第7話 独学的魔術学習(後)
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“点”をしっかり覚えたら、次は“線”です。
空中の魔素を魔石の一点に収束させて作る光で線を引きます。
発動体を構え、“点”をたくさん並べるイメージで「集い、揃え」と唱えてから動かしてみましょう。
魔術で使う魔法陣は、“線”の術で描きます。長い線を引けるようにじっくりと練習しましょう。
※挿絵は一時的に魔素を退ける“退魔”の魔法陣です。
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挿絵は丸い石が一筆書きで星(五芒星)を描いている図だった。
魔素を退ける魔術なんて何のためにあるのか謎だが、“線”の魔術の練習はこの魔法陣でやることにしよう。“点”の時と同じように木切れを構える。
「集い、揃え」
呪文を唱えてから木切れを動かすと、なぜか実線で描いてある挿絵と違いたくさんの“点”が並んでできた点線が引けた。きれいではあるけど教本には『“点”をたくさん並べるイメージで』と書いてあるから点線になってしまったら失敗なのだろう。
この教本、けっこう不親切だな。
「集い、揃え」
“線”を発動した後、杖代わりの木切れを今度はゆっくり動かしてみた。“線”は一定時間ごとに点を打つ術だったから、点と点の間に隙間ができない遅さで引けば実線になるのだ。串団子を隙間なく並べたような、不格好な線になってしまうが。
俺はそのまま注意深く、慎重に点をつなげて星を完成させた。その瞬間、LED照明のようにいろいろ色を変えていた光が一瞬強く瞬き、一気に周辺の魔素を吹き散らして消えた。小屋じゅうにちりばめた“点”も全部消えた。
さすが“退魔”、本当に魔素を退けてしまった。
やってしまってから少し後悔したが、幸いなことに魔素が吹き散らされたのは一瞬だけで今は少しずつ戻り始めている。こんな術がなんのためにあるんだと思っていたが、魔術をかき消すための術らしい。
……魔素がある程度戻ってくるまで待ってから、今度は【因果を紡ぐ手】で“線”を引いてみることにした。イメージするのはスマホとかタブレット端末とかそれ系のもの。棒切れの先がちょっとでも動いたら点が打たれるイメージでやればよさそうだ。よし、やるぞ。
「集い、揃え。……うお!?」
構えた棒切れが少しでもブレただけで“点”が打たれるほどの高性能になった。少しびっくりしたが、とりあえず、適当に丸でも書いてみた。すると星を描いたときと同じように一瞬強く輝いて……それだけだった。LED照明のようにきらめくだけで何の効果も現れない。
どういうことだ? と思って『初級魔術教本』をめくるまでもなく、すぐに判明する。
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きちんと“線”を使えるようになったら、“線”で丸を書くと“境界”です。
“境界”を使うと魔素を遮る見えない壁ができます。
この魔術は単体で使えるだけでなく、他の魔法陣を囲むことで範囲を狭めるかわりに効果を長続きさせることもできます。
このように他の魔術を助ける魔術のことを、補助術または装飾術といいます。
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なんと丸は“境界”という魔術だったらしい。
試しに星を丸で囲んでみると、描いた魔法陣は消えずに残り、“境界”の内側だけ魔素が吹き散らされた。