ストーカーとストーキング
あらすじ:ぐっへっへ~、あの女のギルドを特定してやる~。
ナツメは部屋の扉を開いて、おんぼろ宿屋の外まで勢いよく飛び出した!
……のは良いけど、ハーミィはどこいったのかなー? んー、わからん。とりあえず背後で私の行動に驚き気味のお婆さんから話聞こう。
ナツメが宿屋から勢いよく飛び出した事で、ちょうど宿屋の入り口で掃き掃除をしていたお婆さんが少し驚いていた。が、気にせずにお婆さんに話しかける。
「お婆さん、今ここから出てった金髪の女の人どの方向に行きましたか!」
いきなりの問いかけにお婆さんは怪しい者を見る半目で睨みつけてくる。が、それも一瞬、すぐに表情を戻し客に対応するようなニッコリした表情を見せる。
「どうしましたか?」
ナツメは質問を質問で返すんじゃねえ! なんてことを少し思ったが、そんなことを言う必要もない。適当に追いかけるに足る理由を述べるため頭を働かせる。
「あー、その人私を助けてくれて、でもお礼も感謝もしてないの。だから教えて欲しいの!」
凄い必死なフリをして、教えてくれと頼みこむ。実際ここでハーミィを逃すと、この宿に何日も住むことになるのだから必死であるのだが。
だいたい、こんなボロ宿で過ごしたらマジ精神崩壊しそう! この宿の従業員でありそうなこのお婆さんには悪いけどね……。
「そうかい、その人なら宿を出てあっちの方に歩いてったよ」
そんな考えを余所に、お婆さんは「見つかると良いね」と付け足して優しく教えて頂いた。とても人の良いお方じゃないですかー。ボロ宿とか言ってすいませんでしたー! 訂正はしないけども。
「ありがとうお婆さん!」
ふっふっふー、方向が分かればこっちのもの。後は見つかるまで走ればいいだけ! まだハーミィが宿を出て時間も経ってないし、見つけるのなんて余裕でしょ!
ナツメは宿のお婆さんに教えてもらった道を走る走る。それなりの人の往来があり、店も並んでいた。ちょっとした商店街のような場所らしい。見た事の無い形の果物や、角の生えたウサギなどが店先に並ぶのを見て、やっぱり地球とは違う世界だと確信する。
凄いわー。
うわっ、店先で解体ショーなんかやっちゃって……。
あーあー、やだわー。グロ注意って書いといてよー。
おっ! リンゴ発見!
世界が違っても生えてくるんだね~。
おっ! ショタ発見!
パンなんか抱いて一生懸命走っちゃって~、初めてのおつかいかな? カワイイな~。
あ、違うわ……。店主っぽいのが凄い形相でショタを追っかけてる……。盗みかー、悲しーなー。あんなことするんなら私が養うのに……。
……はっ!
もしやこの世界なら身寄りのない子供を簡単に引き取れるんじゃない? うはっ、すっごい良い世界じゃなーい! いや、金稼いで孤児院なんか建ててもいいわね……。くふふ、夢が広がるわー。
ナツメが輝かしい未来を夢想しながら走っていると、商店街の人ごみの中で、ハーミィらしき金色の長い髪揺れるのが見えた。
「っといたいた。私から逃げようったってそうはいかないからね。目をつけられたら家まで安全に送り届ける女だぞ私は~」
ハーミィは警戒しているのか辺りをキョロキョロと見回しながら歩いている。ギルドの場所はギルド員にしか知られちゃいけないって言ってたし……誰かにつけられてたら大変だもんね! まあ、私からは逃れられないけど! ふふふ、ハーミィちゃんや、諦めなされ……生粋のストーカーからは逃れられないのだ。絶対にな!
それから数十分程ハーミィちゃんを追跡している。現在は入り組んだ薄暗い路地を進んでいる最中だ。
周りには人がほとんどいないため気付かれる危険が高いが、そこは私の長年のストーキング技術から生じた熟練された、足運びと気配の完全なる抹消により、相手が探偵だろうと幼女だろうとショタだろうと、まったく気付かれることがない。
……と過信している。
ハーミィを観察してみると、中々にいい身体……。
じゃなくて、辺りを警戒する頻度が増しているわね。そろそろギルドに着くんだろうなー。
あの控えめな胸とお尻、これで低身長だったら、幼女成分が最強で追跡行為ももっと燃えたのだけど……まあ仕方ないか。
そうして後を追っているとハーミィは少し大きく、しかし周りの建造物と同化して目立たないようなに建物に入っていく。
おっ、ここがハーミィちゃんの言ってたギルドかな? 確かに何の特徴も無い、秘密主義感出てる建物ではあるかもしれないけど。何かのお店っぽくもあるんだよにゃ~。まあ、こんな人通りの少ないとこに店を構えるなんて怪しいし、隠れ家的なお店かな。んー店の名前っぽい看板もあるけど……うん、まるで読めないわ!
私は会話は出来ても文字はわからないのかぁ。小説家として割とショック~……一からこの世界の言語を勉強しなきゃなぁ~。
まぁ、とりあえず今は文字の事は置いといて。ハーミィちゃんのギルドに入ってみよー。おー!
そう意気込んで、ナツメは目の前の建物の扉をゆっくりと開いた。