ストーカーと探偵ギルド
あらすじ:ストーキングはばれることなく成功した。これよりギルド内に潜入する!
ハーミィを追いかけて建物の中に入ると、そこは酒場でした。
おおぅ! なんかガヤガヤしてるなー。それにオッサン多いな。というか昼間から酒かー。それってどうなんだろ? この世界では普通なのかな?
おっ! あんなとこにカワイイ男の子発見! 外国の子みたいでクリクリしてて可愛いですな~。むふふ~。だいたい小5くらいかな? 一人かな? 親御さんはあの子を一人置いて酒でも飲んでるのかな? まったく許し難いな~。
後で私が話しかけに行かなきゃね!
いや~、地球だと事案になっちゃうけど、異世界ならば何も問題は無いはず! うむ、そう考えるとこの世界も中々にパラダイスかも!
あ、ハーミィもはっけーん! なんかカウンターの渋い爺と話してるなー、こっそり近づいて驚かしちゃろ!
コソコソ~……。
「……でさー、その子、宿が嫌だー! って言って私にしがみついてまでお願いされちゃったんだよね。私たちにとっちゃあ、ちょっとボロいくらいの宿だけどさ。あの子どこぞのお嬢様っぽいし、あの宿が耐えられないんだろうなぁ……私としてもあそこまで泣き付かれちゃあ、こっちに連れてきたかったけどさ」
「そうですか。しかしこの場所はギルド員以外には知られてはならない。貴族のお嬢様だと言っても、やはり少しは我慢して頂かないと。早く身元を割り出して、窮屈な宿から出してあげるべきだと思いますよ」
あれ、私の話じゃない?
でも、お嬢様ってなに? 私、お嬢様だと思われたのかな? 生まれてこの方一度もそんな素振り見せたこと無いんですけど。いや、あのボロ宿で駄々捏ねたから……?
それに私の為に色々調べてくれるのはありがたいけど、私の身元を割り出すとか無理だよねー。命の恩人? に無駄な事させられないし、そろそろ声掛けとこ。
「そうだよなー。でも一日経ってもどうしてか、どこからも行方不明の情報が出ないわ。あんなに特徴的な見た目なのに誰も見たことないわ。私たちの情報網にも引っかからないし不思議でならないね。もしかしたら長引くかもしれないから、お嬢様には悪いけどまだあの宿にいて貰うことになるな」
「だったら、やっぱりギルドに招いてお泊めするのがいいと思いますけど? ハーミィちゃん」
「いやいや、マスター説得するのは厳し……い、えっ!?」
ハーミィは声のする方を見ると、目を見開き口を大きく開けて唖然とする。これがよく言う、あんぐりとした表情ってやつだ。
私、登場っ! ハーミィちゃんいい驚きっぷりだね。ドッキリ大成功! てきな?
「ふっふっふー、ついてきちゃったぜ! ハーミィちゃん!」
親指を立ててウインクを決める。まさか、後を追ってきたなどと誰が思うだろうか。ストーカーをなめちゃあいけませんよ? ストーキング、もとい追跡は基本技術だ! 長年やってりゃもう誰でも追える! たぶん。
「え、ついて来た!? 私に勘付かれずにどうやって!?」
「ほぉ、この方が先程仰っていた?」
「う、うんこの子がナツメだよ。でもどうやってついてきた? 私に気付かれずなんて、普通は無理だぞ?」
あら? ついて来た事を驚いたかと思ったけど、なんかちょっと違うらしい。話のニュアンス的にはハーミィちゃんは追跡には敏感なのかな? 私から言えば隙だらけだったのだけど。
「どうやってって、普通に後ろをついてっただけなんだけど……」
「嘘でしょ、もしかしてA級の探偵……いや盗賊!?」
A級? よく分からんけど、たぶん違うよ。てかこの世界……アルファベットあるんだ。なんか違和感。
「んー、よく分かんないけど、一般人だと思うよ?」
とりあえず、私は一般ピーポーなので、特別扱いしなくてよいぞ! ただ衣食住を無料で提供して欲しいだけなのだ! あ、この店のウェイトレスするのもありだな~。ただ飯ぐらいは流石に居心地悪いので、フリフリの給仕メイド服を制服として着てやらんこともない。
「そんなわけないだろ! ナツメ……、あんたもしや他ギルドの回し者か?」
ハーミィがガタッと立ち上がり、ナツメを睨みつける。
うわっ、ハーミィちゃん怖い! あと近い! ボクシングの試合の最初の睨み合いくらい近い! すっげぇガン飛ばしてくるよこの子! 怖っ! 流石、初対面からオラオラ系で押してきただけの事はあるねっ!
「ハ、ハーミィちゃん、落ち着いて! 私はただあの宿が嫌だから、あなたについて行っただけなの……他意はないわ! それに私をたまたま拾ったのハーミィちゃんでしょ?」
ナツメはよく分からない疑いを何とか晴らすため、手の平を体の前で振って否定のポーズをとる。
「むっ、それも確かにそうだったな……しかし、あたしに気付かれずについて来たことが納得できねぇ。絶対に何かしたはずだ、何をした?」
ええ……そこまでストーキングに気付ける自信あるのこの子? 昔、ストーカー被害に遭ってストーカーの気配に気づける訓練でもしたの? そうだとしても私、本当にただついて行っただけだし。何かしたこと言っても……。
「み、見つからないようにコソコソ隠れながらついていった。とかですかね?」
本当にそれだけしかしてない。そろそろ信じて欲しいです。お姉さん、お話を信じてもらえなくて悲しい。ぐすん……。
「……そんなの当たり前だ、他にも何かあるんだろう、言え!」
ハーミィちゃん声大きいし怖いよぉ、うにゅにゅー……ほら、周りの酔っ払いたちが、めっちゃこっち見てるよ。
あ、さっきの男の子もこっち見てる、うん、可愛い! やっぱりショタは良いね! 心が洗われちゃう! お礼に身体を洗ってあげたい! というか、お姉さんと一緒にお風呂に入って欲しい!
ナツメがハーミィの質問攻めにあたふたしていると、カウンターでさっきまでハーミィと話していた渋い爺が話に割って入り、私に頭を下げてきた。
「申し訳ありませんナツメさん。彼女は索敵のスキルに非常に優れておりまして……素人に見えるあなたに追跡されたことが許せないだけなのです。お詫びですがこれをどうぞ」
そういって、爺はカクテルっぽい澄んだ青の液体をグラスで差し出してきた。
よく見るとこの爺、白髪だけど四十代かな? ってくらい顔が若いかも。なんかダンディって感じ? 全部白髪なんて若い頃に苦労した口なんだろうか? これからダンディな爺で、ダン爺と呼ぶことにしよう! いやいや、何言ってんだ私は、普通名前聞くだろ。
「わぁ、素敵なカクテルですね、ありがとうございます! お名前は?」
よし! 自然に聞き出せたぞ! すっごいぞ私! そういえば、普段は相手が勝手に名乗ってくるから、名前を聞くなんてここ何年もやってなかったわ。
「スカイスライマーというカクテルです。青空、そしてスライムの透き通った青を表現したもの、気に入って頂けて何よりです」
そう言ってダンディー爺はにっこりと微笑む。
あら素敵な笑顔。……じゃなくて! くっ、まさかカクテルの名前を答えるなんて!
いや確かにあの流れだと、カクテルの名前を聞いているようにも聞こえなくもない。なんて失態!
ナツメが微妙な表情を見せるとダンディーおじさまは何を勘違いしたのか、カクテルの補足を入れ始める。
「ナツメさん。スカイスライマーはスライムを表現していますが、本物のスライムが入っている訳ではないので安心して下さい。初めてこのカクテルを見て、名前を知った方はそう考える方がたまにいますからね」
いやいや、カクテルにスライム? が入ってるかなんてどうでもいいよ!? 今のは私が悪かったけども! ていうかスライムってこの世界に居るんですね。スライムはドラ○エとかでしか知らんねんけど、あのスライムかな?
「そ、そうなんですかー。スカイスライマーなんてカッコいい名前ですね! このカクテルにぴったりです! そういえば、あなたのお名前は何というんですか?」
さっきは失敗したけど、これは綺麗に名前を聞けたんじゃなかろうか。最初にカクテルの話で場が出来上がってから、相手の名前を聞く! なんて鮮やかな名前の尋ね方に惚れ惚れするね。失敗を成功に変える女、ナツメ・ヒダカとは私の事よ!
よし、あとであそこに居る男の子に試そう! きっと仲良くなれるぞー、ぐへへ~。ってそこまで大したことではないんだけど。
「失礼、私としたことが申し遅れました。私、ユベリウスと申します。このギルドではユベ爺と呼ばれておりますので、ナツメさんもそう呼んでいただければ嬉しい限りです」
「了解です。ユベ爺さん!」
「それで、ナツメさん。聞きたい事があるのですが……」
ほう、会って早々聞きたいこととは。私の趣味かな? スリーサイズかな? 性癖かな? いや、まぁ違うだろうけど……。
「はい、なんですか?」
「あなたのスキルを見せて頂きたいのですが?」
はい? スキ……ル?