第三十四話 株価の変動と宝塔ファンドの成長:市場の錯覚と、揺るぎない確信
これまで猛烈な勢いで下がり続けていた日経平均株価は、4月に入ると嘘のように上昇に転じた。
市場関係者の間には、安堵感が漂い、まるで嵐が去ったかのような錯覚に陥っているようだった。
しかし、俺はその先を知っている。
これは、嵐の前の、一時的な静けさに過ぎないことを。俺は警戒を続けると同時に、この上昇局面を最大限に利用するべく、今度は現物買いを、緻密な計算のもとでレバレッジを掛けながら行わせた。
この取引についても、具体的なルールと目標値を設定し、その処理はすべて法子さんと、シンガポールにいる敏腕トレーダーに任せているため、俺の負担は少ない。
彼らの正確な実行力と、俺の未来の記憶が組み合わさることで、宝塔ファンドは驚異的な速度で成長を続けている。
平田嶺の記憶では、この時期から6月にかけては、市場は一時的な回復を見せる。
この時代の相場がその通りになるかは不明だが、一応その時の値を参考にして、2万8千円で買ったものを3万3千円で売るように指示しておいた。
結果は、俺の予想通りだった。
寸分の狂いもなく、完璧なタイミングで売り逃げることに成功している。
そのおかげで、「宝塔ファンド」の資産は、6月中でさらに膨らみ、ついに3000億円の大台に到達していた。
「宝塔様、これでまた、かなりの利益が出ましたわね!」
法子さんが満面の笑みで報告してくれた。
その瞳は、興奮と喜びでキラキラと輝いている。
彼女の純粋な喜びは、俺の心の奥底に、温かい光を灯してくれる。
俺の計画は、着実に、そして順調に進んでいる。
この莫大な資金が、俺の復讐を加速させ、新たな社会を築き上げるための、強力な武器となるだろう。
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フォーラムの活発化と新たな学び:盲目の先導者と、迫りくる真実
一方、学校では、5月に入ると、フォーラムの活動がさらに活発化していた。
高校生とのコラボ研究が本格的に始まったのだ。
普段は月に一回あればいいくらいのサークルだったが、4月だけでも2回も開催され、5月はすでに3回目の勉強会を迎えている。
生徒たちの間で、この経済状況への関心が高まっている証拠だろう。
今回は、高校生の伝手で、これまた名だたる金融財閥である高畑財閥から、証券部門のベテラン研究者を招いて講演してもらった。
前に萬斎財閥の人との話とは、また違った視点からの解説があり、非常に面白かった。
彼らの分析は、緻密で専門的ではあったが、それでも、俺の平田嶺としての記憶にある、この先の昭和の推移を知る者から見れば、どれも的外れと言えなくもない。
特に気が付いたのは、講演者たちが、誰もが今回の経済危機を被害を少なめに見積もっていることだ。
会社によって見積もる金額は小さめになる傾向があり、何よりも、この国の根幹を揺るがすであろう土地神話の崩壊については、誰もが触れようとしない。
あるいは、怖くてそこまで想像力が働かないのだろう。
だからこそ、あの時の政府の対応が後手に回り、日本経済が未曾有の長期低迷に陥ったのも、今となれば頷ける話だ。
そんなバブルの研究を、俺たちは夏休みまで、中高生が交代しながら何度も繰り返すことになる。
彼らがこの研究を通じて、真実の闇に気づくことができれば、日本の未来は、少しは変わるかもしれない。俺は、その変革のきっかけを、彼らに与え続ける。
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高松造船の危ない情報
基金の運営を安定させるために奔走していた橘さんから、ある日緊急の情報がもたらされた。
高松の経済に関する報告によると、「丸亀造船が危ない」というのだ。
その知らせを受け取ったリリーナさんをはじめ、桜華院の特にあずさたちは、丸亀造船に対して特別な思い入れがあり、ただならぬ事態に動揺を隠せず、すぐに俺たちへ連絡を寄越してきた。
事態を把握するため、俺はすぐに爺さんと婆さんに連絡を取る。
ほどなくして婆さんの事務所に、大蔵省のキャリア官僚であり、高松出身の榊原さんがやってきた。
彼女は涙ながらに俺たちへすがるようにして訴える。
「丸亀造船が傾けば、高松の経済にとって計り知れない影響がある。私の実家も取引関係にあるから、家族からも何とかしてくれと泣きつかれて……」
確かに丸亀造船は、高松経済にとって極めて重要な存在だ。
地域の産業と密接に結びつき、多くの企業や家庭に影響を与えている。
そんな状況を受け、俺は爺さんたちに「丸亀造船」の置かれている本当の状況を徹底的に調べてもらうよう依頼した。