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人の想いに勝る思い

「でも、本気じゃないんだ。冴子に迫られてつい……」

続いて衛は必死で言い訳をしていたが、それは何の効果もなかった。その場で博美は明日美を連れて出ていき、翌日実家に迎えに行っても、信仰深い両親は浮気をした男を大事な娘と会わせようとはしなかった。

 それから果々しい話し合いもなく、程なくして離婚届けが送られてきた。衛は明日美の養育費を出す代わりに、一月に一度彼女と会うことだけを要求し、博美もそれに応じたので、寺内衛・博美夫妻の離婚が正式に成立した。

 そのことを事後報告で博美の電話で聞かされたとき、順子は落ち込んだ。

「きっと、私があんな事を言ったからだわ。牛とロバを同じくびきにつないじゃったのよ」

と、かつての日、衛に妹を頼むと言ったことを悔やんだ。

自分が衛に結婚など仄めかさなければ、衛は博美を意識してみることもなく、結婚には至らなかったに違いない。

 だが、それを聞いた信輔が怒りだした。

「そんなん、順子さんのせいちゃう。誘惑に負けたんは衛君や。子供の頃からの付き合いやねんから、博美ちゃんの性格を考えたらほんの浮気心が通用するはずないことくらいわかってるはずや」

そう言って、信輔はやにわに衛に電話をして意見し始めたが、途中から打って変わって聞く側に回ってしまい、横にいる順子には詳細がつかめない。

「そうか、君がそんでええっちゅうねんやったらしゃーないけど、ほんまにそれでええのんか?」

ただ、信輔が眉に皺を寄せたままなので、やはり復縁は難しいのだろう。

「ほんならな、この電話は衛君がそのまま持っていくんか? もし変わるんやったら、それも知らせてくれる? 

そしたら一番御心に叶うようにお祈りしてるわ」

信輔はそう言って電話を切った。

「衛君はどう言ってるの?」

「うん? 自分の責任やから離婚するて」

「そんな、ヒロたちには明日美ちゃんもいるのよ! 信輔先生が悔い改めに持っていって和解とかできないの!?」

「まぁ、順子さんの気持ちは解るけど、お互いの離婚の意志、固そうや。それに、『人の思いに勝る神の御思い』を感じるんや、僕」

「えっ?」

「僕たちにはまだそれがどんな恵みになって返ってくるかわからへんけど、博美ちゃんと衛君にはこれは必要なことなんや、僕は何かそう思う。中野先生もよう言うてはったやろ、『人生に偶然はありません。すべて神様のご計画の中にあるのです』ってさ」

確かにそれは恩師の十八番で、幼い頃から繰り返し聞かされたフレーズではあったが、妹夫婦の離婚がどう転がれば恵みに発展するのか見当もつかない。

「だから、僕たちは祈ろ。衛君たちの選択がどんなに先になっても大いなる恵みの実になって返ってくるように」

この結果は大いに不満だが、それでも不満だという事も含めて自分たちには祈る以外に知恵も力もない。順子は信輔の祈りの言葉に合わせて手を組んで頭を垂れた。

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