第5話 独学的魔術学習(前)
気を取り直して、『初級魔術教本』の続きを読むことにした。
○ ◎ ●
魔術には発動体と呼ばれる道具を使います。これは空間の中にある魔法の源、魔素を一点に集めるためのもので、主に杖や指輪、腕輪などの形をしています。達人は発動体を使わずに魔術を使うこともできますが、心身ともに大きな負担がかかるので緊急の非常事態でない限りは発動体を使用するのが鉄則とされています。
発動体は魔素を集める魔石と、魔石を支える土台で構成されます。魔石は魔物の身体の中で作られる魔核というものを加工して作られます。この魔石だけでも魔術を使うことはできますが発動中の魔石に直に触れると危険なので、魔素を通さない素材で土台が作られます。主に楽園木や銅、それに貴金属などがよく使われます。
手元に発動体はありますか? なかったら用意しましょう。
○ ◎ ●
なかったら用意しましょう、じゃねーよ!
発動体とやらがなきゃ魔術が使えないということじゃねーか! 楽園木は多分庭の生垣のあの木だろうし銅も貴金属もなんとかなるが、魔石をどうやって準備しろって言うんだ! いくら【因果を紡ぐ手】でも、見たことも触ったこともないものは作りようがないんだぞ! いい加減にしろ!
……そういえばそうだった。いろいろあってすっかり頭から抜けていたが、皆の目を盗んで書斎に忍び込んだ時、次はいつ忍び込めるかわからなかったから本を読むのを優先して実践は後回ししてたんだった。
というかよく考えたらあの誘拐魔は誰にも気づかれずに家に忍び込んで子供を一人連れ去って、まんまとここまで逃げてきたことになるな。《急いでおうちに帰りなさい》いやダメだ、家は心配だg《急いでおうちに帰りなさい》やかましい! 帰れるもんならとっくに帰ってるわ!!
ここがどこかも家がどこかも分からないし、この小屋を離れて手がかりを探しに行くのは怖い。生い茂る雑木のせいで見通しが悪く、どこに何が潜んでいるかも分からない森に身を守る手段も持たずに分け入るのは危険だと理性がささやくから動くに動けないだけなのだ。
──三歳児の身体を鍛えてもすぐには強くなれそうもないし、身を守る手段を魔法に求めようとしたのだが、それなのに【因果を紡ぐ手】でも作れない道具が必要だと言われてキレそうになった。でも【因果を紡ぐ手】は『念じるだけで魔法が使える』祝福だったから、発動体とやらがなくても魔法は使えるはずだ。
○ ◎ ●
発動体の用意ができたら、取り付けられている魔石を見てみましょう。角度によって色が違って見えるはずです。(略)
○ ◎ ●
この辺りは今は関係ないな。読み飛ばそう。