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戦火の魔眼  作者: 宗
15/21

進路選別


 王立学術院、初等基礎課程修了式。


 五年を過ごした大講堂は、朝からざわめいていた。


 長机が並び、壇上には教官たちが並ぶ。

 初等課程を終えた生徒たちは、それぞれ正装に近い制服姿で席についていた。


 レインもその中にいた。


 八歳。


 背は同年代よりやや低い。

 黒髪、落ち着いた目、目立たない顔立ち。


 五年前に王都へ来た時の幼さは消えたが、それでも見た目はまだ年相応の少年だ。


 ただし、成績表の上では違う。


「初等基礎課程、首席修了。レイン・アルト」


 講堂に名が響く。


 静かな拍手が上がる。


 レインは壇上へ上がり、修了証を受け取った。


 それだけだ。


 派手な演説もなければ、喝采もない。

 ただ“今年の首席”として呼ばれ、降りるだけ。


 だが、それで十分目立つ。


 席へ戻る途中、視線が刺さる。


 羨望。

 無関心。

 嫉妬。

 軽蔑。


 色が混じる。


 レインは何も気にせず席へ戻った。


 五年間、彼は徹底して目立たないようにしてきた。


 剣術は上位。

 魔力制御も上位。

 座学は首位。


 だが、どれも“上手い”止まり。


 飛び抜けない。

 異常に見せない。

 目立ちすぎない。


 魔眼は一度も見せていない。


 見えることも、分かることも、隠したまま。

 ただ人より少し勘が良く、少し飲み込みが早い生徒。


 それが学舎でのレインだった。


 結果として残った評価は単純だ。


 ――要領のいい優等生。


 それ以上でも、それ以下でもない。


「……気に食わねえ」


 前列の席から、小さく吐き捨てる声がした。


 レインは視線だけを向ける。


 金髪の少年。

 同級生、クラウス・ヴァンディル。


 騎士家系の次男。

 剣術上位、実技優秀、だが座学は中の上。


 何かとレインに張り合ってきた相手だった。


「またお前かよ」


 修了証を受け取りながら、クラウスが小さく舌打ちする。


「剣も魔法もそこそこなくせに、座学だけで首席取りやがって」


 わざと聞こえる声だった。


 周囲の何人かが視線を向ける。


 レインは何も言わない。


 クラウスだけじゃない。


 同じように思っている者は他にもいた。


 実技では抜けていない。

 魔法でも飛び抜けない。

 剣術も突出しない。


 なのに総合では一位。


 面白くないのだ。


 努力しているのは知っている。

 真面目なのも知っている。


 だがそれでも、“なぜこいつが首席なのか”と納得しきれない者は多い。


「……あいつ、要領いいだけだろ」


「器用貧乏のくせに」


「なんで首席なんだよ」


 小声が混じる。


 レインは気にしない。


 実際、その評価は都合が良かった。


 天才ではない。

 怪物でもない。

 ただ、器用で努力家の首席。


 その程度で十分だ。


 式が終わると、生徒たちは次の会場へ移動した。


 進路選別会場。


 ここから先、学舎は三つの専門課程へ分かれる。


 ひとつ、魔導課程。

 属性理論、術式構築、実戦魔法を学ぶ、魔導士育成課程。


 ひとつ、騎士課程。

 剣技、体術、戦術、部隊連携を学ぶ、騎士育成課程。


 そしてひとつ、魔法医療課程。

 治癒術、人体構造、薬学、魔力循環を学ぶ、治療術師育成課程。


 ここから先は、同じ学舎でも学ぶものが違う。


 より専門的に。

 より実戦的に。


 国に仕えるための、本格的な分岐だった。


 会場中央には三つの紋章が掲げられていた。


 杖。

 剣。

 白環。


 それぞれの進路を示す象徴。


 生徒たちはその前で足を止める。


 誰もが迷う。

 誰もが考える。


 将来を決める、最初の選択だった。


「お前、どこ行くんだよ」


 クラウスが腕を組んでレインを見る。


「どうせ魔導だろ。座学しか能がねえし」


 挑発混じりの声。


 レインは三つの紋章を見る。


 剣。

 杖。

 白環。


 静かに考える。


 そして、歩き出した。

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