表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
101/359

101

 マンティコア族は、知性のあるけもののようだった。

 考えもするし、話もできる。それでも獣の本能は押さえられないという。


「あれは戦いというより、狩りだったな」


「オレ」から「俺」に戻ったからこそ分かる。

 あの時のオレの戦い方は、狩りそのものだった。

 獲物に向かっていき、追い込み、罠にかける。


 オレの方にそんな知恵があるとは……などと失礼なことを考えてしまった。


「まったく……成長したものだ」

 日々、俺のやることを見て、感化されたとかか?


 魔素量で圧倒できなかったオレは、連打で追い込むも止めを刺すには至らなかった。

 あれ以上続けていたら邪魔が入ったか、逃げられたはず。


 そこでわざと隙を作り、反撃を許す。

 調子に乗ったマンティコア族が追い打ちをかけようとしたところで逃げ出す。

 あれはうまかった。


 獣の本能で、逃げる者は追う。

 マンティコア族が何も考えずに突進したところで反転して一撃。


 綺麗にカウンターが入った。

 そのまま止めを刺すまで攻撃の手を緩めることはなかった。


 勝敗が決してもなお、力の暴威は留まるところを知らない。

 周囲で見ていたオーガ族もどん引きのグロ映像ができあがった。


「いろんなところが原型を留めてなかったしな……うぇっぷ」


 ちょっと思い出した。

 次からはもう少し、お淑やかに殺ってほしいものだ。


 敵のボスらしき奴は倒したが、他がどうなったかというと……。


「ゴーラン、こっちも終わったよ」

 ベッカが手を振っている。


「横着するな。自分の手で振れ!」

 そこらで拾った腕を振るんじゃない。


「何体かやられた。動けねえのもいる。これからどうするんだ?」

「点呼を取ってくれ、サイファ。動けないのは背負っていく。戦局からすれば、もう一波ひとなみ来ることはないだろう。ここで様子を見る」


 すでに両軍とも総力戦に移っている。

 どうやら、レニノス軍が先に国境付近に現れたことで、ファーラ軍が警戒していたらしい。


 そこへ何も知らない俺たちが現れたと。そんな感じだ。

 魔王ジャニウスの国を通ってきたものだから、レニノス領の動きはまったく分かっていなかった。

 見つからないことだけを考えて行動したが、すでに軍を移動させていたとは盲点だった。


「ファーラ軍だって、警戒しているところへ襲撃をかけられたら、そりゃ軍を出すよな」

 町に集結していたファーラ軍があれだけ早く姿を現したのは、それが原因だろう。


 意図せず、俺たちが両国の開戦を手引きしてしまったようだ。

 盧溝橋ろこうきょうみたいか? ちょっと違うか。


 どちらにしろ、こんなに早くレニノスとファーラの思惑がぶつかるとは思っていなかった。

 これがいいことなのか、どうなのか。


 もしこの戦いに決着がついて、どちらかの国が敗れることになったら、周辺の小魔王国はこぞって勝った方へ流れるだろう。


 そうなったら、魔王誕生の流れは止められない。

 俺たちは自らの手で強大な敵を作り出したことになる。はてさて、どうなるか。


 戦場は最後の総力戦に入った。

 両軍ともこちらに兵を割く余裕はない。というか、さっきオレが倒したのは部隊長かもしれない。


 そのくらいの威圧感はあった。倒してしまってよかったのだろうか。趨勢が傾いたりしないだろうか。


「様子を見るって、いつまで見るんだ?」


「このまま逃げてもいいが、平地で戦っているせいか、兵が各所に散らばっている。もう少し待ってくれ」


 ここからトトワールがいる本陣まで二キロメートルくらいか。

 平地なので、間に障害物もなにもない。


 俺に十分な戦力があったらどうするだろうか。

 トトワールのいる本陣に突撃をかける? 無理だな。死ぬ。


「ゴーラン、なんか動いたみたいだよ」


 トトワールの本陣が動いた。といっても半数か。

 亜人種か巨人種か分からないが、本陣から出て行った。あそこまで温存していたくらいだ、相当な強者たちだろう。


 俺たちが見ていると、一番混戦しているところに向かって駆けだしていった。


「あそこ一帯は蹴散らされるな」

 両軍とも疲弊しているところへ新手が投入されたのだ。受けきれるものではない。


 そこを拠点に自軍を有利に導くか、敵陣への足がかりにするのか。

 トトワールは本気の攻勢に出たわけだ。もうこっちに目を向ける余裕はない。


「よし、引くぞ」


 このままレニノス領を突っ切って自国に帰りたいが、そうするとトトワールに追われそうな気がする。


 適当なところで国を出て、大回りでもいいから安全なルートを見つけて帰ろう。

 ファルネーゼ将軍のことも気になるし、できるだけ早く返りたいな。


「注意を引かないように、そのままの姿勢でゆっくりと後退しろ。決して走り出すなよ」


 精鋭を連れてきたが、それなりの被害が出た。軽傷で済んだのは半数くらいか。


「さて、撤退するわけだが、俺たちの任務……結果からすれば、大戦果か」


 これでファーラとレニノス間の国境地帯は、緊張状態となる。

 和平が結ばれることがないから、常に一軍を張り付かせなければならないはずだ。

 いい仕事をした。


 そのまま数百メートルほど後退したあとで、俺たちは踵を返して戦場から離脱した。


 何度か振り返ったが、追ってくる者はいなかった。




 ファーラとレニノスの両軍から見られていたため、俺たちは直接国へ帰るのを諦めた。


 行きはレニノスとジャニウスの国境付近を進んだので、帰りはその反対側、大魔王ダールムの国を通って帰ることにした。


「ついでに他の小魔王国も見てくるか」


 ダールムの国を抜けて、小魔王クルルと小魔王ロウスの国を通過した。

 最終的には、たっぷり十五日間もかけて国に戻った。


 すると、思ってもみない事態が俺たちを待ち受けていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ