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戦火の魔眼  作者: 宗
7/21

残された兵たち

王都へ向かった伝令が村を発ってから、二日が過ぎた。


 焼け跡の匂いはまだ残っていたが、村は少しずつ息を吹き返し始めていた。


 倒れた柵は立て直され、焼けた家には仮の布が張られ、井戸の周りには再び人が集まり始めている。


 失ったものは大きい。

 それでも、生きている者は生きなければならない。


 辺境の村とは、そういう場所だった。


 ガレスの隊は、本当に村へ残った。


 十数人ほどの小隊だったが、いるだけで空気が違った。


 村の外れに見張りを立て、夜は交代で巡回し、昼は村人と一緒に柵を補強する。


 兵でありながら、彼らは思った以上に土に慣れていた。


「おい、杭はそっちじゃねえ、斜めに打て」


「これくらいか?」


「逆だ、逆! だから崩れるんだよ!」


 笑い混じりの声が上がる。


 村人たちも最初こそ警戒していたが、今では少しずつ打ち解け始めていた。


 兵のひとりが薪を割り、別の兵が井戸を直し、若い兵が子どもたちに木剣を振らせている。


 戦場帰りの兵たちとは思えない光景だった。


「……兵って、もっと怖いもんだと思ってた」


 母がぽつりと漏らす。


 家の前で干し布を絞りながら、視線の先では若い兵が村の子どもに泣かされていた。


「や、やめろ! 砂を投げるな!」


 子どもたちが笑いながら逃げ回る。


 父が鼻で笑う。


「黒狼が異常なだけだ」


 そう言って、肩の傷を庇いながら薪を運ぶ。


 まだ本調子ではない。

 だが父も、じっとしていられる性分ではなかった。


 レインはその様子を、家の前の石に座って見ていた。


 兵たちの色を見る。


 赤、青、灰、緑。


 疲れている者もいる。

 怯えている者もいる。

 だが黒く濁ってはいない。


 少なくとも彼らは、戦うためだけに壊れた人間ではなかった。


「坊主」


 声をかけられ、レインが顔を上げる。


 若い兵だった。

 まだ二十歳そこそこだろう。日に焼けた顔で、人懐っこく笑っている。


「お前、ほんとに三つか?」


 レインは黙ってその男を見る。


「……さんつ」


「喋り方がもう三つじゃねえんだよなあ」


 男は苦笑して、腰を下ろした。


「俺はルーク。ガレス副――隊長のとこの新兵だ」


 一瞬、言い直した。


 レインは小さく首を傾げる。


「ふく?」


「……偉い人のすぐ下ってことだ」


 ルークは笑って誤魔化した。


 レインはその言葉を頭の隅へ置いておく。


 ガレスはただの隊長ではない。

 村にいるには、少し立場が高すぎる気はしていた。


「お前、怖くねえのか」


 ルークがぽつりと言う。


「何が?」


「戦だよ」


 レインは少し考える。


 怖い。

 だが、それだけではない。


「……こわい」


 正直に答える。


「でも、みる」


「見る?」


「こないと、まもれない」


 ルークは一瞬、言葉を失った。


 三歳児の返答ではなかった。


 やがて困ったように笑う。


「……お前、ほんと変なガキだな」


 その時、村外れの見張り台から声が飛んだ。


「北側に影!」


 空気が変わる。


 兵たちの顔から笑みが消える。


 ルークが即座に立ち上がる。

 ガレスも振り返った。


「数は!?」


「三……いや、四!」


 剣を取る音。

 空気が張る。


 村人たちが息を呑む。


 レインも立ち上がり、北を見た。


 見える。


 まだ遠い。

 だが揺らぎがある。


 黒ではない。


 黒狼軍の濁った色じゃない。


 もっと澄んでいる。

 冷たい青に、薄い銀。


 馬が四騎。

 そのうち一つだけ、異様に濃い魔力の揺らぎがあった。


 レインの目が細くなる。


 兵ではない。


 魔法使いだ。


 ガレスも同じことに気づいたのか、表情を引き締めた。


「迎えろ。武器は下げるな」


 村の空気が、再び張り詰める。


 黒狼ではない。


 だが、ただの客でもない。


 王都から、次の“何か”が来たのだ。

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