第3話 日常的孤独(後編)
【因果を紡ぐ手】で水を作り出し、泥だらけになった服と体を丸洗いする。小さい身体の俺にきれいに洗えるわけがなく、濁った水を取り替えるのに失敗して地面にぶちまけたところで諦めて新しい服を作った。簡単にできた。俺の今までの苦労は何だったんだ。
いや女神様より賜った祝福が便利で強力なのは当たり前か。天使様を助けて魔王を倒すための祝福が弱いわけがない。だから俺自身もこの祝福に見合う程度には身体を鍛えないといけない。よって俺の今までの苦労は全て身体を鍛える鍛錬である。以上。
気を取り直して、未だ水浸しで泥だらけのままたらいに残っている服をどうしようか。女神さまは【因果を紡ぐ手】は念じるだけで魔術が使える祝福で、魔術は小規模な世界創造を行う術だと言っていた。女神さまの言葉だから一言一句しっかりと覚えている。
つまり【因果を紡ぐ手】は創造の力だから破壊には向いていないわけで、でも放置するわけにもいかないしなあ……。とりあえず、もう一回洗うか。そしてうまく脱水できないか考えよう。いくら簡単に作れるからって汚れるたびに新しく作っていたら、あっという間に服屋敷になってしまう。
その前に少し早い昼飯にする。子供はしっかり食べてよく寝ないと大きくなれないんだぞ。というわけで、今日の昼飯のメニューは黒パンと焼いたトビウサギ肉とすりおろした太陽芋のスープ。片手で食べられるものをと考えたらこうなった。
「あなたの慈しみに感謝してこの食事をいただきます」
いつのまにか習慣になっていた食前の祈り。食糧の確保がままならない状況では、念じるだけで料理が出てくる祝福は本当の本気でありがたいと思う。俺がここで生きていられるのは、ひとえに【因果を紡ぐ手】のおかげだ。
俺は俺をこんな森の中に放置しやがったヤツへの怒りを新たに、女神様の恵みの昼飯を平らげた。黒パンにたっぷりスープを浸したら、パンの隙間にたっぷり味が染み込んで無茶苦茶うまい。でもってスープを染み込ませても顎の訓練になるくらいパンが固い。
たらいに水を溜めて、服を洗って、水を取り替えて、また洗って水を取り替えたらなんとか汚れが目立たなくなった。これをテーブルの上に広げて、見つけてきた板をかぶせて、水を入れた鍋をその上に乗せて、【因果を紡ぐ手】で超重力をかけてみた。普通にできた。魔物と戦うときの武器に使えるな。
超重力をかけた机と板の隙間からすぐに水がにじみ出てポタポタと地面に落ちていく。少し時間を空けてから熱を加えれば、ちゃんと乾きそうだ。ついでにさんざん水をぶちまけた地面も乾かしておこう。
これでよし。
服を洗って乾かすだけで、丸一日使ってしまった。疲れた。ものすごく疲れてしまった。明日はもっと要領よくやることにしよう。水気をとって乾かしただけで、干したわけでもないしな。