1. チェンジでお願いします。
はじめまして。よろしくお願いいたします。
婚儀を控え、私がこの国に来た時、私の配偶者となる王太子にはすでに寵姫がいた。
妃にしたいが血筋が少々あれで、というよくあるパターンだ。
それ自体は珍しい事では無いし、聞いていたので驚く事でも無い。
「私の妻は彼女だけだ。何も期待するな」
は?
無事到着し、国王に拝謁している所で飛び出した王太子の発言。
何処の自意識過剰野郎でしょう。
ああ、この国の王太子「様」でしたね。
初対面の相手に一体何を期待しろと。
第一、国同士の事に個人の感情を持ち込むとかありえない。
馬鹿なの。馬鹿なのね。
呆れて果てて思わず父親である国王の方を見ると、苦々しい顔で王太子を見ている。
そんな顔をする位なら、きちんと教育しておいて下さい。
こんなのが次期国王とか、この国もう終わっているじゃないですか。
この場にいる、おそらくはこの国の重臣であろう人たちを見ても、皆一様に国王と同じ顔をしている。
分かっているなら今まで何をしていたの。
溜息をこらえきれません。
婚儀まで半年。
早めに来ておいて良かった。
その間に、あのお馬鹿王子(確定)が使い物になるようになるか、なんてまあ無理か。
では、婚儀を回避する方向で。うん、そうしよう。今すぐ。
決意と共に国王を見上げると、何だか縋るような視線が返ってきた。
いや、無理だから。
あんな自分本位な人間、相手にしてられません。
大方「結ばれない二人」とかいうシチュエーションに酔っているんでしょうけれど。
後宮に居る時点で、ちゃんと結ばれているし、国に認められてますから。
正式に奥方にしたいのなら、王太子の地位を辞して王籍から抜けたらいいじゃないですか。
この国には他に三人も王子がいらっしゃるんですから。
そんな事にも気付かない本物のおバカさんなのか、今の身分に執着しているのか。
どちらでもいいですけれど、そんな茶番に付き合いたくありません。
早々に国に返していただくか、ああ駄目ですか。では他の王子にチェンジでお願いします。
一人くらいまともな王子がいるでしょう。いてください。でないとこの国、本気で滅びますよ。
国王との無言の折衝。
王族同士のアイコンタクトは馬鹿に出来ません。馬鹿には出来ません。
「そこを何とか!」
ついに国王が身を乗り出して迫ってきました。必死ですね。
「無理です」
私も思わず口に出してしまいましたよ。
ありがとうございました。