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全てのことに感謝を 2

「北村さん……」

「菅沼、止せっ!」

「かっこ良かった先輩をあんなに太らせて、病気にしたわ。殺したのはあんたよ」

博美を打った人物、それは北村冴子だった。彼女の行為に俊樹をはじめ衛の同僚たちが慌てて止めに入る。

「それは、そのままあんたに返すわ。あんたがおらんかったら、衛君と博美ちゃんは別れんで済んだんや。そしたら、衛君は一人寂しく大食いする必要はなかった。そしたら、今みたいな結果はなかったはずや。僕は赦しを説く立場やけど、あんただけは許せそうにない」

それが冴子だと知ると、信輔は彼女と博美との間に立ちふさがり、そう言って声を荒げた。

「曳津先生、それは違うわ」

「何がちゃうの!」

「確かに、私も北村さんのことは許せなかったの。特に、15年ぶりに衛に会った時は、私の15年間を返してほしいと思った。

でもね、許せませんって祈っても平安は与えられなかったの。そして神様は私に、『このことを感謝しなさい』って示されたの」

信輔は耳を疑った。許すことができない事柄をどうやって感謝しろというのだ。

「北村さん、あなたがいなかったら私たちは離婚してなかった。それは事実だと思う。だけど、離婚は私が持っていたコンプレックスから私を解放してくれた。もし、あのまま衛と夫婦を続けていたら、私きっと壊れてたと思うから」

「博美ちゃん……」

「それにね、衛は私と離れることで神様と向き合うことができたと思うの。神様は衛がちゃんと信じた上で引き上げてくださった。昨日の洗礼式で、私ははっきり衛の永遠への道が見えたよ。北村さん、私はあなたがいたから御国に望みがつなげた。それは感謝すべきことだとは思いませんか、曳津先生」

「それは……」

「『いつも喜びなさい、絶えずいのりなさい、すべての事に感謝しなさい』まさにみことばの実践ですね」

そのとき、そこに安藤が割って入った。

「安藤先生」

「曳津先生、先生は私に寺内さんの洗礼準備会を頼むときに言ってくださったじゃないですか。『このことに深い神の配慮を感じる』と。人間的には悲惨だとしか思えないこのことですが、神はそれすらも恵みへと変えられる。私は今、神のそんな深い摂理に感動で震えが止まらない」

そして、安藤は博美に感謝すると言われて戸惑いを隠せない表情で固まっている冴子に向かって言った。

「北村さんとおっしゃいまいしたっけ」

「今は結婚して菅沼です」

「菅沼さん、あなたは本当は自分が不用意にいった一言で寺内さん夫妻が離婚してしまったことを後悔しているんじゃないんですか」

「あ、いえ、ええ……」

冴子は安藤にそう言われて、くしゃっと顔を歪めると涙をこぼした。憧れの先輩、その人が見ていたのは自分ではない女性。どんなことをしてでも手に入れたいと思った。

 でも、彼は別れた後も自分を見てはくれなかった。彼の目に映っていたのは、いつも一人だけ……何故だ、どうして彼女にそんなにこだわるのかとずっと思ってきた。

 だけど、今それを当然だと思った。恨まれても仕方ない自分にありがとうと言える女性に、どうして勝つことができるだろう。

「じゃぁ、悔い改めましょう。悔い改める者の罪を神様は許してくださいます。あちらで一緒に祈りませんか」

安藤の誘いに冴子はこくりと頷いた。


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