非常に遺憾ながら、この国に攻め込んでくる可能性がにわかに高まってしまった。


 そろそろ天界からも侵攻があるのではと噂されている。

 なんともはや、とてもきな臭い世の中になってしまった。




 そしてさらに十日経った。

 なぜか知らないが、良い話と悪い話はまたひとつずつやってきた。


 まずは良い話。


 レニノスとファーラの戦いが長引いているらしい。

 双方とも引かない……というより、引けない。


 両国の激突は必至だったが、時期はまだ早かった。

 そう思われていたが、偶発的な争いから、徐々に大規模なものへと移り変わっているらしい。


 さすがに総力戦まで移行することはないが、どちらかが兵を引かない限り、この戦いは続くものと思われた。


 片方が兵を引いて、もう片方がそこに残る。

 つまり戦場での勝敗が付くことになる。


 これから周辺に覇を唱えようとしているのに、明らかに負けと分かるような撤退を選択するだろうか。

 戦いはまだ続きそうである。


 これによって、レニノスは俺たちの国に再侵攻する余裕がなくなり、一息つけたと言える。


 そして悪い話。

 こことは遠く離れた場所での出来事。

 魔王トラルザード配下の将軍、メラルダが使者を使わしてくれた。


 魔王トラルザードの国の西で、ネヒョル率いるワイルドハントが暴れているらしい。

 というか、メラルダが最初俺たちに話を持ち込んできた頃から、動きがあったようだ。


 小魔王チリルと小魔王リストリスがなんとネヒョルに倒されたという。

 小魔王二人を倒すなんて、大金星と思えるが、どうやらネヒョルは実力を隠していた疑いがある。


 王を倒された国は大混乱となり、将軍が成り代わろうと動き始め、さらなる混乱がおこり、他国がそれに介入して酷いありさまらしい。


 ネヒョルが裏で煽っているらしく、ワイルドハントが出現した後は、どの国も大混乱となるようだ。


 現在分かっているだけで、ネヒョルが暴れたのは四国。

 小魔王ユヌスと小魔王モニンの国も混乱中である。

 ここではさすがに小魔王級は倒されてないらしいが。


 ネヒョルの目的は分からない。

 メルヴィスの日記を持ち去ったことから、それに関係するのではと思われているが、動きに一貫性がない。

 だれか知っていたら教えてほしいくらいだ。


 動きだけを見れば、ただ世の中を混乱の渦中に落とし込んだだけ。

 陽動か、それともただ混乱が目的か。


 なんにせよ、どの国も警戒を強めている。

 戦争を始めたらワイルドハントがやってきたなんてことになったら、一大事である。


 作戦を考えるときも、不確定要素を入れるだけで、とたんに難しくなるのだ。

 できればネヒョルは遠くの方に行ってほしいものだが、そうはならない気がする。


 なんにせよ、ワイルドハントの情報を知らせてくれたメラルダに感謝したい。




「……メラルダが城にやってくる?」

 そんなことを思っていたら、本人がやってくるらしい。

 しかも小魔王メルヴィスの城まで出向くという。


 それを俺に伝えた副官のリグも困っている。


「前回、会談に同席したゴーラン様にも出席してほしいと、ファルネーゼ将軍からの言伝がございます」


 俺はここ最近、ずっと村にいた。

 リグがしょっちゅう出かけていっては、情報を持ち帰ってきてくれたから、なんとか情勢についていけているが、俺なんかが会談に出席しても、あまり意味は無いだろうに。


「しかし、メラルダが来るのか……この前は使者だけだったよな」


「はい。ワイルドハントの情報を伝えにきてくれました」

「ということは、それ以上の話があるわけか……分かった。すぐに出立の準備をする」


 メラルダは魔王トラルザード配下の将軍だ。

 彼女の来訪が、吉と出るか凶と出るか。


「……悪い予感しかしねえ」


 俺は天を仰いだ。


「薄汚い天井だ」




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