うちに来ていただけませんか?
「イザベル、お前との婚約は破棄する!」
ここはとある王国の城の王子の書斎。
ここにはイザベルと王子しかいない。
たったいま、婚約破棄が行われている。
「今後を見据えたうえでこれ以上お前過ごすなんて考えたくもない」
「……」
「俺は学園で、俺にふさわしい女を見つけた。彼女こそが俺の隣に立つにふさわしい女だ。お前なんかじゃないんだよ」
「お言葉ですが王子、それは本気でおっしゃっているのですか?」
「ああ」
「国神、アルーンに誓いますか?」
「ああ、国神アルーンに誓って俺はお前との婚約を破棄することを誓う」
「ありがとうございます。では私も誓いましょう。あなたの申し出た婚約破棄を承諾すると国神アルーンに誓います」
「ああ、よかった」
「何を言っているんだ。お前は」
「だって、私がいくら王家に文書で婚約破棄を願い出ても一向に破棄していただけなかったのです」
「は?」
「それが、あなたの一言で成立するなんて……。私は夢でも見ているのかしら」
「……」
「ああ、アルーン様。これで私は自由になったのですね」
私は非常に困っていた。
婚約者である王子に手を焼かされて……。
彼は非常に美男子だった。だが、頭が他の人よりも若干弱かった。
だから、彼は悪意を持って近づいてくる人物とそうでない人物を見分けることができなかった。
彼に悪意を持って近づいてくる人物を排除することが私の役目だった。
高等学園に入学してからも私の役目は変わらなかった。
ひたすらに邪魔ものを排除する生活。
それなのに、王子はそんなことも知らずにのうのうと生きている。
ある日、彼は私に言った。
「なぜこの俺様の婚約者がお前なんかなんだ。本当に俺はついていない」と
彼にとってはたわいのないことだったのかもしれない。
だが、昔から彼のお世話を押し付けられていた私にとってその言葉は衝撃的だった。
私のほうがついていないのだ。
彼も私もお互いに望んでいないのならばいっそのこと婚約を破棄してしまえばいいと私は考えた。
さっそく、王家に婚約破棄を願う文書を送ったもののいい返事は帰ってこなかった。
所詮、私たちは政略結婚。
どんなにお互いが望んでいなくても結ばなくてはいけない婚姻なのだ。
私はその後何度も文書を送ったがいい返事はもらえないまま諦めかけていた時だった。
うちの家に出入りしている商人からあることを提案されたのは……。
「イザベル様、お困りのようですね」
「ええ、わかるの?」
「わかりますとも。私はあなたが小さい時からこの家に出入りさせていただいているのですよ」
「そうだったわね」
「昔からよく知っているイザベル様がそんな顔をしているのをほおってはおけませんからね。どうぞ、このラプラスに何があったのか教えていただけませんか?」
昔からうちに出入りしているラプラス商会の会長、ラプラスが私に言った。
「でも……」
「私はラプラス。ラプラス商会の会長ですよ? きっとあなたの力になって見せますよ」
「わかったわ。実は……」
私はラプラスに婚約者の王子のことを伝えた。
「ああ、それは大変でしたね。でしたら、うちにいいサービスがありますよ」
「サービス?」
「そうです。人材派遣サービスです」
「……」
「これであなたの婚約破棄を成立させてみましょう。もちろんあなたの協力も必要ですが」
「そう。どんなものかはいまいちよくわからないんだけど参考までにおいくらかしら」
「お代はいただきません」
「じゃあ、何が欲しいっていうの?」
「あなたです」
「私?」
何ともきざなことを言う。
「ええ、うちに来ていただけませんか?」
「まぁ、成功したら考えるわ」
「本当ですか? 約束ですよ」
「ええ」
「では、さっそく明日からサービスを開始させていただきますね」
「まぁ、期待しないで待っとくわ」
「指示があったらそれに従ってください」
「わかったわ」
まさか、あの時ラプラスから言われたことが実現するだなんて思ってもいなかった。
「イザベル様」
「あら、ラプラス。あなたのおかげで婚約破棄成立したのよ。本当にありがとう」
「もちろんでございます。なんてったって私はラプラスですからね」
「で、お嬢様。婚約破棄も成立したことですし、考えていただけますよね?」
「ラプラス商会に入ることよね……」
そう、ラプラスと約束したのだ。
「まぁ、はい。そうですね」
「歯切れが悪いわね。でも、いいわ。私、ラプラス商会に入るわ」
「本当ですか?」
「ええ、王子と婚約破棄されて肩身狭いし」
「ありがとうございます。」
「やっと、手に入った」
ずっと狙っていたイザベル様。
幼いころから聡明で可愛らしい女の子。
そんなあなたが我がラプラス商会に来てくれる。
本当は嫁に来てほしかったのだけれど、魔法使いの私には時間なんてたくさんある。
じっくり口説いて見せますよ。
いつか私のものになってくださいね、イザベル様。
私は……に登場した2人の話でした。