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激流サバイバル!降りられないラフティング部の異世界漂流記  作者: あみれん


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第1話「徐雲堂大学ラフティング部」

登場人物(徐雲堂大学ラフティング部)


1.高橋 悠真(22歳/4年/クラブキャプテン)

実質的なトップ。強気で自信家。

「部員を守る」という責任感はあるが、独善的で暴走しやすい。

恋人・美咲を守ろうとする一方で、翔太への嫉妬が強く


2.佐藤 陽介(21歳/3年/クラブ副キャプテン)

明るく目立つ存在、クラブでは仕切り役。

皆からは“リーダー”のように扱われているが、追い込まれると脆い。

今回の遠征でも主導的に動いている。


3.中村 翔太(21歳/3年/地味な平会員)

運動は得意でなく、普段は陰に隠れている。

「お前は荷物」と揶揄されがちだが、観察眼と冷静さを持つ。

異変が始まると、実は一番頼りになる存在へ。


4.藤田 美咲(21歳/3年/マネージャー)

サークル内の癒やし的存在。

悠真の恋人だが、翔太に密かに好意を抱いている。

ラフトの状況をモニタリングする司令塔。


5. 岡本 拓海(21歳/3年/ムードメーカー兼トラブルメーカー)

皮肉屋で冗談ばかり言う。

皆を笑わせるが、緊張下では逆に場を険悪にする。

表向き軽い男だが、意外なところで責任感を見せる。


6. 山本 彩花(20歳/2年/新入部員)

明るく素直な後輩。サークルの“妹分”。

無邪気さで皆を和ませるが、恐怖で泣き出すことも多い。

それでも最後まで仲間を信じ続け、精神的支えとなる。


夏の山道を、二台の車が等間隔で登っていく。

徐雲堂大学ラフティング部員を乗せたのは、白いクラブのワゴンと黒いレンタカーのハッチバック。アスファルトは陽炎に揺れ、路肩のススキが銀色に波打つ。窓の外には、濃い緑の山肌と、岩の白い断層が交互に現れ、ところどころで光る川面が谷底にきらめいていた。


目的地は、“地獄への急流”と恐れられる天渓川。

数えきれない挑戦者が弾き飛ばされ、ベテラン•ラフターでさえ完漕を諦めた魔のコースだ。

夏合宿の最終日、部の総仕上げとして選ばれたフィールドだ。

日頃の練習で鍛えた技術を試し、そして何より、仲間たちと「最高の一本」を下る——そのために、彼らはここまで来たのだった。


車内に川の匂いが漂ってくる。青臭い草の香りに混じる湿った涼しさ、岩を擦る水の冷たい鉄のような匂い。それだけで胸が高鳴る。

荷室ではヘルメットがコトコト揺れ、ライフジャケットのバックルが小さな音を立てる。乾いたウェットスーツのゴム臭と、ロープに染み込んだ砂の匂いが、「今日も水の上だ」と告げていた。


運転席にいるのはキャプテンの高橋悠真。熱血で、ちょっと無茶もする男だ。

視線は前のカーブに据えたまま、ダッシュボードのスマホ画面を横目で確認する。

「天渓川の流量、八十五立方。先週より十五増えてるな。グレードはIIIプラス。飛雲の瀬は右岸からスカウティングして行くぞ」


助手席の藤田美咲は冷静沈着なマネージャー。彼女がペンを走らせながら答える。

「了解。装備チェックは現地。スローロープとナイフは各二本、ホイッスルとカラビナは全員携行。救助は“ビーライン”優先、入水レスキューは最後の手段で」

「それでいこう」悠真は短く言った。


後部座席から、明るい声が飛ぶ。ムードメーカーの佐藤陽介だ。

「おーしお前ら! 今日も“フォワード2バック1”で気持ち合わせろ! “ハイサイド右”がかかったらためらうな! ためらったら舟は横から食われるからな!」


「壁ドンみたいなやつですか?」

新入部員の山本彩花が首をかしげる。純粋で無邪気な彼女の問いに、車内がどっと笑いに包まれた。

「違う違う!」陽介が腹を抱える。「舟がひっくり返るやつ!」


彩花は窓の外の谷を食い入るように見つめていた。斜面に点々と咲くオレンジのノウゼンカズラ、岩壁をつたう苔、青白い川霧が山肌をなめていく。

「先輩、“エディ”ってどのくらい広いんですか?」

「川が作る“風のない部屋”だ」陽介が答える。「流れの外で渦になってるとこ。エディラインを切って入るのがコツ。焦って突っ込むと、ボイルに戻されるぞ」

「へぇ……」彩花の目がさらに輝いた。


一方、後ろのレンタカー。

窓際に座る中村翔太は、地味で目立たないが観察眼は鋭い。流れる景色の“色”をじっと見ていた。山の緑は濃く、岩肌の白は鋭く光り、そこに混ざる川面は銀から青、そして一瞬だけ翡翠色に変わる。

「濁りは薄い。でも流速は速いな」小さくつぶやく。


横の岡本拓海がにやりと笑った。皮肉屋で憎めないタイプだ。

「お、詩人っぽいコメント。——でもさ、澄んでるホールって逆に深かったりするんだよな。“ミートグラインダー”とか呼ばれるやつに噛まれたら、俺、挽肉コースはお断りだぜ」

運転席のOBが笑い混じりに制する。

「拓海、縁起でもない。ホールは戻りを読め。V字を探せ。入らなければいいし、もし入ったらストロークを短く強く刻め」

「へいへい」拓海は降参ポーズを見せ、谷間に口笛を響かせた。


窓の外では、天渓川が谷を切り裂くように白く光っていた。太陽を照り返す水面の一部は墨のように黒く沈み、岩陰の流れはまるで生き物が息を潜めているように揺らめいている。


やがて道は谷底の広い駐車地に開けた。二台の車が砂利を巻き上げて停まる。蝉の声に混じって、川の轟音がすぐそこまで迫っていた。


クラブのワゴンの荷室を開けると、折り畳まれた黄色いラフトが姿を現した。厚手のPVCの生地は日差しを受けて鈍く光り、所々の補修跡が、この舟がいくつもの激流を越えてきた証を刻んでいる。

三人がかりで引きずり出し、河原に広げると、大きな布団のように地面を覆った。手のひらに吸い付くようなゴムの冷たさ。電動ポンプの唸りとともに、ラフトはみるみる膨らみ、やがて全長約4m、全幅約2mの舟の姿へと変わっていった。


見上げれば、谷の空は真っ青に抜けているのに、足元の川は黒々と唸っていた。白波が砕け、しぶきは霧となって頬を濡らす。岩肌に砕ける音は雷鳴のように響き、倒木の枝の隙間では水流が吸い込むように渦を巻いている。


悠真が仲間を集め、短く言った。

「装備よし。ルールはいつも通りだ。川は仲間を選ばない。——いくぞ!」


マネージャー藤田美咲を除いた五人は自然と円陣を組んだ。

中央に手を差し出すのはキャプテンの高橋悠真。

その手に、副キャプテンの佐藤陽介、地味で頼りないと思われがちな中村翔太、

皮肉屋の岡本拓海、そして新入部員の山本彩花が次々と手を重ねる。

「——せーの!」

「おーっ!」

陽介の掛け声に、全員の声が重なる。


ラフトが水面に浮かぶ。

PVCの肌は張り詰めるように鳴き、川はまるで待ち構えていたかのように舟を吸い込んだ。

眩しい陽射し、肌を濡らす水の冷気、胸を揺らす轟音。

そのすべてが混じり合い、六人の鼓動を速めていく。


ワゴンに残ったマネージャー藤田美咲は、双眼鏡を片手にその姿を見送った。

腰にはストップウォッチ、手にはスマホのGPSアプリ。

「午前8時29分、快晴、タイム計測開始……位置データも正常。——よし」

指先で画面をなぞると、黄色い点が川面を下っていく。

部員たちの掛け声が遠ざかり、蝉時雨と川の轟音に溶けていった。


ラフティング用語ミニガイド


ラフト:ゴム製のボート。6〜8人が乗るのが一般的だが、本作では5人乗り。


パドル:一本のブレード(羽根)を持つ短いオール。漕ぐときに使う。


ボウ/スターン:ボートのボウと後ろ(スターン)。舵はスターンの役目。


エディ:流れが反転して穏やかになっている場所。休憩や出発に使う。


完漕かんそう:難所を転覆せずに最後まで漕ぎきること。


フォワード1/2:前へ1回、2回漕げという掛け声。全員がタイミングを合わせる。


バック2:後ろへ2回漕げという指示。流れをコントロールする時に使う。


ピールアウト:エディから本流へ出る動作。角度とタイミングが重要。


Tグリップ:パドルの持ち手部分。握っていないと味方や自分に当たり、危険。


ウェーブトレイン:連続した波が続く区間。上下に揺れるジェットコースターのような感覚。


ポアオーバー:落ち込みの下で水が逆流し、吸い込まれる場所。強力だと危険。


Vのタング:岩の間にできるV字型の流れ。安全な進入ルートの目印。


ボイル:水が渦を巻き、表面が盛り上がる場所。ボートのコントロールが乱されやすい。


ハイサイド:ボートが横転しそうな時、全員が片側に移動して体重で立て直す動作。

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