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呪われし勇者様

作者: TKミハル

 超短いですが戦闘シーンがありますので、暴力行為がお嫌いな方は見るのを控えてください。

 ギィィィィンッ!

 剣が敵の存在を音と振動で伝え、勇者が大声で叫ぶ。

「おまえたち、この勇者が相手だ!もう好き勝手させない!」


 ややあって、盗賊たちがガヤガヤと、

「おい、こいつ自分で勇者とか言ってるぞ」

「痛いんじゃね?」

「よし、やっちまえ!」

ワァアアアアアと闘争心溢れる歓声が上がり、斬撃の音が響く。


 それを盗賊たちのアジトの中で聞いていた僧侶ジークは、盗賊たちが近隣の町村から盗んだ金品の中から足がつきにくい剥き出しの宝石や金貨を袋に詰めていた。


 (自称)勇者カルナスは声が大きく、派手で、正面から突破するのが好きだからこういう時に役に立つ。

 ……しかし、あれだな。例え裏側が崖でも、アジトに裏口はつけるべきじゃないな。

 崖とアジトと呼ばれる小屋との細い隙間を通り、余裕で入ったジークは一人思う。


 ギャァッとか、うわぁあああっとか、断末魔の叫びが増え、そろそろかな、と袋をきつく縛って持ち上げ、再び裏口から出ようとした時。

「ん?」

 アジトの正面入り口から誰かが近づいてくるのに気がついた。


 バタバタと足音とともに、盗賊の一人がこの部屋にやってくる。

「くそっ、せめてお宝だけでも持って……」

 バタンッとドアを開けた男は、言い終える前に隠れていたジークのメイスによって殴られ、昏倒した。


「おお、ジークいたのか。首尾はどうだった?」

「もうだいたいこのぐらいでいいだろう。それで、依頼主はどの辺りで見てるんだ?」

「戦闘が始まった直後から巻き込まれたくないと遠くに行ってしまったよ。でもそろそろ来る」

「……そうか。まずいな」

「だからそれを早く隠してきてくれ。話はそれからだ」


 ジークは裏口をなるべく音を立てずに開け、しばらくして戻ってきた。

「でも、本当にいいのか?」

「ああ……手加減しろよ」

「わかってる」

 勇者はそして、僧侶をまず気絶させ、それから派手に殴りつけた。


 近隣の町村に、盗賊団のアジトが壊滅した、との知らせが入ったのはそれからしばらく後のことだった。


「いや、本当にありがとうございました。おかげで町や村の人々も救われます」

「いえ。私も、この僧侶が攫われた時はどうしようかと思いましたが……彼も無事だったし、宝も戻って本当に良かった」

 勇者は頬が腫れ上がり、あちこちに青あざを作った僧侶の肩をバシバシ叩いた。


 ジークは痛みを堪え、笑みらしきものを浮かべてみせる。

「そうですね。彼が無事でよかった。本当に、ありがとうございました」

 領主が頭を下げ、まわりにいた痩せている町民や村民も口々に勇者にお礼を言う。栄養がよくつやつやした手からやけに少ない報酬を受け取ると、それでも幾人かの恨みがましい視線が突き刺さった。


キィィィィンッ

殺気に反応した剣が声高く鳴る。


「そ、それは……?」

 すでに領主にはこの剣は敵に反応する、と説明してあるので、領主はおびえた目で辺りを見回した。


「ご心配なく。隣町に続く街道で、誰かが事件に巻き込まれたようです。この剣はごくたまに遠くの敵も察知することがあるので」

 僧侶ジークの落ち着いた言葉に、領主も胸を撫で下ろす。


「それでは。助けを求めている人がいるのでこれで失礼します」

 勇者が爽やかな笑みとともに別れを告げ、二人は町の広場を立ち去った。


 隣町に向かう街道で、カルナスは思いっきり伸びをしながら、

「もうそろそろいいんじゃないか?怪我の治療」

「ああ」

 回復の呪文を唱えると、僧侶の体からあざが消え、頬の腫れも引いて元に戻った。

「めいっぱい殴ってくれやがって」

「あの怪我のおかげで、疑われず、報酬を貰う時に憎しみを買うことも少なくて済んだんだから」

「しかし、あの領主は相当黒いな。おれたちに恨みの矛先を向けようと、わざわざ税に苦しむ町民の前で報酬を渡すなんて。まったく、なんの罰ゲームだ」

「別にいいじゃないか。後は中央にあの領主の横領証拠を提出して、この件は終わり」

 カルナスがバサバサと紙の束を振る。

「おい、もっと丁重に扱え」

「へ~い」

 ジークに指摘されて肩をすくめ、紙の束をカバンへとしまった。


「それはそうと」

「……まだ何かあったっけ?」

「いい加減その剣売るか捨てるかどっちかにしろ。確かに切れ味はいいかも知れないが、フォローにどれだけ苦労したと思ってる」

「え~、何を言うんだ。買ったばかりじゃないか」


 カルナスが最近手に入れたこの剣は、敵と感じた者の接近を音と振動で持ち主に教えてくれるアイテム。殺気や敵意を察知するたびに街のど真ん中であろうと隠れている最中であろうと鳴りまくるので、使えないことこの上ない。


「いや、それがさあ……魔法道具店で買うときどうしてもこれが欲しいって思ったせいかなんか、この剣に持ち主認定されちゃったみたいで……その辺に置いても戻ってくるんだ」

 忘れた時とかにすごく便利なんだけどね……と笑うカルナス。


 もう、言葉もなかった。

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