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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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 戦場を逃げた。

 走って走って、走りまくった。


 息があがり、肺が悲鳴をあげた頃になってようやくオレは足をとめた。


「……はぁ、はぁ、ゴーラン……どうした?」

「ここらでいいだろ」


「何を言って? ……っていうかお前、その魔素量、いつの間に?」


 いつの間にだと? バカたれの俺が、オレに事後を丸投げしやがった時からだ。

 俺のことだ、どうせ生き残る確率が一番高いと、オレに身体を明け渡したのだと思う。


「それは間違っちゃいねえけどな」


 ここは戦場の端。

 なんとか犠牲を出さずにここまで来られた。


 本陣を見れば、そこにトトワールの姿がある。

 作戦は成功だ。ヤツがいまここにいるってことは、厄介なのはもう城にいねえ。

 ファルネーゼがレニノスを倒せば、オレたちの勝ち。


 負ければ……まあ、あれだ。みなそろって死体かレニノスの部下になるわけだ。

 死神族はあれか、後顧の憂いを無くすために種族ごと粛清されるな。


「さあて、ここからは反撃だ。おい、サイファ、ベッカ」


「おうよ」

「なあに?」


「オレの左右に来い。ペイニーは背後を頼む」

「分かりました。……それでゴーラン様、ここで何を?」


「もう被りものをとってもいいぞ。バレてる」


 オレたちが小魔王レニノスと魔素のつながりがないことは一目瞭然。

 さっきまでは戦場のどさくさで後回しになったが、オレたちは注目されていた。


「ゴーラン、こっから逃げないのか?」

「戦場からか? 足の速いのに追いつかれる」


 サイファは無茶なことをいう。

 馬よりもっと足の速い騎獣だっている。

 戦場から消えようとすれば、嫌でも目立つ。


「それじゃ、戦うんだよね~」

「当たり前だ。相手はトトワールの軍……と言っても、こっちにやってくるのは下っ端だろうけどな。喰い足りねえが、我慢しな!」


 オレを頂点として左にサイファ、右にベッカがいる。

 後ろはペイニーたち死神族が魔法を飛ばす準備に入っている。

 コボルド族は中心に入れた。オレたちが崩れない限り、生き残るだろう。


「やってきたぞ。死ぬ気で抗え!」


 敵は槍を構えたルガルー族だ。

 いまが夜じゃなくてよかった。あいつらは、月夜に変身しやがる。


 その後ろから大量にやってきたのは……蜘蛛か。見たことねえな。


扁蜘蛛ひらたぐも族だよ、ゴーラン。毒はないけど、糸を吐くよ」

「知っているのか?」


「森に巣を張って暮らしているって兄ちゃんが言っていた。あと岩と木と同じ色になって見えなくするんだって」


「なんじゃそりゃ」


 なるほど、よく見ると見かけの数倍いることが分かった。

 見落としていたらしい。オレとしたことが、戦場で気が高ぶっているか?


 たしかに地面と見分けのつかない色をしてやがる。


「よし、目の前はぜんぶ敵だ。遠慮はいらねえ。全力でかかれ!」

「「うぇーっす!」」


 ルガルー族がやってきた。

 顔だけは狼だが、首から下には体毛が生えている様子はない。

 月のない日中ならばこんなものだ。


 槍を持っているのも、自慢の爪が使えないからだ。


「来いやこらぁ!」

 金棒で相手の頭をぶっ叩く。

 血が周囲に飛び散ったのが合図となり、サイファとベッカもまた交戦が始まった。


「楽しいじゃねえか、ゴルァ!」


 サイファの金棒が振るわれるたびに、ルガルー族の死体が量産されていく。

 両手に持った金棒を縦横無尽に振るう様子を見ていると、オレより強いんじゃないかと思わせる。


「順番は守ってね~」


 次々とルガルー族の首をねじ切っているのはベッカだ。

 また一段と凶暴さが増したんじゃなかろうか。


 あいつは素手で相手を壊すのが、何よりも好きという変態だ。

 少なくともオレは素手で相手をしたくない。


「ゴーラン様、わたしたちも前に出る許可を」

 ペイニーは後ろから魔法を打っている。


「まだだ。待ってろ!」


 死神族の魔法で、扁蜘蛛族の胴体に大穴が空いていく。

 爆発ではなく、えぐる魔法を使うのは、物静かに戦う死神族らしくていい。


 大鎌サイスを使わせても一流だが、今はまだその時じゃない。


「分かりました。魔法に専念します」

「それでいい」


 オレの勘が告げている。

 そろそろデカいのが来る。


 ここは戦場の端。まだ悪目立ちしていない。

 来ている連中も雑魚が多い。数も多いが。


 ファーラ軍とレニノス軍の戦いは互角。

 勝敗がつかないくらいの戦いは一番厄介なはずだ。


 余力を残すかどうか、厳しい判断が迫られるはずだ。

 そのうち俺たちに構っていられなくなるだろう。その時が逃げ出すチャンスだ。


「ゴーラン、ヤベーのが来た」

 サイファが慌てる。


 オレたちはここではイレギュラーな存在。無視するか、早めに潰すか。

 どうやらトトワールは、潰す方を選択したらしい。


 やってきたのは、幻獣種のマンティコア族だ。

 獅子の顔に虎の足、体毛は針鼠のように尖ってやがる。尾はサソリの尾か? 毒がありそうだな。


 部隊長か軍団長か分からねえが、すげー迫力だ。

 ここが正念場と見た。


「あいつはオレが倒す。サイファ、ベッカ。ここは頼むぞ!」


「任された」

「がんばってね~」


「ペイニー」

「はい、ゴーラン様」


「前に出ろ。オレの代わりだ」

「分かりました」


 オレの残り時間は少ないが、何とかなるだろ。

 駄目だったら、「俺」の方がなんとかしてくれる。つぅか、一度丸投げされたんだ、今度はお返しをしてもいいよな。


「いくぜ!」

 オレは歯をむき出して、マンティコア族に向かって駆けだした。




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