終章
終章
スノウや姉達がこの世界から姿を消した事はローシャからローレンは聞くことになる。
「ほんとはスノウなんて、居なかったのかもしれない。ローシャが寂しくて見た幻だったのかもしれないって思ってたの」
「そうだとしたら僕も同じ幻を見てたってことになるな」
そんな言葉を交わしながら、噴水に腰をおろす。
「僕は心臓を患っていた。痛みに耐えきれなくなっていた。あいつが、スノウが助けてくれるって声が聞こえた気がした」
「そうしたら?」
涙を流して床をはいずりまわり、体中の痛みに耐えられなくて心臓の動きが止まればいいとさえ思った。そんな苦しみの中、ただ声が聞こえた。その声にすがるようにローレンは言葉を受け入れた。
「そうしたら、今の前のまま、何も変わらない自分が居た」
目が覚めたら痛みと病気は全く感じない体に戻っていた。
「きっとスノウが助けてくれたのよ」
「さっきと言ってた事が違うんじゃないか」
そうは言ったもののローレンは彼女の言葉どおりの結論を信じていたかった。
「だって天使様が奇跡を起こしてくれたって思えば、ベルゼブが生き返ったのも、坊ちゃまの病気が治ったのも全部説明が付くし、素敵じゃない」
「そうかな。
そうかもな‥‥」
自分に言い聞かせるようにローレンは繰り返した。
「ところでローシャ、僕はもう坊ちゃまではなくなったんだよ」
ローレンの父はローレンと同じく心臓を患らいそのままこの世の人ではなくなった。怒り狂った王は医師を探すが、科学者の調子を整えるため、管理するため雇われた医師は死体となって発見される。
医師と思われる死体はこの寒い冬の気候でどうすればここまで腐るのかというぐらい進んだ腐敗具合からして最近途絶えた命では無い事は誰の目にも明らかであった。
そのため大掛かりな兵器開発は不可能になり、中止とならざるをえなかった。今までどおりの簡易な軍備力では他国に知らぬ間に占領されてしまうだろうという事で王は慌てて協定を結びだすことになる。
医師を通じて助言を与えてくれていた存在もいなくなり、この国の方向性を修正せざるを得なかった。
「戦争などしなくても、平和を手に入れる方法は幾らでもある」
もともと戦争が嫌いだったヴラディーミル第三王子は自ら進んで隣国コウクナの第五王女を后に迎え親族関係を築いた。
父親というものがいなくなった今、ローレンは貴族より高い身分を持っていられる事は無く、この街に来る前の家に帰る事になり、使用人も全員解雇となる。彼らには迷惑をかけたとその点だけは謝罪した。
「そう。帰っちゃうの」
残念そうにつぶやくと目をそらす。
「この街は僕には優しくないからね。僕は僕でいられる土地に帰るよ」
貴族でもない青年がこの街でシャム様と呼ばれ、暮らしていくのは楽なものではなかった。
自分の是からのきっかけを話すと「君はどうするの」とローレンはローシャに問いかける。
「ローシャはこの街で生まれたもの。この通りで育ったもの、ずっとここに居るわ。いつでもスノウが帰ってこられるように」
彼女は両手を広げて空を仰ぐ。その仕草は満面の笑みとその声を空へ届けるかのようにローレンには見えた。
「君がそんなに優しいからあいつの事だ、また冬になったらきっと降りてくるだろうな」
「冬になったら」
そう言って建物の隙間から見える雲ひとつ無い青い空を二人で見上げた。
こんな展開でごめんなさい的な終わりでございます。
駄文な長文を読んで下さった方、ホントにありがとうございます。
実はこの終章だけは、早いうちに頭にありまして…、ここに向かって来てしまった感はあります。
ローレンが影の薄い主人公になっちゃってるので、また別の話で挽回してあげたいなぁと、モキモキしてるわけですが〜。
遅筆なので、のんびり妄想してるかもです。
他のお話も読んで頂けたら幸いです。
※ 続編作成しました。話の向かう先は少々違いますがこちらもよろしくです。>>『子連れスチュワードの縁由』連載中です。