第6話 独学的魔術学習(中)
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第一章 “点”と“線” と“境界”
魔術の始まりにして全ての基本が、“点”です。
“点”は空中の魔素を魔石の一点に収束させて、まぶしくない光を作ります。
発動体を構え、魔石に意識を集中させながら「集い、灯れ」と唱えましょう。魔石に息を吹きかけたり、風を送りながらやると感覚をつかみやすいかもしれません。
“点”は魔術の始まりにして全ての基本です。できるようになるまでしっかり練習しましょう。
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見る人がイメージしやすくするためなのか、八方から矢印が丸い石に向かっている挿絵がある。
魔素はわかる。【因果を紡ぐ手】を使えば使った分だけ減っていくガスのようなものだ。これから本格的に寒くなるこの季節、俺の命を繋ぎ止めてくれるありがたい存在である。
逆にいえば魔素がなくなれば【因果を紡ぐ手】も使えなくなるのが不安といえば不安だが、今のところそんな気配は全くない。もしかしたら魔素の供給源がこの近くにあるのかもしれない。近いうちに探してみよう。いきなり魔素が尽きて【因果を紡ぐ手】が使えなくなったら困る。
それは置いといて、試しに発動体の代わりに木切れを構えて“点”の魔術をやってみた。
「集い、灯れ」
木切れの先端に魔素を集めながら呪文を唱えたら、小さな光が灯った。ちょうどLEDの豆電球のようにちらちらと色を変えている。木切れを動かしてもついて動くことはなく、色が変わる光が空中に浮いているように見える。結構美しい。
折角だから飾り気も何もない小屋を“点”で彩ってみた。
「集い、灯れ。集い、灯れ。集い灯れ。集い灯れ集い灯れ集い灯れ(以下略)」
手当たり次第にあちこち“点”をつけて回ったら、詠唱のやりすぎで喉が痛くなった。その甲斐あって、よく言えば質素なボロ小屋は上以外どこを見てもカラフルな光でいっぱいになっていた。今は昼だからあまり目立たないが、夜になったら映えるかもしれない。
おい。普通こんな無茶なことやったら魔素は足りていても俺の喉が嗄れる前に体力が尽きるとか頭痛が痛くなるとかするはずじゃないのか。いくら女神様がくれた祝福でも、ここまでチートすぎると何か俺の知らない弱点や落とし穴がありそうな気がして逆に不安になってくるんだが。それが魔素なのか。
いやいや“点”は『魔術の始まりにして全ての基本』という触れ込みだから、ほとんど消耗せずに済んでいるだけかもしれない。文字通り光る点を打つだけの魔術だし。もっと進んだらもっと難しくて大変な魔術にぶちあたるのだろう。
“点”はもう慣れたし、油断しないで次に進もう。