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過ち

「明日美!!」

衛はまず、うつ伏せになっている明日美を抱き起こした。涙と鼻水でぐちゃぐちゃではあるがすやすやと寝息をたてている。熱もないし、大泣きしたまま眠ってしまっただけのようだ。衛は明日美を抱いたまま今度は博美に近づいた。

「博美?」

だが、博美はそんな衛をまるで化け物でも見るかのように、瞳孔を広げて震えて後ずさりしたのである。衛は明日美を抱いていたので、明日美が何をしても泣きやまないので、精神的にくたびれてしまったのだろうと解釈した。

「ん? どうした?」

だが、そう言って衛が微笑みながら博美の頭を撫でようとすると博美は弾かれたように彼から飛び退いた。

「さ、触らないで!」

そして今度は強引に明日美を衛の手から取り上げると、その胸に抱いた。急に揺すぶられたことで目覚めた明日美が「ふぇ」

と軽く泣き声を上げる。

「明日美が起きるだろ」

衛が窘めると、博美は明日美をさらにきつく抱きしめて彼を睨んだ。

「ホントにどうしたってんだ。説明しろよ」

「私たちの事を……」

「俺たちのことがどうした?」

「今日、北村さんから電話がかかってきたの。私に衛と別れてほしいって」

「あのバカ、何言ってんだ!」

博美が昼間の電話のことを切り出すと、衛は舌打ちしてそう言った。

「バカじゃないわよ。それより、私と衛がセックスレスだってことを、何で北村さんが知ってるの!?」

「冴子、お前にそんなことまで言ったのか?」

「私たち夫婦のことをどうして他人のあの人が知ってるのよ! それに、冴子って何? あの人とどういう関係なの!?」

 衛は博美にまくし立てられて、しばらく反論しようと口をパクパクさせながら拳をプルプルと震わせていたが、やがて、意を決したように、唇をかみしめると、膝を折り、博美の前に土下座して、

「すまん、許してくれ! ちょっと魔が差した」

と、額を床に擦りつけたのだった。


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