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激流サバイバル!降りられないラフティング部の異世界漂流記  作者: あみれん


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第4話「異世界へようこそ」

登場人物(徐雲堂大学ラフティング部)


1.高橋 悠真(22歳/4年/クラブキャプテン)

実質的なトップ。強気で自信家。

「部員を守る」という責任感はあるが、独善的で暴走しやすい。

恋人・美咲を守ろうとする一方で、翔太への嫉妬が強く


2.佐藤 陽介(21歳/3年/クラブ副キャプテン)

明るく目立つ存在、クラブでは仕切り役。

皆からは“リーダー”のように扱われているが、追い込まれると脆い。

今回の遠征でも主導的に動いている。


3.中村 翔太(21歳/3年/地味な平会員)

運動は得意でなく、普段は陰に隠れている。

「お前は荷物」と揶揄されがちだが、観察眼と冷静さを持つ。

異変が始まると、実は一番頼りになる存在へ。


4.藤田 美咲(21歳/3年/マネージャー)

サークル内の癒やし的存在。

悠真の恋人だが、翔太に密かに好意を抱いている。

ラフトの状況をモニタリングする司令塔。


5. 岡本 拓海(21歳/3年/ムードメーカー兼トラブルメーカー)

皮肉屋で冗談ばかり言う。

皆を笑わせるが、緊張下では逆に場を険悪にする。

表向き軽い男だが、意外なところで責任感を見せる。


6. 山本 彩花(20歳/2年/新入部員)

明るく素直な後輩。サークルの“妹分”。

無邪気さで皆を和ませるが、恐怖で泣き出すことも多い。

それでも最後まで仲間を信じ続け、精神的支えとなる。

空は不気味なセピア色に染まり、雲ひとつ浮かんでいなかった。

太陽の姿もないのに、昼のように明るい。光源がどこにあるのか分からず、世界そのものが淡く発光しているかのようだった。


川幅は三十メートルほど。流れは緩やかに見えるが、水面はピンク色で底はまったく窺えない。

その水が時おり虹色に揺らぎ、まるで液体ではなく別の物質のように錯覚させる。


両岸には十メートルを超える木々が連なり、枝は異様に長く垂れ下がっていた。

そこに咲く花はドギツイ紫で、陽炎のように滲んで見えた。花弁は脈打つように震え、風もないのに不気味に揺れ動いている。

甘ったるい香りが川面に漂い、胸の奥をむせ返らせるほど強烈だった。


そのとき、遥か上空を巨大な影が横切った。

翼竜のような生物が群れをなし、金属をこすり合わせたような甲高い鳴き声を響かせて飛び去っていく。

その声は頭蓋骨に直接響くようで、耳を塞いでも意味がないと直感させた。


五人はオールを握ったまま、硬直していた。

水を掻くことも忘れ、ただ見上げる。

呼吸さえ浅く、胸の奥がじわじわと圧迫されていく。

木々のざわめきも、鳥の声もない。聞こえるのは水音と自分たちの鼓動だけ。

何かとんでもない事態に迷い込んだようだ、全員がそう感じ始めていた。


ーーー佐藤陽介の場合ーーー


な...なんなんだよ、ここは……こんな奇妙な景色見たことねぇよ。

やっぱり来るんじゃなかった。

だから俺は今日のラフティングには反対だったんだ。

まだ俺たちのスキルじゃ、天渓川は早すぎる。危なすぎる。

そう思ってた。けど、キャプテンの悠真の野郎の「行く」の一言で、全部決まっちまった。


そりゃ俺は副キャプテンだ。

表では「おう、やってやろうぜ!」って声張ったさ。

でも内心じゃビビりまくってたさ。

あの急流を前にしたときだって、足がすくんでたんだ。


そしたらこの様だ。

こりゃ、マジやべぇぞ。

このセピア色の空、ピンク色の水、紫の花、頭の奥に突き刺さる異様な鳴き声……。

ありえねぇ世界に俺たちは迷い込んでる。


……ったく、ふざけんなよ、悠真!

お前の一存で決行、そんでコレかよ。

どう責任取るつもりだ、ええ? 悠真クンよぉ。

もう帰りたいよぉ...マジ恐えよぉ...

副キャプテンなんかやるんじゃなかったよ。

俺は責任なんか取らねぇぞ。


ったく、シャレにならねぇ世界に来ちまったもんだな……。


ーー 岡本 拓海の場合ーーー


……はは、マジかよ。

空がセピアで太陽がない? 紫の花が脈打ってる? 翼竜みたいな化け物が飛んでる? なにより川の水がピンク色って...

これじゃぁ、まるでモンスター映画のワンシーンじないか。

いわゆる"異界"ってヤツに迷い込んじまったって事か?

...はは、まさか...ゲームじゃあるまいし。


僕...ビビってるよな? ああ、そりゃビビってるさ。

でも……なんか、少しワクワクもしている。

こんなの見れるやつ、普通いないよな。

なら、証拠を残しとかなきゃ損だろ?


ポケットからスマホを取り出して、シャッターを切った。

「カシャッ」って音が軽快に響く。……けど、画面を見て固まった。


全部、モノクロ。

紫の花も、セピアの空も、ぜんぶ灰色に潰れてやがる。

何枚撮っても、同じ。


「……なるほど。インスタ映えしない異界ってわけか」

口元が勝手に歪んで、皮肉が漏れる。

異界?......冗談も大概にしてくれ。


ほんと、冗談じない世界に来てしまったもんだな……。



ーーー中村 翔太の場合ーーー


……静かだな。

妙に、静かすぎる。


川幅は三十メートル、流れは緩やか。けど、この水の音……どう考えても普通じゃない。

表面が揺れるたびに、どこか金属をこすったような響きが混じってる。

耳に残って、気持ちが悪い。


俺は昔から、余計な音ばかり拾ってしまう。

だから今日だって、危険を感じて天渓川には反対したんだ。

でも多数決じゃなくて、悠真の「行こう」で決まった。

……正直、まだ根に持ってる。

ラフティング部ってもっとユルイ部だと思っていたけど、意外と体育会系のノリなんだよな。


それにしても、この空、この川の色にこの匂い、この花の色。

どこを切り取っても俺がいた"世界"じゃない。

ひょっとして僕はこんな理由のわからない場所で死ぬのか...?

21年間の人生の終焉がこれ?

まさかね...


みんなは上空の化け物に目を奪われてる。

でも俺には、別の音が聞こえる。

川の底から……鼓動みたいな低い響き。

生き物の心臓が鳴ってるみたいに、一定のリズムで響いてくる。


俺、今結構冷静かもしれない。

何故だろう...ここはどう見ても"普通"の世界じゃないのに。

ああ、そうだ...僕はこれまでパニクった事ってなかったな。

何かあると、いつだって現実から目を背けてきたし、それが楽に生きる秘訣だと思ってきたし。

だから、 悠真みたいに直ぐに熱くなるヤツを見ると、ホントにバカに見えちゃう。

でも、この状況って、現実に目を背けたらヤバい気がする。


とんでもない世界に来てしまった、という事を、まずは受け入れるか...


ーーー山本 彩花の場合ーーー


な、何ここ...

うそぉ、こんなの聞いてないよ。

美咲先輩は勧誘の時、青い空の下でキラキラ輝く川の流れに乗っかるのは最高に解放された気分になれる、って言ってたじゃない。

だからラフティングなんかやった事なかったのに入部したのに...


……やだ。

やだやだやだ、こんなの知らない。

川って、もっとキラキラしてて、涼しくて、楽しい場所じゃないの?

なのに今見えてる景色は、全部……気持ち悪い。

何で川の色がピンクなのよ。


紫の花が、風もないのにユラユラ揺れてる。

……ちがう、揺れてるんじゃなくて、呼吸してるみたいに膨らんでる。

気持ち悪くて目をそらしたいのに、そらしたらもっと怖いものが映りそうで、目を閉じられない。


上の空では、バラバラにちぎれた翼みたいな生き物が飛んでいて、

鳴き声が耳じゃなくて心臓の近くで直接響いてくる。

「ヒュゥ……ギチ…ギチ…」って、言葉にならない音。

あんな音、この世界じゃ聴いたことない。


「先輩……」

声、出た。けど、すごく小さかった。

返事がほしい。大丈夫って言ってほしい。

でも、誰も振り向かない。

みんな、この景色に飲まれたみたいに黙ってる。


胸がぎゅうってなる。

泣きたくないのに、勝手に目が熱くなって、

視界の端がにじんで紫と黒が混ざる。


「……私、帰りたい……」

声に出したら、ほんとうに帰れなくなる気がして怖かった。

でも、もう言葉を止められなかった。


...まさか、異世界に迷い込んこんだ、何てバカな事ないよね。

もう...誰か何か言ってよ!!


ーーー高橋 悠真の場合ーーー


さっきまで俺達は真っ青な空の下にいたはずだ。

それが...なんだコレは!?

空の色がおかしい、いや、空の色だけじゃない。

太陽がないのに明るいとか、なんだココは...

川の水がピンク色って......見ているだけで足元が引きずられそうになる。

紫の花も、翼竜みたいな生き物も、全部、現実じゃないみたいだ。


……でも、これは夢じゃない。

スマホの画面が濡れて、手が震える感覚も、呼吸が浅くなって胸が痛いのも、全部本物だ。


美咲に連絡しようとした。

圏外。

GPS……反応なし。

何度も触って、開き直して、それでも“今どこにいるのか”が分からない。

かなり...ヤバいな。


その瞬間、背中のあたりがゾッと冷えた。

「終わったかもしれない」って、心の底で思った。


——このラフティングを“行く”って言ったのは俺だ。

みんなが不安がってたのに、俺が「大丈夫だ」って押し切った。

悠真が言うなら、って、全員が付いてきた。

美咲も、「じゃあ私は陸で監視するね」って、笑って送り出してくれた。


……それで、このザマだ。


本当は叫びたい。

「助けてください」って、ただそれだけを叫びたい。

けど、できない。

俺がそれを言ったら終わる。


陽介の視線が、一瞬だけ俺を見た。

“キャプテン、どうすんだ”って目だった。

拓海も翔太も彩花も、みんな……俺を見てる。

俺が決めるのを、待ってる。

期待なんかじゃない。依存だ。

「キャプテンが何とかしろよ」って顔で、俺を見てる。

分かってるよ、でもそんな目でみないでくれよ。

見てみろよ、普通の川じゃないんだぜ、俺だってどうしていいかわからねぇよ。


クッソぉ、胃が痛い。喉が苦しい。

逃げたい。でも逃げられない。

いや、このピンクの川に飛び込んだら楽に死ねるのかも...

いやいや、何考えてんだ俺は、落ち着け!

とにかく今出来る事をやるしかない。

この異様な景色からすると、今岸に上がるのは止めたほうがよさそうだ。

このピンクの川を進んで、安全そうな場所で上がるか、川を下りきって、その先に何があるのか見て判断するか...


いずれにせよ、皆が俺の言葉を待っている。

何か言わなきゃならない。


しかし、勘弁してくれよ、こんな事まで責任もてねぇよ。

あぁ、何てこった、クソ薄気味悪い世界に迷い込んじまった……。



川面が――鳴った。


「……え?」

最初に気づいたのは翔太だった。

波音でも水流でもない。

“心臓の鼓動みたいな低い衝撃音”が、ピンク色の水の底から響いてくる。


ドクン……ドクン……ドクン……

水面が波打つたび、ピンク色の液体はまるで血を薄めたみたいな色に濁り、底から気泡が「ぼこっ」と浮かんでは弾けた。

水じゃない……“何か別のもの”だ。


「なんか、下……動いてねぇか?」

拓海が声を潜めて言う。

笑ってごまかすいつもの声じゃない。

スマホのカメラを向けても、画面は相変わらずモノクロになる。


「音が……音が多すぎる……っ」

陽介が突然、耳を押さえた。

ピンクの水の中で、何かが蠢き、擦れ、息をしている音が、全部混ざって押し寄せてくる。

普通なら聞こえないはずの“水の下の音”まで、全部。


「……光ってる」

彩花の指が震えながら、水を指した。

ピンクの川底で、金色の筋がゆらりと揺らいだ。

……瞳。

水の下で、何かの瞳が舟を見上げていた。


悠真の足元、ラフトのチューブが不自然に浮き上がる。

水が押し上げている。

まるで、“下から触れてきている”みたいに。


次の瞬間——


ドン!!!


ピンクの水柱が爆ぜた。

水しぶきが顔に当たると、それは生臭い鉄の匂いがした。

……血の匂いだ。


ドクン……ドクン……ドクン……!


もうそれは水音ではなかった。

“息”だ。

何か巨大なものが、舟のすぐ下で呼吸している。


「全員——掴まれ!!!」

悠真の叫びが響く。


そして—— ピンクの水が、真っ二つに割れた。


ラフティング用語ミニガイド


ラフト:ゴム製のボート。6〜8人が乗るのが一般的だが、本作では5人乗り。


パドル:一本のブレード(羽根)を持つ短いオール。漕ぐときに使う。


ボウ/スターン:ボートの前ボウと後ろ(スターン)。舵はスターンの役目。


エディ:流れが反転して穏やかになっている場所。休憩や出発に使う。


完漕かんそう:難所を転覆せずに最後まで漕ぎきること。


フォワード1/2:前へ1回、2回漕げという掛け声。全員がタイミングを合わせる。


バック2:後ろへ2回漕げという指示。流れをコントロールする時に使う。


ピールアウト:エディから本流へ出る動作。角度とタイミングが重要。


Tグリップ:パドルの持ち手部分。握っていないと味方や自分に当たり、危険。


ウェーブトレイン:連続した波が続く区間。上下に揺れるジェットコースターのような感覚。


ポアオーバー:落ち込みの下で水が逆流し、吸い込まれる場所。強力だと危険。


Vの舌タング:岩の間にできるV字型の流れ。安全な進入ルートの目印。


ボイル:水が渦を巻き、表面が盛り上がる場所。ボートのコントロールが乱されやすい。


ハイサイド:ボートが横転しそうな時、全員が片側に移動して体重で立て直す動作。

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