カミングアウト
「何でお前はオレのケツを触ったんだよ!」
「ノリでだよ!」
「男が男のノリで触るのかよ!」
前略。今日も世界は平和です。
そうです。きっと平和なんです。
だって今、私の友人(男)×2が、ホモホモしい言い争いをしているのですから。
だって今、そんな光景を見た私の脳裏には眼福の文字が浮かんでいるのですから。
……、ぐふ。
「なぁ飛鳥! お前はどう思うよ!?」
「ふぇ!?」
と、いきなり咆哮を向ける方向を私に替えた恭。
今回の被害者。
男にケツを触られた男。
私の見立てでは、誘い受けに該当するであらう男。
「……、そういうのは、保健室ですれば良いと思――いや何でもない!」
「「……、」」
あっぶねーついつい本音が口から漏れてたはうっかりうっかり。もう少しで私の本性がバレちゃう所だったわたっはー!
いや、でもね? こんな風に本音が漏れかけるのにも、少しはしょうがない部分があると私も思うんですよ。
だって、私立中学に通う私が、帰りのスクールバスの中で、友人同士の言い争いに耳を傾けたりしてみて。
それがホモホモしい喧嘩だったなら、脳内で二人を題材にしたストーリーを構築ひ始めたりするのにも仕方がない部分があると思うのよ!
……だから、今の私のカミングアウト寸前な台詞も、私が馬鹿とかそういうアレじゃなくて、えっとえっと……、とにかく私は悪くない! なんもかんも、女を好きな男が悪い!
「――!」
「――!」
「――!」
「――!」
「――!」
「――!」
っと、いけないいけない。言い訳モノローグに熱中するあまり、目の前に広がるエデンから目を逸らしちゃってたじゃない。
これからはちゃんと、耳を傾けなきゃなぁ。
「だって、俺が好きなのは飛鳥だからなぁ!」
「「はぁ!?」」
カミングアウトは、カミングアウトを読んで。
バスの中には、静寂と沈静と沈黙が蔓延って。
「じゃ、じゃあ何でオレのケツを!?」
「飛鳥のだと犯罪になるからな!」
「何だよ! ぬか喜びしたオレが馬鹿みたいじゃねぇか!」
「は!?」
かと思ったら、また騒々しい声が響き始めたりして。
「……え?」
私は、首を傾げた。