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Relate  作者: 玉城樹理
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第0章 窮猪、突進す

かなり気分に任せて書いていますので、設定や文体などに矛盾が生じる可能性があります。それを了承のうえでお読みください。

 私が行ったときには、戦闘は終盤に入っていた。

「どうします? これからでも参加しますか?」

 隣にいた部下の質問に私は首を横に振った。

「やめとくわ。部下の手柄を横取りしたなんて言われたくないし、他のギルドの連中もいるみたいだから、変に介入するといざこざを抱え込むことになるしね」

「わかりました」

 意外と素直に引き下がった彼女の態度に、私はおかしく笑ってしまう。

「リリィ、本当は参加したいんでしょ? 私に構わなくてもいいのよ?」

「い、いえ! そういうわけでは!!」

 完璧に図星だったらしい。顔を赤くして否定しても何の意味もない。本人もそれに気づいて、今度はばつの悪そうな顔を私に向けてきた。

「申し訳ありません、バトルマスターのおっしゃる通りです」

「なら参加してきなさいよ。私のことは気にしないで」

「……はい。ご配慮、ありがとうございます」

「じゃあ、楽しんできてね~」

「はい!」

 元気いっぱいの返事をして、リリィが崖に向かって一直線に走りこむ。

 まるで水泳の飛び込みのようにきれいな落下線を描いて、その姿は戦場へと消えていった。



「さて、と……」

 私は一人、離れた崖の上で高みの見物を続ける。ここは戦場から少し離れた切り立った崖の上。落ちれば数秒の空中散歩の後、確実に死ぬ。まさに高みの見物にふさわしい場所。

 今回の敵は少々厄介な相手だった。

 突如、山間の村に巨大なイノシシに酷似したモンスターが現れて、手当たりしだいに破壊行動を行いだしたのだ。当然、村人は困り果てて、それをギルド連合に通報。結果、血気盛んな連中がこうして狩りに出向いたという経緯だ。


 集まったのは五十人ほど。そのうち十人ほどが私たちのギルドのメンバー。

 それほどの人数なら、巨大なイノシシ程度簡単に打ち倒せるだろうけど相手は単なるばかでかいイノシシじゃない。

 地面から肩まで最低十五メートルはある。しかも、体のほとんどの部分を鎧のように硬い外皮で覆っていて、物理攻撃ははじかれる始末だし、あれほど厚いものだとなかなか魔法も通らないだろう。

 現場はさぞ苦労してるんだろうけど、頭を振るだけで数人単位で人が吹っ飛ぶさまは見ている分にはおもしろい。


「ふむ」

 まぁ、確かに手ごわい相手ではあるけれど、所詮頭の中身はイノシシと変わらない。 敵の有効な攻撃といえば突進ぐらいなもので、私が来る前すでに脚の一つへ傷を負わせることに成功させ、それを防いでいた。加えて毒の魔法で徐々に体力を消耗させつつ、さらに他の脚に攻撃を与えて少しづつ相手の戦力を奪っている。このままいけば、時間はかかるが必ず勝てるはずだ。


 しかし、まだ決着がついたわけじゃない。これからが本当の正念場となる。

「追いつめられた鼠は虎を殺せるからね~」

 世の中、簡単にいかないことだらけだ。そう考えれば今回のことだって、簡単に終わらないだろう。問題はどういう展開になるかということなんだけど、それは私も予想できない。


 エルフの視力の良さを活かして戦場を観察していたら、さっき飛び込んで行ったリリィの姿が現れた。

彼女の得意とする分野はスピードとテクニックで、今回の敵みたいに火力が必要な相手とは分が悪い。そこをどう補うのか、少し興味があった。


 爆音、轟音が飛び交う中、リリィが味方の間を縫って敵へと走り出す。そして、相手の動きが止まった瞬間、跳躍力を活かして巨大イノシシの上にとりついたのだ。

「へぇー、すごーい」

 本当にすごいのは、そのあと。

 イノシシが気づく前に、神業とでもいうべき技でいくつかの短剣を厚い外皮の隙間に差し込んだのだ。一秒もかけず、的確に的を絞って正確にナイフを突き立てたのはさすがとほめるしかない。そのあとは、イノシシが振り落とそう体を揺らす動作に合わせて、無理なく地上に戻っていた。


 もちろん、彼女は短剣をただ飾りにいったわけじゃない。その効果は早くも数秒後に出てきた。

 外皮に挟まった形で刺さっていたナイフが光りだしたかと思うとそれが爆発、それで外皮の一部が吹き駑馬されたのだ。

 おおおおおお! と上がる歓声。早速むき出しになった柔らかい身へと攻撃を集中させる討伐隊。


「終わったかな――」

 私も勝利を確信していた。けれど、次の瞬間にその考えはぐるりと変わってしまった。

「ウォォオォォォォ!!!!」

「なっ!??」

 それは一瞬の出来事。

 なんと、巨大イノシシが突然自分の防御の要であった外皮を吹き飛ばしたのだ。

「強制パージ……!」

 その威力は絶大。何しろ勝利を急いだ連中が近くに寄っていたために、もろに吹き飛んできた外皮にはじかれる形となってしまった。重たい壁が飛んできたのと同じことだ。離れていた人もかなりの人数が外皮に跳ね飛ばされてしまっている。

「あーあ。これは立ち直るのに時間かかるわね~」

 本当、世の中うまくいかないことばかり。


「おい! 大丈夫か!!」

「動けない奴は後ろに下げろ! 残りはあいつの足止めだ!」

 それでも討伐隊はかなりの手練の集まり。混乱をすぐに収集して再起しようとしている。どうやらイノシシのほうもそれに気がついたようで、その場から離れようと傷ついた脚を無視して村のほうへと突進をかける。


 私が巨大イノシシの化け物の進む先を見たとき、思わず目を疑った。

 いや、村の建物が壮大に破壊されているとか、被害が甚大なことに対してそう思ったんじゃない。その進路の先に、どうみても無関係の人影があったからだ。

「どうして!? 村人は全員避難したんじゃ!??」

 今はそんなことどうでもいい。とにかく対策を――。

「……」

 落ち着け。

 どうする? あんな巨体の突進は生半可な攻撃じゃ止まらない。私のいるところから、どうすればあの人を救えるのか――。


「なかなか、どうして度し難い!!」

 その思考に意味はない。

 考えている間に私は自分の大弓を握りしめ、崖の上からダイブしていた。一瞬の浮遊感の後、重力の感触が体をとらえる。下から押し上げるような気流に私の髪が激しくなびいた。


 普通に向かっても間に合わない。

 それに地面に足が着いてから攻撃しても、無防備な人影が無残に突き飛ばされているのを見るだけ。

 故に、攻撃は落下しながら行う!

『動ける人は援護をお願い!』


 【CODE】SKILL Ⅴ 透光  

 【CODE】SKILL Ⅶ 天空の黄金郷


 間に合え――!!



 恐怖を見つめていた少女に光がさした。

 それは空からの救い。


 ズドン!ズドン!

 強烈な地響きは空から落下してきた二本の光の柱が、巨大な化け物を地に縫いとめた音。突進を完全に止め、巨大な化け物が断末魔を上げてるほどの威力。

 そして、少女は見た。

 空に黄金色(こがねいろ)が広がっているのを。

 それはみるみる地上に近づいてきて、あたり一面を明るく照らしていく。


 視界が光で覆われる中、少女はある言葉を聞いたような気がした。



 ―――――――生きて、と。


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