モブの今と過去(さわり)
異世界トリップのエルフとは何の関係もありません。
こちらはエルフの息抜きとして書いた中の一つでなんとか投稿できそうなものを投稿しました。
むかしむかし、この世界が創られるよりも昔。
国同士での争いが絶えぬ世界がありました。
やがて争いは人々だけでなく世界すらも疲弊させてゆきました。
そんなこととは露知らずに、国同士での争いは激化していきました。
疲弊した世界は人の欲望を受け止めきれなくなっていました。
その欲望が生み出したのが魔王でした。
魔王は、世界を食べ始めました。
魔王に食べられた土地は、どんどん腐ってきます。
やがて、残ったのは一つの国でした。
国に生き残った最後の希望である聖女は、異世界から勇者を召喚します。
異世界から召喚された勇者は、破竹の勢いで魔族を倒していきます。
そして勇者と勇敢なる仲間たちは、魔王を倒しました。
でも世界がそのまま浄化されることはありませんでした。
世界の治す力よりも食われてしまった世界による腐敗のほうが早かったのです。
世界は彼ら、勇者と勇敢なる仲間たちを勇者のいた世界へ送り返し、長い眠りについた。
side???
『本当はこんな事したくなかった』
(でもこの飢えだけはどうすることもできなかった)
『私の世界は、とても狭かった』
(だからその世界の住人を利用するだけ利用して切り捨てる彼らを許せなかった)
『私はあなた達のためなら命を捨てられる』
(だからためらわないで欲しかった)
『私は弱虫だった』
(でももうためらわない)
(そう決めたのに、どうして?!)
「…こんなはずじゃなかったんだけどなぁ」
「…なにが、ですか?」
遠くいや真横から声がした。
「…ううん。なんでもない」
眠い目をこすりながら、隣の席の友人に私【マリア・アリア】は応えた。
今は平民で学生をしておりますが、前世では魔王をやっておりました。
理由については今は語りません、いずれ時が来たら語りましょう。
親友とは逆方向窓の方を見ると、既に空は茜がかっております。
「えーと、アリサ今は何時でしょうか」
「そうね、真昼の鐘が鳴ってから、…ちょうど今六つ目の鐘が鳴りましたわ」
真昼の金がなってから六つ目、つまり午後六時を示すその鐘が鳴ったのだ。
「……どうしよ。ち・こ・くだーー!!」
慌てていくも時すでに遅し、アルバイトに遅刻した私は本日ただばたらきが確定したのです。
あぁもう一つ言い忘れていました。私魔王になる前は、日本から異世界転生しただけのモブAでした。
気をとりなおして現在バイトしているところを紹介いたします。
冒険者の宿でもある【双龍の角亭】というところでバイトしております。
気立てのいい奥さんと元冒険者の旦那さんの二人で切り盛りしていたところに無理に頼み込んで働かせてもらってます。
故に、遅刻すればただばたらきという厳しい条件を私は承諾しました。
今のところ勝敗はなんとか9割といったところでしょうか。
いや何と勝負しているわけではないのですが、学生と冒険者そしてここのバイトと三足のわらじを履いている私はそこそこ睡眠時間を削っております。
故に多少遅刻してしまうこともあるということを込で雇ってもらいました。
で話を戻しまして現在は、真昼の鐘から八つ目の鐘が鳴ったところです。
食事処としても有名な為この時間でも人が途絶えることはない。
だいたいこの時間は冒険者だけというのがわかりやすくて助かるが、
「そういえば、南の方の国で勇者召喚があったらしいぞ」
「そうなのかでもなんで勇者なんか召喚したんだ?」
「さぁな、もしかしたら伝説の魔王とやらが復活でもしたんじゃねぇのか?」
「そりゃ恐ろしい事だが、勇者一人でなんとかなるのか?」
「いや勇者だけじゃないようだぞ」
二人の冒険者が話し込んでいるところにここの主とか言われてる冒険者が割り込んできた。
「ちょうどそっちから来た商人から話を聞いたんだけどな。どうやら召喚されたのは一人だけじゃないようだ」
その言葉を聞いて私は彼らのことを思い出していた。
純粋であるがゆえに魔王の正体に気づかず、権力に踊らされ続けた彼らを。
少しばかり耳を傾けすぎたからかもしれないけど、話はそこから小さくなり聞こえなかった。
その話を再び聞くことになるのは、数日後彼らをこの国で見かけた時の話である。
その日私は走っていた。
私と契約した稲荷さまの力を使い屋根を駆け抜けていた。
私は刻まれたルーンの関係上一対一の近接戦が得意なのだが、稲荷さまの力を使っている状態に限り符術という魔法とは違う術を使えるようになるのだ。
契約というより、力を貸してもらっているだけなんだけど。巫女服と狐耳及び尻尾は変えられないし、ただこの状態じゃないとこんな芸当は出来ないのだから仕方がない。
どこまでいってもスペック自体は、モブAの頃のままなのだから。
話を戻してなんでこんな中二病のような姿までして、屋根の上を駆け抜けているのかといえば、
「なんで、なんで勇者と勇敢なる仲間たちがこの世界にいるの?!」
チラリとだけど目があった、あとはもう条件反射だ。
本来は正規の手順を踏むところなのだが、そんな面倒なことはしていられない。
双龍の角亭へと逃げ込んだ私は、少しのあいだだけかくまってもらうように頼み込んだ。
その少しあと、足音とともに誰かが入ってきた。その人物はこう訪ねてきた。
「すまない、こちらにマリアという名前の子は来ていないだろうか」
「いや来てないが、伝言だけなら聞いてやるぞ」
「……いえ、本人に伝えないと意味がないので」
そう言ってその誰かいや勇者はさろうとする。
「今俺宛に伝えれば本人に伝わるぞ」
足音が止む。そして、
「あの時のこと、今はもう恨んでません。だから自分を責めるのをやめてください」
そう言って足音は、外の方へと消えていった。
バツが悪そうにカウンターから顔を出しながら、おじさんの方を向く。
「なぁ、そろそろ話てくれてもいいんじゃねぇのか?」
「んー、そうだね。関係者が来たら話すって約束だしね」
「いまじゃないほうがいいか?」
「うんそうして、あとほかに伝えなくちゃいけない人もいるから、そっちも連れてくるよ」
寮にある自分の部屋で鏡を見る。
黒い髪で平凡な顔、スタイルもそこそこ。稲荷さまモードの時は別にしても本当にどこにでもいるような、そんなただの女の子だった。ただ右手の指出し手袋だけが目立つ(稲荷さまモードの時は顔のパーツ自体は変わらないんだけどなんだか可愛さと美しさがアップしてるって言われた)
そして私は知り合いを集め、触りだけとだけ告げてから私のことを話した。
私が旧世界の記憶を持っていること、そこで私が魔王になったこと…そして私が世界崩壊の引き金を引いたこと。この三つだけ、それ以上は話したくなかった。
話し終えたあとの空気は重苦しかった。
みんなの目を見ることができなくて、自分の寮へ逃げ帰るように帰っていった。
翌日、私は授業やバイトに出れる気分ではなかったのでおよそ一週間ぶりにギルドに顔を出すことにした。
ギルドの方は一週間前と変わらずに賑わっていた。
朝方なのでまだ依頼を受けていない人が多いのだろう。
昼過ぎならここは閑古鳥が鳴いてうるさいくらいだ。
「おはようございます」
そう言って入ると皆が驚いたような目をしてこちらを見る。
カウンターの方へ行くと馴染みの顔のギルド員がいた。
「マリアどうしたの?ここ最近成績が悪いからしばらく休むって言ってたじゃないの」
「まぁちょっとね。学校にもバイト先にもいずらくなっちゃったというか」
「そう、ギルドマスターが呼んでたわ。そのことと関係あるんでしょう」
軽く頷いてからギルドマスターのいる部屋を目指す。
「なんで私には、全部話したのよ。小心者の魔王様」
そのちいさなつぶやきはギルドの空気に溶けて消えた。
「すまん、お主のことを話してしまった」
部屋に入って開口一番、ギルドマスターはそう言って頭を深く下げた。
「いえ、構いません。あなたならばこのことを話しても問題ない人にしかはなさないでしょうから」
できるだけ丁寧に告げる。
およそ30程度しか生きていない小娘なのだ。
どんなに頑張っても十代そこそこまでしか生きられなかった子供なのだ。
それが倍以上も生きている人の頭を下げさせることになってしまったのは、私の肩書きとその証明をする元【枯渇のルーン】、今は【奪力のルーン】があるからだ。
たくさんの時間をルーンの制御に使ったが、それだけでしかない。生きてはいない。
社会にいた時間が果てしなく短いのだ。
だから目上である人には敬意を払うし、こんなふうに頭を下げられる人物ではないことを自分は知っている。
にもかかわらず、頭を下げた。ならばこれは最大級の謝罪だと思う。
私はそれ以上咎めようとは思わないし、何より勇者が来ても話すなとは言わなかった。
過去ではなく今を聞かれたら話していいとは言っていたが、私が少し震えていたのに気がついていたのかもしれない。
だからこそ気にしないでくださいと念を押した。
わずか十分にも満たない会話だったが、ものすごく疲れた。
階段を下りていると騒ぐ声が聞こえてきた。
掲示板のある大広間に着くとその声の主がいた。
ガタイのいい大男がなにか喚いている。
その喚いているカウンターの方まで行くと。
身振り手振りで顔なじみがこっちに来るなとサインを出す。
が喚いていた男も冒険者なのだ、そのサインを目ざとく見つけ、サインの対象者である私を見つけると、
「あの小娘がそうなのか?」
何やら雲行きが怪しくなってきたかな。
「ちょっとこっちに来い」
と言われて手を引かれて、連れてこられたのは演習場と呼ばれる広い土地だった。
だだっ広いだけで軍も借りることがある程度の認識しかない。
「ここならいいだろう?魔王」
「…なんのよう。その名前で呼ぶのなら」
「おーっとそんな脅しは通用しねぇぜ。どうせ魔王なんてのは嘘っぱちなんだろ?そんなに強くねぇのは、見てればわかる」
ルーンが疼くほんとに中二病ですか私は、でもそんなこと言うのなら、
「稲荷さま力を」
すぐさま稲荷さまモードになる。
「本当に後悔しないでくださいよ。魔王は、制御できなかったら滅ぼしたんです」
力任せに突撃する。それ以外に私ができることはない。
なにせ素人なのだ、戦いは。問題は制御不能な力にある。
愚直なまでの突撃はいかに早かろうとガタイのいいおっさんから見れば、ただ単に早いだけの猪もどきでしかないのだ。
簡単に自らの大剣で防ぐ、右の拳を。
「ふん、やっぱり素人だな。いかに早かろうとそんなわかりやすい攻撃では…?!」
おっさんは自分の相棒の無残な姿を見て驚いていた。
大剣は半ばから折れていた。
「折られた?いや伝わった力は、この剣が折れるような力じゃなかった。とするとその右手か」
「そうです、この右手が魔王たる所以です。ただし制御できるようになったのはこの世界に来る直前でしたが」
「どうゆうことだ?その力があったから、魔王なんて呼ばれたんだろ」
「結局魔王は記号なんです、教えるつもりはありませんが。さて次は稲荷さまの力を借りた符術というやつです。受けてくださいな」
右の袖から符を取り出し投げる。
おっさんは難なく避ける。その符は地面に張り付いた瞬間爆発した。
「うおっ、危ねぇ危ねぇそれが符術ってやつかい。だが爆発するだけじゃ芸がない。まだまだできるんだろう」
「ええ、お次は『感電』」
またも左手で、符を投げる。
それが空中で静止すると符から電気が放たれた。
範囲自体は広いとは言えないため、彼にとってみれば難なくよけられるそんな攻撃だった。
そう避けたはずなのだ。
「ガハッ!」
自分の口から漏れ出た声に驚きを隠せなかった。
「…何を…しやがった」
「何も、あなたが持つそれに電気が通って感電しただけです」
指差したのは半ばで折れた大剣、彼はそれを見て笑う。
「なるほど、ただの魔法とは違うということか」
そのしびれがなくなると同時に、彼は私の反応できない攻撃をしてきた。
不可視だったわけではなく、虚をつくというのが正しいのだろう。
「っ!」
左腕が折られたような痛みがある。
左腕をプランとさせる、強引に動かすことはできそうだけど無理するとあとに響くからやらない。
仕方ないか。
「なんで右腕を狙わなかったの?」
「符術は、左でしか使っていなかったからな右手だと君とって不都合があるとみた」
「あなたにとって、とは考えなかったのですか?」
「…君は本当に魔王なのかい?」
「記号として魔王なのかと聞かれれば魔王です。心まで魔王なのかと聞かれればそれは否と答えさせていただきます」
「なるほど。謝ろう、君を魔王と言ったことを」
「あなたにはそのことで謝ってほしくないです」
疑問符が浮かんでいそうな顔をした彼に対して続ける。
「私は今、魔王いえ犠牲になった人たちの思いを受け継いでいるのです。あなたが魔王といったことに対して謝るのであれば、私が受け継いだ想いをわかってからにしてください。そうでなければ、謝ってもらっても上辺にしか聞こえません」
「上辺だけか」
頷く、彼はしばし考える。
「君の右手に宿っている力見せてくれないか?」
「死ぬかもしれませんよ」
「構わない」
「では、炸裂」
といって右手に符を持って投げる。
彼は軽く避けようとしたが、突如力が抜けるように崩れ落ちた。
そしてそのまま爆発に巻き込まれる。
爆煙が晴れたあとには軽く咳き込む彼がいるだけだった。
「な、なんだ、今のは?」
「なんだも何も、あの炸裂符は、いえ右手で使う符全てが対象の力を奪ってその力で発動するように変わっちゃうんです」
「それが今君の右手に宿ってる力ということか」
また頷く、そうして私は左手を彼に差し出す。
「君の左手は、つかえなかったのでは?」
「治っていたんです。いつからとは言いませんが」
「それも右手の「いいえ違います」そうか」
そうして立ち上がった彼はそのままそこを去っていった。
ただ一言、
「魔王はもう現れない…か」
独り言のようにつぶやいて。
ひとり残された私は悩んでいた。
「どーしよっかなぁ」
時間はお昼前、急いで戻ってきたものの。掲示板はものの見事に真っ白であり紙が貼られていたであろう痕跡はあれど、そこに紙の一枚も残っていない。
本当なら長期の依頼を受けて、気持ちを整理してから戻ってみんなにフツーの顔をしたかったわけなのですが。
「お昼もまだだけど、しょうがない。買えるだけのお金も今はないし。抜くか」
抜きすぎるとルーンが強制発動するわけですが、そこは仕方ないと諦めましょうか。
時間を潰すために、ガランとしているギルドの一階のベンチを敷布団がわりにそのまま寝る。
懐かしいと思いつつも、ここで寝るのはいつぶりだろうか。
「二年と四ヶ月ぶりね」
そう言ってきたのは、私が初めて秘密を話した受付の人だった。
「リーファさん」
「懐かしいわ、あの頃のあなたはひどく人にびくついてた。当然ね、あの頃のあなたにとって人は恐ろしいもの以外の何者でもなかったでしょうから」
そう言ってきた。
「あたしもその頃のあなたがなぜこんなに人に怯えるのに、冒険者なんて向いていない職業をしてるのか全くわからなかったわ。あなたが昔を話してくれるまでは」
懐かしむように二年前のことを話す。
「あなたはその日暮らしを続けてきた。だから、失敗してお金がないときはここで寝ていた。当然ね、あなたにはその頃この世界について全く分かっていなかったんだから、宿の方が安全なんてことも知らなかった。それどころか人と話すのも怖かった。宿屋のおかみさんもじっくり話して二ヶ月もかけたって言ってたわ。私もそれくらいかかるはずだった、あの話が出なければ」
「そこまでです」
「ごめんなさい、つい昔が懐かしくって」
話を切られたことよりもあのことが残した私の陰鬱な気持ちに気がついて謝ってくれる。
話した理由それは、
「優しいから、ですよ」
「そう」
静かに時間だけが流れる。
「失礼します。まるで絵画のようなこの空気を崩すのはいかがなものかとも思われたのですが、このままではしばらく話ができそうもなかったので」
そう言って、この空間に割って入ってきたのは、
「…聖女様、あなたまで来たんですか」
「いいえ私は、皆の代表としてきたのです」
「二人共落ち着きなさい。話が噛み合ってないわ」
「つまり、全部話したと?」
「はい、誤解なきよう言っておきますが私たちが旧世界のユグドラシル様から聞かされたことだけです」
「じゃあ、魔王が何を持って魔王なのかとか世界がなぜ滅びるほど腐敗していたのかは話してないのね」
「そうです。魔族についてもですね。…もし、あなたが善人であったなら、生きるのに必死でなかったのなら成功していた計画かもしれません。また彼らがルーンにあれほどまでに固執しなければ滅びは避けられたかもしれません。今となっては後の祭りですが」
「……それについて弁解はないです。でみんなは?」
「理由はどうあれいつもどうりに過ごして欲しいだそうです」
「難しいことを簡単に言ってくれちゃって、私がどれほど恐れているのか」
「あの場であんな大胆なことをした人とは思えませんね」
「死んじゃえばさ、誰とも会わずに済むからあれは一世一代の大勝負だったんだよ。失敗しちゃったけど。だから、これの制御を完璧にしてもさ不安だったんだ。しかも話したあとの空気があの時と重なってさ」
「だから、みんなから距離を置きたかったと」
小さく頷く。聖女様はため息をついたあと、
「あなたはもう少し、周りの人を信じてみるべきです。たとえ過去にあれほどのことがあっても今のあなたのそばにいる人たちはあの村の人達と同じでとても優しい人たちばかりなんですから」
「いつもどうりでいいんだよね」
「はい、あなたが全てを打ち明けるその日まで…いえ、おそらく打ち明けてもからわず接してくれるでしょう」
笑顔で言ってくれる聖女様、なら私は、
「元魔王は新世界でモブやっております!!」
最高の笑顔で答えた。
それ以外も見たいというのなら感想よろしくお願いします。
ボツネタといて出したいと思います。