Sクラス
魔導課程Sクラス。
それが、レインの新しい所属になった。
魔導課程の中でも上位者だけが入る特待枠。
王立魔導隊候補生の卵が集められる、最上位クラス。
当然、空気は初等課程とはまるで違った。
静かで、張っていて、妙に冷たい。
Sクラスの教室は魔導棟最上階にあった。
半円状の広い講義室。
段差式の机。
中央には術式演習用の広い空間。
壁一面には魔術式の刻印と防護陣が走っている。
いかにも“選ばれた者用”という造りだった。
レインが教室へ入ると、すでに十数人の生徒が揃っていた。
年齢はまばらだ。
だが、明らかに自分より上が多い。
十歳。
十一歳。
中には十二歳近い者もいる。
魔導課程は年齢ではなく、課程進度と成績で上がる。
そのため、Sクラスには二、三歳上の生徒も普通に混じる。
そして、その中で八歳のレインは最年少だった。
「……ちっちゃ」
誰かがぼそりと呟く。
「最年少ってあいつか」
「例の首席?」
「Sで無属性の」
視線が集まる。
好奇。
値踏み。
侮り。
慣れたものだ。
レインは気にせず、自分の席へ向かった。
その途中、ふと目が合った。
ひとり目。
窓際の席に座る少女。
長い銀髪。
淡い青の瞳。
年は十歳ほど。
姿勢が綺麗で、制服の着方にも無駄がない。
机には既に魔導書が積まれている。
いかにも優等生。
だが、ただの優等生ではない。
魔力が澄みすぎている。
青と白。
水と、もうひとつ。
二属性持ち。
視線が合うと、少女は小さく会釈した。
礼儀正しい。
だが距離はある。
「フィオナ・ルクレール」
隣の席の誰かが小声で囁く。
「伯爵家の次女。S常連」
なるほど、とレインはだけ思う。
そしてもうひとり。
「……へえ」
今度は、正面から遠慮なく見られていた。
赤茶の短髪。
勝気な金色の瞳。
年は九か十。
椅子に浅く座り、足を組んでこちらを見ている少女。
整ってはいる。
だが上品というより、獣っぽい。
制服の着方も少し雑だ。
魔力は赤。
火属性、それも濃い。
「今年の首席ってあんた?」
いきなりそう言ってくる。
「レイン」
「ふーん。あたし、ミレナ」
名乗るだけ名乗って、値踏みするように目を細めた。
「ミレナ・ヴァルグリッド。覚えときなさい」
偉そうだな、とレインは思った。
だが嫌いではない。
「よろしく」
「素直ね。つまんない」
そう言って鼻を鳴らす。
たぶん悪いやつではない。
面倒そうではあるが。
そして、露骨に嫌な視線がひとつ。
「……Sクラスも落ちたもんだな」
教室後方。
黒髪を後ろで束ねた少年が、露骨にレインを睨んでいた。
年は十一か十二。
この教室では上の方だ。
痩せた顔。
鋭い目。
神経質そうな空気。
「ガイアス・ノルド」
誰かが小声で言う。
「男爵家三男。去年Aから上がってきた」
ガイアスは舌打ち混じりに言う。
「高魔力だろうが無属性は無属性だ。そんな半端がSとはな」
教室に小さく緊張が走る。
露骨だった。
妬み。
侮り。
敵意。
分かりやすい。
レインは一瞥だけして、何も返さない。
挑発に乗る理由がない。
「気にしないの?」
ミレナが面白そうに聞く。
「別に」
「へえ」
面白そうに笑う。
その時だった。
教室の扉が開く。
「……全員いるか?」
入ってきた男を見て、教室の空気が一瞬止まった。
だらしない。
第一印象はそれだった。
四十代半ばほど。
無精髭。
ぼさぼさの灰髪。
シャツは少しよれていて、外套も雑に羽織っている。
眠たそうな目。
片手には書類の束。
もう片方には、なぜかパン。
本当に教師か疑う見た目だった。
だが、入ってきた瞬間に空気が変わった。
重い。
魔力ではない。
圧だ。
場数を踏んだ人間だけが持つ、静かな威圧。
レインの目が細くなる。
強い。
この男、ただの教師じゃない。
男は教壇に立ち、面倒そうに生徒たちを見回した。
「Sクラス担任、ロイド・ヴァルハルト」
ぼり、とパンを齧る。
「元・王立魔導隊第一師団団長だ。今は左遷されて教師やってる」
教室がざわつく。
元団長。
それも第一師団。
王立魔導隊の中枢だ。
「まあ、お前らみたいな面倒なガキの面倒見るにはちょうどいいってことで押し付けられた」
だるそうに言いながら、ロイドは教室を見回す。
そしてレインで目を止めた。
「……ああ、お前が無属性の首席か」
その目だけが、一瞬だけ鋭く細まった。




