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本心

 離婚後、博美は名村家に戻った。博美は衛も生家に戻ってきて再々顔を合わせるのではないかと、内心ひやひやしていたのだが、衛は家族で住んでいた家を引き払って会社の近くに一人住まいを始めた。

 別に衛の顔をもう二度と見たくないというように愛想尽かしをしているわけではない。寧ろその逆だった。博美はたった一度の過ちを許せなかった訳ではなく、衛が新しい人生を冴子と歩めるように自分から手を離したのだ。

自分ではこれからも衛を男として満足させてやることはできない。送ってきたあの時、射るように自分を見、懸命に自分のものにしようとした彼女なら、きっと彼をもりたててくれるはずだ。きっとすぐに彼には次の子供たちが生まれるだろう。寂しいが私には明日美がいる。

 ただ、実家に住む事によって冴子とニアミスすることは嫌だった。どんな顔をして彼女に挨拶したらいいか判らない。

 だから、実家から離れて住んでくれたのは正直ありがたかった。

 そして、衛は明日美との“デート”の時だけ、衛の実家に連れていった明日美を迎えに来る。

 接点はただ、その月に一度の親子のふれあいの話を明日美の口から聞くだけ。それと、離婚後も明日美のためにと戻さなかった寺内の名字と……それは、本当は明日美のためではなかった。結婚後家にいた博美と保育所にさえ通っていない明日美には、名村に改称したところで何ら問題はなかったのだが、寺内という名を捨てたとたん、血のつながりのある明日美はともかく、自分はもう衛とのつながりは何もかも切れてしまう、それが博美には耐えられなかったのだ。

 離婚後、しばらくして博美は結婚前に勤めていた会社に復職した。衛からは、明日美の養育費だと二人実家で生活するには十分すぎる金額が送られてくる。博美にはそれが心苦しかった。できるなら衛の新しい家庭にそれを使ってほしい。突き返すためには親のすねをかじっている訳にはいかない。

 やがて、養育費の半額を送り返した博美に、衛から電話がかかってきた。

「これは、一体何のつもりだ!」

「私だって仕事始めたし、もうこんなに要らないから、自分たちのために使って」

「余計な気を遣うな!!」

そう言いかけると、衛は博美に最後まで言わせないままそう言って怒鳴った。

「だって……」

「ちゃんと自分の生活できる分は取ってその上で送ってるんだから、心配するな。残ったら貯めとけ。これから明日美の学校に、いくらかかるかわかんないだろっ。母親なら……」

と、今度は結婚していたときさながらに、夫風を吹かせて博美を責め始める。

「もう良いわよ! じゃぁ遠慮なくもらっとくわ」

せっかく衛のことを心配しているのに、母親失格のように言われたのではたまらない。博美はプリプリしながら自分から電話を切った。

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