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俺は人生に、この誰もが救われない社会に復讐する  作者: へいたれAI
第二章 飛躍
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第三十六話 丸亀造船の闇と支配権のカラクリ

 

 翌朝、ロビーに出ると海軍士官が従卒を従えて俺達を待っていた。

 ロビーから車寄せに出ると海軍呉鎮守府所属の軍用車が複数俺達を待っており、俺達はその車に分乗して海軍さんが案内されるままついて行った。


 車の行き先は呉鎮守府内のある埠頭だ。

 そこには新型の海防艦が複数泊められており、そのうちの一艘に俺達は乗せられた。

 俺達を乗せた海防艦は一路四国の丸亀、それも造船所に直接向かった。


 海軍としては発注主でもあるので、時々査察に訪れるらしく、今回も査察にかこつけ俺達を案内してくれた。

 海軍としても取引企業の悪い噂は気になるらしく、ちょうどよかったと言っていた。


 丸亀造船の埠頭には、会社の役員全員が待っていた。

 大切な大口受注先の海軍からの査察だ。しかも会社の状態が悪いときだけに相当神経を使っているようだ。

 俺達は全員が海軍さんについて、会社の中に入っていった。


 丸亀造船の役員たちは俺達のことを訝しげに見ているが、リリーナさんがいることで安心もしているように見える。

 リリーナさんは美人だし、この会社を起こした人の奥さんだけあって、知る人も多いのだろう。


 人数が多かったこともあり、会社の応接室ではなく会議室に通されて現状の説明があった。

 会社としてもこの際恥も外聞も捨てて海軍に頼ろうかと考えていたが、その考えはあっさりと海軍から否定された。


「海軍が相応の理由もなしに一企業に肩入れはできない」というのが理由だ。


 そもそも、今回の借金は海軍から受注した海防艦建造のための資材購入費に当てるもので、普通ならば審査も形式だけですんなりと通るものらしい。

 俺達についてきた銀行からの二人も、同じ感想だが、別の思いも持っていた。


「ひょっとして、お取引先の銀行って、総量規制か何かで……」


 梓が不安げな声で尋ねた。


「ええ、そのようなことは言っておりました。政府からの通達がどうとかで、新たな貸出はできない。それよりも、過去の借金も返済してくれとまで言われましたから」


 役員の言葉に、俺は確信した。

 いよいよ、ここ四国では銀行の機能不全が始まったようだ。

 ついでに四国の銀行も調べることにした。


「状況は理解しましたが、先程来説明した通り、海軍からの援助はできません。お知り合いの財閥にでも頼んでください」


 海軍から一緒に来ていた人はそう言い残して呉に帰っていった。

 俺達は、状況を変えるべくこの地にとどまることにした。


 リリーナさんの知り合いの専務さんに頼んで、高松の地で最高のホテルの予約をしてもらい、専務さんにホテルまで送ってもらった。

 ホテルで専務さんとリリーナさんが俺達も前で話し込んでいる。


「宝塔様、基金を使うことはできませんか」


 リリーナさんの声には、焦りの色が滲んでいた。


「別に構わないが、他を納得させる理由が無ければ、丸亀造船さんの希望する金は貸せないぞぞ。とくに、実質経営権を有する桜華院宗家が黙っていないだろう」


 俺は冷静に答えた。


「そうでした……」


 リリーナさんは、唇を噛み締めた。


「それにもし貸し出すとして今回の名目をどうする。流石に基金から直接貸し出すことは難しいと思うが」


 俺達は専務さんをホテルのスウィートに連れ込んで、部屋の中のティーテーブルを囲んで話し込んだ。爺さんが俺に「基金から難しいと言ったが、できないことは無いのだろう」


「ええ、ですがそうすると基金が政府に睨まれそうで」


「すでに目は付けられているがな」


 婆さんが嫌なことを言ってきた。その言葉に、俺は苦笑いするしかなかった。


「当座必要な資金は5億か」


「はい、鋼材の仕入れで、すぐに支払わないといけないのは5億もあれば……ですが、いくら小型の海防艦とはいえ、完成までの費用資材ともなると……」


 専務の声は、途中で力なく途切れた。


「それは何時まで必要なのだ」


「そちらは完成までの徐々に使いますから1〜2億を10回ほど、そうですね最初がひと月後ですか。ですが、取引銀行からも、資金お引き上げを通達されておりますから」

「宝塔様……」


 リリーナさんが、切なげに俺を見つめた。


「ああ、リリーナさん。リリーナさんの旦那さんが作った会社だ。潰すようなことはしないよ」


 俺は彼女の肩を抱き寄せ、安心させるように言った。


「ならどうするね」


 婆さんが聞いてきた。


「まともに経営する気が桜華院宗家に無いようでしたら、遠慮なくうちで取り込みますか。桜華院基金で株式を引き取りたいのですが」


 俺は切り出した。


「丸亀造船の株式は、一応、旦那の相続として私と娘に20%ほど、あとは銀行ですか」


 過半数を持っていたはずの株式も、海軍さんが見張っていたとはいえ20%まで減らされていたか。

 ここまで理不尽なことをしてまで会社を奪ったのにも関わらず、まともに経営する気が無い以上、俺も遠慮などしない。

 端から爺さんは遠慮する気が内容で、乗っ取りの算段をしていた。


 リリーナさんの言葉に、俺は眉をひそめた。

 桜華院母娘が相続している20%の株。

 それがこの会社の支配権を握るための鍵となるはずだ。

 しかし、この株には、恐ろしいカラクリが隠されていた。


「その株式、リリーナさん、梓さんは所有していますが、その支配権は父親を殺した勢力と思われる一族の者に無理やり期限なしの委任状を作らせられたために、取り上げられている状態なのでしょう?配当に金を回さずに闇で資金を抜いているとか」


 俺の言葉に、リリーナさんの顔色が変わった。専務も驚愕の表情を浮かべている。


「宝塔様、なぜそれを…!」


 リリーナさんの声が震えた。


「それは、俺の知るところだ。その委任状を無効にしない限り、この会社を根本から立て直すことはできない」


 俺はきっぱりと言い放った。


「当座は急ぐのだろう」


 俺は専務に問いかけた。


「はい、明日にでも必要なのを待ってもらっておりますが」


「おいおい、その取引先も同じ財閥なのだろう」


 爺さんが口を挟んだ。


「いえ、桜華院家とは関係があるようですが石峰財閥の傘下の石峰鉄鋼です」


「それは……」


 婆さんが思案顔になった。


「明日までなら、地元のヤクザから借りておけ。俺の方で手を回しておく」


 爺さんは、専務に大胆な提案をした。


「は?」


 専務は目を丸くした。


「それで、その後地元ヤクザから脅されて、自社保有の株を手放せ。それを俺が引き取るから」


「そ、そんな〜」


 専務さんは情けない声を上げる。


「勘違いするな。俺が引き取るのも、その先は桜華院基金が引き取ることになる。元手、その金もそこの宝塔のおこぼれだからな」


 爺さんが専務に釘を刺した。

 一応、近々の危機は避けられた。専務は爺さんと外に出ていった。残された婆さんは疲れたと言いながら部屋を出ていく。


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