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あれれ、この僕が国会議員取締委員会に!?

作者: YossiDragon

「こら、また居眠りしてましたね? ちゃんと会議中には集中して話を聞いてください」


「えぇ~、いいじゃないですかぁ委員長。だってアイツの話、堅くて面白くないし、退屈なんですもん」


 そう言って一人の青年が椅子にもたれかかり、頭の後ろで手を組み瞑目する。

 この青年の名前は『双葉(ふたば) 繁之(しげゆき)』。日本の林業を支える大手会社の息子である。

 と、突然ではあるが、僕の名前を紹介しようと思う。

 僕の名前は『天数(あまかず) 平和(へいわ)』。何とも変わった名前だが、これが僕の本名なのだから仕方ない。ちなみに、僕は天皇家の子孫で、直径ではないものの、血を受け継いでいるらしい。小さい頃の記憶は曖昧で、あまり実感は湧かないが、そうだというのだから仕方ない。

 そんな僕は、今ある仕事に就いている。それは、『国会議員取締委員会』。仕事内容は至って単純かつ明快。国会議員にアドバイスをし、居眠りしていたら叩き起こすという簡単なものだ。

 給料は、普通。まぁ、この程度の仕事で高収入を得てたら多くの国民の皆様に申し訳ないからね。

 そして今現在、僕は国会議事堂の中にいる。絶賛会議中なのだ。で、僕の目の前でぐーすか眠っている双葉君は、議員の一人。


「何をまた眠っているんですか!」


 ゴスッ!!


「イテッ!?」


 鈍い音を立てたかと思うと、双葉君が声をあげる。痛いのは当たり前、僕が断罪行使(おしおき)をしたのだから。

 ちなみに何をしたのかというと、広辞苑奥義『背表紙チョップ』だ。これの攻撃力はおよそ一万ある……らしい。何故曖昧なのかというと、自分自身がくらった事がないからだ。


「いっつ~、勘弁してくださいよ天数さん。俺の頭がどうにかなったらどうすんですか?」


「居眠りしているのがいけないんです、ほら……ちゃんと彼女の話を聞いて」


「ったく、分かりましたよ」


 渋々という感じで双葉君は姿勢を正す。うん、これが国民の皆様が望む姿勢だ。

 僕も双葉君の背後から部屋の中央を見据える。そこには一人のスーツ姿の女性が立って話をしている。歳は二十代くらい。スラリとした立ち姿に、長い黒髪をポニーテールにして結っている。視力が悪いのか、赤縁のメガネをかけて知的な雰囲気が漂う。

 ふと女性の切れ長の瞳がこちらに向けられた。


「……こちらの意見、如何でしょうか天数様」


「え? あ、ご、ごめんなさい。何の話ですか?」


 ちょっと彼女の立ち姿に見惚れていた僕は、彼女の質問に答えられなかった。


「はぁ、双葉さんはいつもの事ですから仕方ありませんが、仮にも貴方様は天皇家の御子息であらせられるお方……それに、国会議員取締委員会なのですよ? しっかりなさってください」


 うう、怒られてしまった。


「すみません……」


 地位的には僕の方が上なんだけど、思わず謝ってしまう。ちなみに彼女の名前は『蜜橋(みつばし) 紗枝那(さえな)』。有名な蜜橋建設の御令嬢で、僕より年上のお姉さん。

 あっ、僕の年齢は十八歳です。


「いいですか? 今回の議題は、千鳥ヶ淵の身柄をどうするか……です。国民の方々のために催し物をしましたが、国民の方々は未だに彼の行ってきた政権に深い怨恨を抱いています。これを緩和するには、徹底的な裁きが必要かと議論しているのです」


「そ、そうでしたか……」


 なるほどと、僕は相槌を打つ。

 千鳥ヶ淵……政権。

 今より25年前の2015年。一つの大きな戦争が起こった。と言っても、皆がよく知っているアレではない。国民の反乱によるデモ……通称、デモ戦争だ。

 とある一人の男によって起こったと言い伝えられているこの戦争には、多くの国民が参加していた。

突如として戦火に飲み込まれた日本の中心――東京は、多くの反乱軍によって占拠された。最初は秋葉原を中心とした小規模軍だったが、溜まりに溜まった国会議員――政治家への反感が暴発し、気づけば東京都民全員が反乱軍に所属していた。

 そのあまりにも大勢の国民に警察も統制を取れず、国会議事堂はあっという間に攻め込まれた。

 当時日本の頭――トップだった男『千鳥ヶ淵(ちどりがぶち) 鴇ゑ卍(ときえもん)』は、手にあらゆる凶器を持つ国民に対し焦りと恐怖にもたつき、周囲の政治家を囮に議事堂内部を逃げ回った。

 しかし、いくら議員が多いとはいっても国民全員に対して議員の数は少ない。彼らは昔の日本人の様に大いなる勇士を胸に、ついに千鳥ヶ淵内閣総理大臣を捕らえる事に成功した。

 それから報道をジャックし、テレビを通して日本全国民の目の前で鴇ゑ卍を断罪し、権力と財力、そして長らく続いた千鳥ヶ淵政権を解体する事を約束したのだった……。

 それが15年前に起こった現実。いつもは平和な生活を営む国民も、時として恐ろしい敵になりえるのだと、この時多くの議員は感じ取った事だろう。

 多くの犠牲を生みながらも終止符が打たれたこのデモ戦争によって、多くの政治改革が成された。

 現在所属する国会議員を全員辞職。今後の議員は、日本に十数個存在する巨大財閥グループが担う事になった。それからというもの、国民の不満は膿が取り除かれるかのように減って行った。

 無路水整備工業によって下水道工事全額負担や、道路整備が行われ、交通事故などの被害は大分減った。双葉林業によって、伐採した山に新たな樹木の苗木を植えるという、ボランティアキャンペーンが実施。弌河漁業によって、海浜の美化清掃。蜜橋建設によって地震で倒壊した家の早期立て直し(リフォーム)。玖餉産業の展開する料理店全て5倍ポイント。砥巧工業による燃料開発で作り出された、超低燃費のガソリン。震災などで家を失くした人達に、様々なオプションや保障などを含めて新築の住まいを提供する、蓄護金融会社。凪瀬電力による節電エコキャンペーンでの様々な特典。早坂運輸の催す引っ越しお得計画。戸塚鉄道の旅行電車。戸井サービスの展開するテーマパーク一日無料券配布。斗弐閣製造の日用品などの必要最低限にかかる物品の消費税控えめ政策。

 などなど、とにかく挙げればきりがないくらい、財閥グループによって2016年に国民感謝祭が行われた。

 とにかく、その翌年からの国会議員を含めた内閣政府への支持率の上昇率ったらなかった。常に国民の平和を望むという、僕の意見を皆が取り入れてくれたおかげでここまでこれた。一年間の国民感謝祭ではなかなかに金が飛んで行ったが、その大半が元々国民の皆様から徴収したありとあらゆる税金によるもの。それを使って皆様へ感謝祭を設けたのだから文句はあるまい。


「……う~ん、とりあえず千鳥ヶ淵のおっちゃんはほっといてもいいんじゃね? あのおっちゃん結構図太く生きてるし、反省の意味も込めてあの場所に放り込んでんだから」


 少々荒っぽい口調で話すその人は『砥巧(しこう) 鉄花(てっか)』。国会議員の一人であり、財閥グループの一つ『砥巧工業』の令嬢――ではあるのだが、なにぶん言葉が荒いためにそんな雰囲気は見られない。

 格好もスーツではなく作業服という出で立ち。女の子らしい座り方ではなく、がに股というなんともはしたない状態だ。


「ちょ、ちょっと砥巧さん? 一応女の子なんだからもう少し恥じらいを……」


「えー、いいじゃんいいじゃん堅い事言うなよ、アマカズ~」


 またまた~という風に手を動かし、笑って話題を逸らす砥巧さん。はぁ、相も変わらず能天気だこと。


「そういや、国民感謝祭の結果はどうだったんでぇ?」


 先程僕が思い出していた事柄を一人の男性が話題に取り上げる。

 彼の名前は『弌河(いちかわ) カジキ』。この場にいる国会議員の中では一番年上にあたり、よく下ネタを繰り出す変人だ。財閥グループの一つ『弌河水産業』の子息でもある。


「はぁ、それについての議題は先日行ったではないですか」


 カジキさんの言葉に紗枝那さんが嘆息する。そう言えば、どれくらい国民の皆様への信頼を取り戻せたかを調査していたっけ。


「一応……データは残ってる」


 抑揚のない声音でそう呟いたのは一人の少女。片眼鏡をかけ、そろばんを持っているその少女は『蓄護(ちくご) 療子(りょうこ)』。僕もあまり情報は掴んでいないものの、ある程度知っている知識としては、超天才という事だ。電卓ではなく自前のマイそろばんで計算するという。そのスピードは電卓に勝るも劣らないというから恐ろしい。

 そんな彼女は『蓄護金融会社』の娘でもある。金だけに金銭感覚は良さそうだけど、真実の所はよく知らない。


「? 何を見てるの?」


「え、いや……何でもありません」


 眠た気な眼差しで僕を見つめる療子さん。その視線が少し怖かったので、僕は慌てて頭と手を振って明後日の方に視線を向ける。


「そんじゃあデータを見せてくんねぇ!」


 カジキさんは僕と療子さんのやり取りなど意に介さず、相変わらずのマイペースで手を出す。

 その態度に少々療子さんはムッとしたが、懐から一枚の長方形の形をした茶紙封筒を取り出すと、カジキさんの大きな手のひらに乗せた。


「こいつが国民感謝祭のデータかぃ? んじゃま、御開帳――もとい、中身を拝見……」


 と、少々意味不明な言葉を口にしながら、カジキさんが封筒の中を覗く。問題はその覗き方にある。まるで、某雑誌の袋とじを無理やり見ようとしているガキのようだった。

 しかも鼻の下を伸ばしているもんだからだらしない。


「ちょっと、何エロい視線で見てんの、エロ親父っ!!」


「んなッ、失敬な……別にこれはそういう目的で見ているんじゃない。そもそも、これはただのデータの資料なんだぞ? 決して療子ちゃんの残り香がくんかくんか、とかそんなんじゃないぞぉ?」


 とある一人の少女に冷ややかな視線を向けられたカジキさんは、少し慌てた様子でそんな言い訳をする。

 しかし、これだと本当に封筒を通して療子ちゃんの残り香を嗅ごうとしていたようにしか見えない。


「……もしもそれが本当なら、慰謝料を請求する」


「うぐッ、ちなみに幾らだ?」


 何故そんな事を聞くのだろうと訝しみつつ、僕はそのやり取りを見届ける。


「計算して百億万円」


「破産するわッ!!」


 カッと目を見開き机にバンッ! と手を突きその場に立ち上がるカジキさんに、皆が一斉に視線を集中させる。


「冗談」


「……冗談に聞こえねぇや」


「ふんっ、やっぱりエロい事してたんじゃない」


「だからぁ、違ぇつってんだろぃ。ほんっと、楓璃ちゃんは冗談が通じねぇなぁ。そんなんじゃ、いつまで経っても彼氏出来ねぇぜぃ?」


「なっ、大きなお世話よっ!! いいですよ~だ、彼氏なんかいらないもんっ! そもそも男なんて皆ケダモノなんでしょ? 知ってるわよ、真夜中の零時になると男は皆狼男に変身して、眠っている女の子を襲って食べちゃうって!! そ、それで……朝には子供が誕生するんでしょ!?」


 物凄い耳年増だ。それは、とんでもない子供の生まれ方だ。

 彼女の名前は『凪瀬(なぜ) 楓璃(ふうり)』。甘やかされて育ったのか、少しワガママでひねくれた性格をしている。また、なかなかの耳年増で、先程のように間違った性知識をお持ちでもある。

第一、真夜中の零時に男が狼男に変身したら、二十四時間営業をしている男性どうなるんだ。

 そんな楓璃さんは、凪瀬電力の御息女でもあり人々の暮らしに大きく貢献している。最近は環境問題の事も考えて、海浜や高台などに風力発電を作っていると、専らの噂だ。


「フフッ、凪瀬殿。それは間違っている……君は正しい子供の産まれ方も知らないのかね?」


「し、知ってるわよそんなもん。狼男に襲われたら朝には子供がいるんでしょ?」


「チッチッチ、それは違う。もしかすると、凪瀬殿のような間違った知識を持っているから、少子化なんて問題が起こるのだろうか?」


 うん、それは違うと思うな。

 先程から楓璃ちゃんと会話している青年は『早坂(はやさか) 翔平(しょうへい)』。陸、海、空、全ての運輸を担う『早坂運輸』の坊ちゃんだ。


「いいかね、子供はコウノトリが運んでくるのだよ? そうして、子供が出来るんだ」


「え!? それじゃあ、私のお母さんとお父さんのどちらかが、コウノトリって事!?」


「ん!? う、う~ん、どうだろうね?」


 あ、誤魔化した。まぁ、楓璃さんの間違った知識に磨きがかかっただけだし、そこまで問題はない。


「あ~む、もぐもぐ……うむ、やはりこの新商品は当たりだな。口当たりがいい」


「あの、ちょっと……講堂内での飲食は禁止ですから」


 そう言って僕が恐る恐る声をかけると、長い黒髪を持つ女性が切れ長の瞳をこちらに向けてギロリと睨み付けてきた。うぅ、怖い。

 彼女の名前は『玖餉(くげ) 綾萌(あやめ)』。日本の多くの料理店を纏める『玖餉産業』のお嬢様だ。一応、多くのお菓子食品などもここが作っているという。

 そんな彼女の味の評論は絶妙で、今もこうして味の評価をつけている。と言っても、お菓子だが。


「……すまない。なにぶんこれも仕事でな……せめて後一枚、チェックさせてもらえないだろうか?」


「ま、まぁ……一枚だけなら」


「かたじけない」


 なんかこう武士道然としているな。てか、名前に萌があるのに萌えを一つも感じないのだが。

 と、その時――。


「ぬわぁあああああああ!」


 という誰かの唸り声が聞こえて、僕は慌ててそちらを見やった。そこには、髪の毛をクシャクシャにして頭を抱えている少女の姿があった。

 彼女の名前は『戸井(とい) 遊覧(ゆうらん)』。有名な『戸井サービス』の令嬢で、日本に存在する全てのテーマパークを管理している。

 ちなみに遊覧という変わった名前は本名、ただし本人はあまり気に入ってないので最近は「ゆら」とか「らん」とか呼ばれてる。

 ふと遊覧(ゆら)さんの手元を見ると、そこにはあるテーマパークの遊具の設計図があった。


「どうかしたんですか、遊覧さん?」


「あっ、きいてよーカズカズぅ」


「あの、そのカズカズって呼び方やめてくれませんか?」


 僕は、泣きすがる遊覧さんに向けて半眼の眼差しを向ける。何故嫌なのかというと、理由は至って単純。天数平和の数と和を取ってカズカズと呼んでいるからだ。あくまでこの「和」は「カズ」ではなく「わ」と読むのだ。なので、それを間違える彼女に少し腹が立ったのだ。


「むぅ、分かったよ、かずっち」


 その「かず」が、「数」ではなく「和」の方でない事を祈る。


「それで?」


「うん……実は、最近遊園地の来場者が少なくて」


 経営の話だった。


「はぁ……。そう言われても、僕は遊園地なんていかないですし、てかそもそも天皇家の立場なので、大手を振って外に出るのは遠慮したいところです」


「それはあくまでもかずっちの話でしょ? ゆらが言ってるのはそーゆーことじゃないんだよ。なんかね? 小さい子供だけじゃなくて、もっと大きな子供が来るようにしたいんだー」


 小さい子供は理解出来る。だがしかし、百歩譲っても大きな子供は理解出来ない。いや、したくないのが正しい。それって明らかに大人の事でしょ。


「それで?」


 まだ続きがありそうなので話を聞き続ける事に。


「で、考えたの。そーだ、大きな子供が喜ぶ遊具を作ろうって! そしたら……小さい子供も減っちゃった☆」


 一体何を設置した!?

 思わず僕は唖然となってしまった。


「そ、そうなんですか。少なくともその大きな子供向けの遊具を撤去すれば話は早いと思います」


「え? そーなの? でも結構高かったんだよ、人件費」


 何故施設費じゃなくて人件費の方がかかるのかが謎だが、そこは敢えて突っ込まないことにした。


「とにかく、今すぐに撤去する事をお薦めします」


 そう言って僕は遊覧さんとの会話を終わらせた。


「ふぁーん、しゅっぽっぽーキキィ! とーちゃーく! えへへ、次は八王子へ参りまーす。プシュー!」


「こらこら、講堂内で走っちゃいけませんよ」


「はーい、ごめんなさーい」


 元気よく手をあげて答えるのは一人の少年。彼の名前は『戸塚(とづか) 鋼太(こうた)』。財閥グループ最年少であり『戸塚鉄道』の御子息である。

 今も無邪気に電車のマネをしながら車掌の帽子を被っている。何だろう、なんとなく癒しを感じる。


「んで、ここのダムの整備もしないとな」


「ん? 何をしているんですか?」


 そう言って僕が声をかけたのは、『無路水(むろみず) 竜蔵(りゅうぞう)』。『無路水整備工業』の御曹司で、主に道路整備や水道工事などを主流にしている。


「おう、天数君か。なぁに、最近のダム調査をしているんだが……ちょっと最近、あるダムの調子がよくなくてな」


「そうなんですか。それで、悪い場合はどうするんです?」


「修理しにいく。最悪の場合は、閉鎖して壊す事もある。以前にもダムが一つダメになってしまってね。それで壊したら、貯水されていた水の底から財宝が見つかったんだ。一種の宝探しみたいで、楽しかったよ」


 何やら思い出話を語り出した竜蔵くんに、僕は軽く相槌を打った。駄目だ、共感できる部分がない。


「すんませーん、遅れちゃいました」


「遅いですよ、一時間と六分と四十二秒の遅刻です」


 紗枝那さんが、ご丁寧に秒までつけて、どれくらい遅れたかを、メガネのツルをクイッと上にあげながら指摘する。

 対してペコペコ頭を下げながら入室したのは、『斗弐閣(とにかく) 博人(ひろと)』。『斗弐閣製造』の社長の一人息子で、多忙な生活を送っているという。理由は単純、とにかくいろんな製品を作っているからだ。多くの便利な日用品は、ここが請け負っているといっても過言ではない。

 この十二の財閥グループによって、今の日本の経済は支えられている。彼らが頂点に立った事でこの日本も大きく変わった。前まで外国生産に頼っていた面も、大分国内生産に移行している。ただし、全く外国との関係が途絶えた訳でもなく、お互いにいいアイデアを交換して国内発展を目指している。これも大きく変化した政治改革の一つ。


「全員揃った所でそろそろ今回の主題について、議論したいと思います」


「よっと、しゃ~ねぇな」


 紗枝那さんの口火を切る言葉に、椅子にもたれかかっていた双葉君が身を起こす。

 そうして全員がそれぞれの席に着席したのを確認し、紗枝那さんが映写機を起動させる。一気に暗くなる講堂内に、映写機の映像が投影された。

 そこには、大きな文字でこう書かれていた。


『全国エコ化計画』


 その内容が如何なるものか、僕にはさっぱりだ。恐らく、環境問題の改善から来るものだろうとは思う。すると、カジキさんがスッと手を挙げた。


「はい、弌河さん」


「おう、ちょいと質問なんだけどよぉ、エコ化ってぇのはどうゆうこった?」


「そうですね、説明させていただきます」


 そう言うと紗枝那さんの説明が始まった。

 全国エコ化計画。その全容は大きく分けて三つ程ある。

一つ、電力を全て自然界に存在する物に変える事。

二つ、昔の様に緑を増やす緑化運動の徹底。

三つ、有害物質を自然界に流出させない。

これら三つが大きく上げられる。三つ目のはまだよく分からないが、恐らく小さい例を挙げればポイ捨てなどをしないと言う事だろう。後、工場などから出る排出物だろうか?

 そう言えば、ゴミの埋め立てなどはどうするのだろう? 埋立地にも限りがある。近頃は双葉農林業や戸井サービスの協力で美化活動が進んでるけど、それでも不法投棄などが完全になくなった訳じゃない。

 スライドショーの様な感じで作られたその資料の二ページに進むと、そこにはもう一つ不思議な言葉が書かれていた。


『太陽光の塔、設立計画』『空に浮かぶ住宅地計画』


 これには皆も頭上に疑問符を浮かべる事しか出来ない。そんな僕達の浮かべる表情に気付いたのだろう。紗枝那さんが表情一つ変える事なく、淡々と説明を再開する。


「こちらの太陽光の塔ですが、ゆくゆくは先程のエコ化計画に繋がる物だと、我々は結論付けています。太陽光パネルは、皆さんもご存じですよね?」


 その問いに皆が首を縦に振った。


「太陽光の塔は、それを小型化……街頭の様にしたものです。サイズは電柱くらいで、太陽光によって得た電力は、ケーブルを通じて発電所に一旦蓄電される仕組みを取っています。こちらについては、凪瀬電力と協力を図っている所です」


 あるワードを耳にした一部の人間が、サッと楓璃さんの方を向く。

 当人はというと、頬杖を突きつつ素知らぬ顔をしていた。いつの間にそのような計画を……アドバイザーでもある僕に相談もしないなんて、余程早く計画を進めたいのだろうか?


「でも、そんなに電力蓄えられるんですか? 曇りの日なんかマズくありません?」


 僕の質問だ。天気が悪かったりした場合、どうするのだろう。


「その点については、現在も検討中です」


 紗枝那さんは、対して慌てる素振りも見せずに冷静に答える。すると、今度は楓璃さんが手を挙げると同時に声を発した。


「潮力や波力があるわ」


 少し退屈そうな声音で意見する楓璃さん。


「なるほどぉ、確かにそれなら天気が悪くても大丈夫そうだな。風力も水力もあるし、考えてみりゃ再生可能エネルギーはいくらでもあるわけだぁ!!」


 カジキさんが腕組みをして呵々大笑する。確かにそれなら問題はない。しかし、問題はもう一つ。


「えと、空に浮かぶ住宅地計画というのは?」


 頬をかきながら説明を求めると、嘆息して紗枝那さんが半眼を向ける。


「先走らないでください、これから説明するところです」


 怒られてしまった。


「言葉通りの意味です。空に浮かぶ……というのでは少し語弊がありますね、厳密的には大きな柱を立てて、大地を空中に作るのです」


「どーしてまた、そんな大がかりなコトすんだ?」


 鉄火さんの質問だ。確かに、空中に住宅地だなんて、無理がないだろうか? 第一――。


「それだとー、地上にいる方の人達に迷惑かからない? 太陽の光だって届かないだろーし、洗濯ものだって乾かないと思うよー?」


 そう、僕が言いたかったのもこれだ。地上に住む僕達の周囲には、山はもちろんのこと高層ビルだって存在する。国民の皆様だっているのだ。しかも、昼間は太陽に照らされて僕達は楽しく毎日の生活を送っている。

 それなのに、空中に大地を作ったら太陽の光が届かないじゃないか。

 すると今度は、療子さんが相変わらずの抑揚のない声音で開口した。


「そこは検討中。ただ、一つ議案として持ち上がっているものがある」


「それは?」


「移動させる、というものだ」


「移動?」


「そう、ゆくゆくは海の上に浮かぶようにするという大きな目標」


 日本人も、なかなかユニークでファンタジーな事を考えるものだ。ゲームのやり過ぎではないだろうかとも思ってしまう。まず、そんな事可能なはずがない。

 いや、確かに無理ではないかもしれないが、それを完成させる頃には、僕達の世代は亡くなっているかもしれない。


「実現予定は?」


「……遠い未来」


「それ、叶いませんね」


 やはり後者の計画には無理があるんじゃ……。


「まぁ、二ページ目はあくまで議案として持ち上がった程度ですので。あまり深くはお考えなさらず」


 そう言う紗枝那さんは、どこか悲し気だった。密かにワクワクしていたのだろうか? 確かに、そんな事になったらすごいと思うけど。やはりちょっと特別な石とかない限り、難しいと思う。

 などと、日本の未来を考えつつ、僕は再びスクリーンに視線を向けた。

 すると、ページが切り替わる。


「三つ目は、少し改善したものの、未だに続いている少子化についてです」


 確かにこれは問題だよね。


「少子化についてはいろいろと意見があるようですが、一つは結婚したくないのが挙げられます。二つめに子供の養育費ですね。まぁ、子供一人育てるのにも結構な額がかかりますし……最近は子育てよりも趣味に没頭したいという若者もいるようですから」


 メガネのレンズをメガネ拭きで拭きながら、紗枝那さんは淡々と説明をくれる。うん、確かに趣味に没頭したいのは分かる。

 でも、やっぱり一番大きいのはお金かな。


「そこで、考えた」


 と、声をあげたのは、お金ならばこの人に訊け! な感じの雰囲気を漂わせている少女、療子さんだった。


「学校に通わせるために親はお金を出す。けど、お金がどうしても足りない場合がある。その時、どうするか」


「えと、奨学金……ですよね?」


 ふと僕の方に視線を向けてくるので、少ししどろもどろになりながら解答する。


「そう。けど、学校に行くまでにも結構なお金がかかると思う。だから、養育保険というものを作った」


 ちょっとドヤ顔で言う療子さんだが、はっきり言っていつも半眼で眠たそうなので、本当にそんな顔をしているかというと、少し分かりにくい。


「へぇ、それは興味深い」


 そう声をあげたのは翔平くんだった。


「意外ですね、翔平くん……子供あまり好きそうには見えないですけど」


 あくまで見た目での判断なので確実とはいえないものの、僕は翔平くんにそう言った。すると、笑いながら翔平くんが僕の方に体を向けた。


「よく言われるよ。けど、子供は好きだよ? あの無邪気に走り回る、穢れを知らない無垢な表情を見ると……それはもう、ぐふふ」


 ん? 何だか不穏な空気を感じる。ちょっと翔平くん、危ない人なのでは?


「それで、その養育保険という制度はいつから始めるんですか?」


 僕の質問だ。

療子さんはそろばんを弾くと、こちらをジロッと睨んだ。何だろう、いけない事でも訊いただろうか?

 そんな事を思っていると、療子さんが口を開く。


「一週間後に例の放送がある。その時に発表するつもり」


 抑揚のない声音で特に表情を変化させることもなく、療子さんが説明する。

 彼女の言う例の放送というのは、定期的に行われている政策会議の事だ。これは主に、国会議事堂の中で行われているやり取りを、映像音声で国民の皆様に伝えるというものだ。

 無論居眠りは厳禁。だから、僕もちゃんとこれには出席する事になっている。

 と言ってもまぁ、最近は僕の広辞苑奥義『背表紙チョップ』が恐いので、寝る事は少なくなってきたけど。

 これを見た視聴者――即ち国民の皆様の賛否を、データ放送を用いてアンケート調査する。それによって、議題を実行するかどうかを決めるのだ。

 もしも反対の票が多かった場合は、改善策を講じるか議案自体を破棄する。こうやって国民の皆様が望む国作りをしていくのである。


「……なるほどぉ、国民感謝祭が上手く行ったってぇのは、ホントみてぇだなぁ」


 データ資料を確認し終えたカジキさんが、資料の紙をパンパンと手の甲で(はた)きながら言う。


「ええ、治安も昔に比べればよくなってきましたし……職を失ってしまうリストラの方々にも、新たに職を進めているんですよね、遊覧さん?」


 僕は、戸井サービスの令嬢である遊覧さんに話題を振る。


「うん、かずっちの言うとおり、大分減ってきたと思うよ? まぁ、まだまだホームレスの人はいるけど……地域の人がいうには、昔に比べれば減ったんだって」


 功績は確かにあがっているようで安心した。警察の方も、最近はあまり大きな事件がないようで安心している。

 やっぱり人生平和が一番とは誰の言葉だったか、僕の名前の由来もそんな感じだった気がする。

 この名に恥じぬように、僕はこれからも日本の未来を平和に導こうと思う。

 そう胸に決意した僕は、十二人の国会議員と一緒に、定例政策会議の放送を控えるのだった……。

というわけで、短編です。今回は、最近の日本についてと自分が考える未来の日本を勝手にイメージして作った世界です。基本的にはあったらいいな的未来なので、あまり深く考えずに読んでくれるとありがたいです。

国民の不満が最大に達すると、こんな事になるのかなと思うと、少しなってほしいなみたいな欲望が湧きます。

宙に浮かぶ日本いいですね。津波とか地震とか災害少なそうで。では、また次回。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 子息は他人の子に対して使うので変えたほうがいいです。それと天皇の子なら苗字はないのでは……
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