表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
インパーフェクト・ユートピア  作者: 籐紅葉
????の森
2/68

第1話 監視不在的拉致事件

俺はたくさんの絵本を積み木のように積み上げて遊んでいる。和紙のような紙を木の表紙で綴じた絵本は数えたら全部で二十八冊あった。『初級魔術教本』も入れて二十九冊。惜しい。表紙が厚いから横に立てれば立つ絵本はいい玩具になって、カードを並べて塔を作るような遊びができる。


本当はこんなことをしている場合じゃないんだが……。こういう転生ものだと0歳のうちに文字を覚え、一歳で親の書斎にもぐりこんで本を読み漁り、二歳で独学で魔法を習得したら親に頼み込んで英才教育を受けさせてもらうのが王道のはずだが、前世(?)のことを思い出したのが三歳の誕生日だったのだから仕方ない。こうしている間にも魔王が力を蓄えているから本当は遊んでいる場合ではないのだが。


早く大きくなって、女神様を守る天使を守りにいかなければ……!


焦る心とは裏腹に、俺の理性はここで本を積み上げて遊ぶことが最善の行動だとささやき続けている。なぜなら、俺は右腕を斬り取られ森の中の小屋らしいところに拉致られ現在地も帰る方向も距離もわからないからだ! ちなみに俺、三歳。正確には三歳と五日。どうしてこうなった。


経緯はこうだ。


俺が記憶を取り戻した次の日、早速家の書斎にこもって本を読みふけっていたら後ろから知らない奴に声をかけられた。振り向いた直後急に意識を失い、次に気が付いた場所がここだった。誘拐犯は目を覚ました俺に妖しく光る水晶のようなものをかざして、猫なで声で「急いでおうちに帰りなさい。人に助けてもらってはいけないよ」と言って文字通り俺の右腕を持っていきやがったのだ。まてコラ、止血をしてくれたことだけは感謝するが、それが人のやることか!


カッとなって追いかける寸前、森の中でまかれて遭難させられるのがオチだと気づいてどうにか思いとどまった俺を褒めてやりたい。しかし怒りは冷めやらない。「おうちに帰りなさい」じゃなくて、お前が家に帰せ! 書斎の本だってまだ一冊目が読みかけなんだぞ!


自殺教唆にしか聞こえないたわごとは無視して助けを求めようと考えた瞬間、頭の中に《人に助けてもらってはいけないよ》という声が響いた。無視だ無視。しかし声は絶妙に集中力を断ち切るタイミングで何度も何度も繰り返す。そのせいでろくにものを考えることもできなかった。


仕方なく誰かが来てくれるまでここに留まることを決めたら今度は《急いでおうちに帰りなさい》という声が響いた。ブチ切れた。そして俺は頭の中の声と向き合うことにしたのだ。


俺は三歳児。中身は平和ボケで有名な国の一般庶民。アウトドア経験は小学校の遠足と中学校の林間学校だけ。現在地もわからない森を抜けて生還する自信なんかあるはずがない。絶対に途中で死ぬ。死んだら家に帰れない。永遠に帰れない。だから回り道をしてでも確実に帰れる方法をとらなければならない。……頭の中でそんな屁理屈をこねたら声は聞こえなくなった。ざまあみろ。


気分がよくなった俺は、連れてこられた小屋を拠点にトレーニングを再開した。人に助けてもらえないのなら自分で全部できるようになるしかないからこれも問題ない。


そういうわけでトレーニングとして最初にやったのが、この世界に生まれてから今までに読んだ本を女神様からもらった祝福【因果を紡ぐ手】で片っ端から複製することだった。そして簡単にできてしまった絵本二十八冊と『初級魔術教本』(実は後半は白紙)を前にして、そのチートさに驚愕したのだ。


『念じるだけで魔法が使える』なんてちゃちなもんじゃあ断じてねえぞ!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
お気に召しましたら是非!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ