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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
105/359

105

 魔王ジャニウスと小魔王レニノスとの国境を進んで、小魔王ファーラの国に入った。


 そこで破壊活動をして、ファーラの軍勢をレニノス軍とぶつける作戦を立てていたが、あにはからんや、両国軍の緊張はすでにぶつかる直前まで高まっていた。


 まるで火薬庫の中で花火をする阿呆のごとく、ファーラ領の砦を攻めた俺たちは、すぐに町から来たファーラ軍から逃げ出すはめに陥った。


 レニノス領へ向かえば何とかなるとなると思い、必死で駆けていけば、待っていたのは、陣を広げたレニノス配下のトトワールの軍。


 両軍を戦わせるという作戦は成功したものの、ボロボロになってメルヴィスの国へたどり着いてみれば……。


「ゴロゴダーン将軍が戦死!?」


 ファルネーゼ将軍の言葉に、俺は絶句した。戦場で一体何があったというのだ?


「ゴーランの立てた作戦は非常に良かった。たしかにレニノスや将軍たちをバラバラに引き離すことができた。ただ、進軍したゴロゴダーンの軍と対峙したのがレニノス本人だったのだ」


「まさかそんな……」

 王本人が前線に出てきたのか?


「私もまさかそんなところに出てくるとは思わなかった。あれはおそらくレニノスの気まぐれだろうな。二度も侵略戦争で負けた腹いせもあったかもしれない。自らの手で追い返してやると息巻いたのだろう」


 俺やファルネーゼ将軍が秘密裏に国を出たことは気づかれていなかったようだ。


 将軍もまた、うまく見つからずにレニノスの城まで入り込み、そこで大狒狒族のムジュラと対面したという。


「私はあのとき、城にはレニノスとムジュラがいると考えた。レニノスがノコノコと前線に行くとは思わなかったからな」


「俺でも思いませんよ」


「小魔王を二体相手するわけにはいかない。といっても、ムジュラは簡単に倒せる相手ではないから各個撃破は無理。私はその時点で撤退を決断した」


「いい判断だと思います。戦いが長時間になれば、城内の兵も、レニノスだって城にいれば駆けつけてくるでしょうから」


「城を脱出し、安全のため遠回りして帰ってきたら、ゴロゴダーンの敗死を耳にしたというわけだ。正直驚いたが納得もした。そしてレニノスは城にはいなかったのだと、そのときようやく確信が持てたわけだ」


 ファルネーゼ将軍から、ゴロゴダーンの最期を聞いた。


 どうやら、遅延行軍しているゴロゴダーンのもとへ、大軍が押し寄せてきたらしい。

 そこで互いに陣をつくり、睨み合う。


 本来はそこから小競り合いが続き、相手が強いのか弱いのか、どんな種族がいるのかを探る時間となる。


 だが今回は違った。

 レニノスの軍が整然と陣の前に並び、そのまま前進してきたのだという。


「生き残った兵が言うには、やたらと強い敵が相当数、交じっていたようだ」


「小魔王直属の部下でしょうね。かなり戦慣れしていると思います」


 午前中から始まった戦いは、昼過ぎに均衡が崩れはじめたという。

 ゴロゴダーンは戦線を縮小させて軍を中央に寄せ、自分が先頭に立って戦ったらしい。


「そこへ現れたのがレニノスのようだ。登場しただけで他者を威圧し、そのときだけは戦場が一斉に静まりかえったという」


「そこで一騎打ちですか?」


 弱い者がいくら群れても意味がないのが魔界だ。


 倒すには、それなりの強さの者が相手をしないと、持ちこたえることすらできない。


「そうだ。しばらくゴロゴダーンはレニノスと戦い、ゴロゴダーンが劣勢になる。そこでレニノスは恭順を求めてきた」


「そこまで力量差がありましたか」


 魔界では勝ち負けのつく戦いは日常茶飯事である。

 そのたびに相手を殺していては、魔界の住人は最強の者を残してみな死に絶えてしまう。


 ゆえにある程度力量差が出た段階で、負けた方は勝った方の下についてお終いになる。

 下に甘んじた者も、力を溜めれば下克上だ。


 ただし、戦場ではそういうわけにはいかない。

 ゆえに殺し、殺されることになるが、一軍を指揮する者については、恭順を求めることがよくある。



 ――俺の下にこい



 そういうわけだ。

 これに相手が頷けば、その時から仲間となる。


 レニノスはそれで支配地域を増やしてきた経緯があった。


「ですが、ゴロゴダーンが戦死したということは……」


「頷かなかったと。最後までメルヴィス様の配下として戦い、死にたいと告げて、戦闘は継続されたようだ」


 その結果の敗死。

 ゴロゴダーンは、意志を貫いて果てた。


 負けたゴロゴダーンの配下もまた、死ぬか逃げるかする。

 ほとんどが逃げ出したそうだ。


 いまは故郷に戻って傷を癒やしているらしい。


「そういうことがあったのですか」


「作戦は成功していた……だが、相手が悪かった」

 それが結論になる。


「これからどうなりますか?」


「ゴーランの話だと、ファーラ軍とレニノス軍が激突したのだろう? だとすると、レニノスはしばらく北にかかりきりになるのではないか?」


「可能性はあります。だからこそ、もう一度攻める好機とも言えますが……」

「戦える者はいないな」

「はい」


 小国ゆえに、人材が乏しい。

 ファルネーゼ将軍クラスがあと何人かいたら、よってたかってムジュラを亡き者にして、レニノスの野望を阻止できるのだが、そううまくはいかない。


「とりあえず、亡くなったゴロゴダーン軍の編成をしないとな……」

 ファルネーゼ将軍の声は、いつになく沈んでいた。




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