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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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 俺がレイス族を無視しろと言ったのには訳がある。

 レイス族に物理攻撃がほとんど効かないのだ。


 ただしレイス族の方だって、俺たちに対して物理攻撃ができない。

 その代わり、レイス族の持つ特殊技能〈死人しびとの手〉が厄介なのだ。


〈死人の手〉で触れられると、ほんの少しだけ身体がマヒする。

 続けて何度も触られれば、徐々に動けなくなってしまう。


 昨日までは、そうしてロクに動けなくなったところをオーク族の槍に貫かれてしまっていた。

 本来負けるはずのないオーク族相手に不覚を取ったのは、そういう訳だったりする。


「奥だぁ! 陣の奥へいけぇ!」


 敵陣を乗り越え、中に隠れていたオーク族を粗方殲滅した俺たちは、更なる敵を求めて陣の奥深くに足を向けた。


「魔法を撃っていたのは、襤褸ぼろまとい族か」

 薄汚れた灰色のローブを頭からすっぽりとかぶった連中が、両手を天に向けて呪文を唱えていた。


 襤褸纏い族の特殊技能は〈破裂弾〉。

 遠距離専用の砲台と思えばいい。防御は紙だし、近接の攻撃力はないので、仲間の蹂躙に任せる。


「敵のボスを殺るぞ。暇な奴は俺に付いてこい!」


 この陣のどこかに俺と同じ部隊長がいるはずだ。

 そいつを倒せばこの場の戦いは終わる。


 魔界はどの国でも支配のオーブによる上下関係ができている。

 戦場で上官が死ぬと、部下たちはとたんに弱兵になる。というか逃げ出す。


 ゆえに上官は強くて死ににくい者が選ばれるわけだが、さてどいつだろうか。


「ぎゃっ!」

 仲間のオーガがここまで吹っ飛んできた。


 見たところ、周囲に物理特化な敵はいなかったが。

 敵味方が入り乱れて砂塵さじんが舞い上がり、奥が見通せない。


 仲間を吹っ飛ばした奴がこの砂塵の中にいる。

 俺は油断せずに身構えた。


 そこへぬっと姿を現したのは、巨大な四つ足の獣。

 長大な牙が上口から二本生えている。


 地球上の動物にたとえるならば、それは絶滅したサーベルタイガーに近い。

 種族名もそれに近く、大牙たいが族という。


 ロボスの賢狼族が虎サイズならば、この大牙族はゾウサイズとなる。

 保有魔素量はロボスを軽くしのぐ。昨日のネヒョルに近いくらいだ。


「軍団長クラスか?」


 そこで俺はふと思った。

 いま俺たちが戦っている国はどこなんだ?




 魔界はいま、どこもかしこも下克上の真っ最中である。

 日本で言うと戦国時代に相当する。群雄割拠するあれだ。


 フィクションの中の世紀末ヒャッハーが一番近いと思う。

 といっても救世主なんて現れるはずもなく、年がら年中争っている。


 二十年前、ここよりももっと南の方で、空に穴が開いた。

 天穴てんけつを開けて、天界から侵略者たちがやってきたのだ。俺が生まれる前の話だ。


 そのとき魔王が倒され、その支配地域が混乱した。

 天穴が閉じたあとで、将軍や軍団長たちが分裂し、それぞれが国を造って相争ったのだ。

 今では七つの国がその地にできているという。


 天界の侵攻は今後もある。そのために力をつけなければ……と、魔界中で下克上が始まってしまった。


 だからいま、どこの国から攻められてもおかしくない。

 俺としたことが迂闊だった。どの国が攻めてきたのかによって、敵のボスの強さが違うのだ。


 たとえば俺がいるこの国は、魔界の中ではかなり小さい方だ。

 面積でいうと下から何番目という感じだと思う。


 ――小魔王しょうまおうメルヴィスの国


 これが俺が住んでいる国の名前だ。

 小魔王というのは、支配の石版に名前が載っているからそう名乗れるわけで、勝手に名乗ることはできない。


 小魔王、魔王、大魔王と続き、小覇王、覇王と大きくなっていく。

 覇王は魔界を統一した者に与えられる称号なので、今後出ることはないと言われている。


 というのも、現在小覇王はただ一人しか存在せず、その者はいま時空じくう彼方かなたに飛ばされていて、従えさせる事も従える事もできないからだ。


 いまは、二人の大魔王が最大戦力を有していて、その他に八魔王が存在している。天界の侵略がなければ九魔王だった。

 あとは数十の小魔王の国があるだけである。


 先ほど述べたように、魔王や小魔王は勝手に名乗ることができない。

 支配の石版に名前が載らずに名乗っても意味がないのだ。


 支配の石版は、支配のオーブと密接に関係しているらしく、誤魔化すことができない。


 つまり小魔王になりたければ、部下を多く持ち、支配のオーブを通して力を集めるしか方法がないのである。

 下克上が活発になるわけだ。


 そしてここがややこしいのだが、支配の石版には、百を越える小魔王の名前が記されている。


 つまり、自分の国を持っていない小魔王がわんさかいるわけである。

 これはどういうことか。


 ――他の魔王や小魔王に従わされているのである。


 小魔王の国ひとつとっても、総合的な強さは千差万別で、一人の小魔王しかいない国もあれば、三人、四人の小魔王を従えている小魔王もいたりする。


 必然、小魔王に従っている小魔王たちは、その下の将軍を名乗っている。

 すると本来将軍を名乗るはずの者たちは、その下の軍団長を名乗る。


 つまり位がそのまま下にスライドすると思えばいい。

 軍団長の力を持っていても、国の大きさや保有戦力の差から部隊長を名乗っている場合があって、いま俺が対峙した部隊長のそのひとりである可能性が高い。


 この国に戦争を仕掛けた国は、複数の小魔王を従えた強い奴なのかもしれない。


「にしても、あっちの部隊長がこっちの軍団長クラスなら……やってられねえな」


 さてどうしよう。


 戦うのは俺だよな。



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