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俺は人生に、この誰もが救われない社会に復讐する  作者: へいたれAI
第一章 雌伏
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第十三話 狂騒終焉の兆候と蠢く陰謀

 

 学校での日々が過ぎ去るにつれて、俺の心は常に、経済の荒波と、その水面下で蠢く陰謀に囚われていた。

 特に、**『世界情勢研究フォーラム』**での議論や、白麗幸からの情報が、俺の危機感を募らせる。

 ある日、授業中にふと耳にした「総量規制」という言葉が、俺の頭の中で警鐘のように鳴り響いた。

 平田嶺としての記憶が、その言葉に強烈に反応したのだ。


 その日の放課後、俺は一目散に家に戻ると、早速その件について婆さん(典子)に相談してみた。


「婆さん、今日学校でこんな話が出たんだが、総量規制って本当にあり得るのか?」


 俺の問いに、婆さんは普段の冷静さを保ちつつも、わずかに眉をひそめた。


「あら、宝塔。よくそんな話を聞きつけてきたわね。表向きは何も決まっていないけれど、水面下では色々な動きがあるのは確かよ」


 彼女はそう言って、慣れた手つきで電話をかけ始めた。

 その指先がダイヤルを回す音、そして受話器から漏れる低い声。

 それだけで、俺には彼女が尋常ではない相手と繋がっていることが分かった。

 数分後、電話を終えた婆さんは、俺に優しく語りかけた。


「今度、大蔵省の関係者を紹介するから、直接話を聞いてみたら? あなたの目で見て、感じることが大切よ。私から一方的に話すよりも、あなたが肌で感じる情報の方が、きっと役に立つわ」


 婆さんの言葉は、俺の考えと完全に一致していた。

 書物や人づての情報も重要だが、生きた情報、そして何よりも「肌感覚」で掴む情報こそが、この先の荒波を乗り切る上で不可欠だ。


 *****

 爺さんの情報網と「日本潰し」の囁き


 次に俺は、爺さんにも連絡を取った。

 彼の持つ裏社会の情報網は、表の世界では決して手に入らない、生々しい情報を掴んでいるはずだ。


「爺さん、総量規制の件、何か知ってるか?」


 俺の問いに、爺さんは電話越しに低い唸り声を上げた。


「ふむ……国内からはほとんど聞かれんが、外からはきな臭い話がそろそろ出始めておるのう。特に、香港あたりでは、アメリカあたりの証券マンが妙な動きをしておるらしい。『日本潰し』などと、まことしやかに囁かれてもおるそうじゃ」


 爺さんの言葉に、俺の背筋に冷たいものが走った。

 平田嶺としての記憶が、鮮明にフラッシュバックしたのだ。

 あの時も、海外からの圧力は感じていた。

 しかし、それは漠然としたもので、ここまで具体的な「日本潰し」という言葉は聞かなかった。


「日本潰し……それは、具体的にどういうことなんだ?」


 俺は前のめりになって尋ねた。

 爺さんの声が、電話の向こうで一段と低くなる。


「どうやら、日本の膨れ上がったバブル経済を、外から叩き潰そうという動きがあるらしい。土地や株に資金が集中しすぎて、いつ弾けてもおかしくない状況じゃからな。それに目をつけ、日本経済を弱体化させようと企んでおる連中がいるということじゃ」


 爺さんの言葉は、俺の危機感を決定的なものにした。

 これは単なる経済の調整ではない。

 意図的な「仕掛け」だ。


「爺さん、アメリカとイギリスの闇社会から見た表社会の様子を、分かる範囲でいいから調べてもらうことはできるか? 特に、今回の『日本潰し』の動きに関わっていそうな組織や人物についてだ」


 俺の要求に、爺さんは一瞬沈黙した。


「ふむ……大掛かりなことになりそうじゃが、お前さんのためなら何とかしよう。しかし、一体何を企んでおるんじゃ? まさか、中学一年生がそこまで裏の世界に踏み込むつもりではないだろうな?」


 爺さんの声には、警戒と同時に、俺の行動に対する好奇心が混じっていた。


「いや、ただの興味です。万が一、俺たちの投資に影響が出たら困るから、その根源を探っておきたいだけだ」


 俺は曖昧に答えた。

 本当の狙いは、狂騒後の混乱で、どうやって利益を最大化し、さらにその先で、この国の権力構造を揺るがすための布石を打つかだ。

 平田嶺としての知識と、村井宝塔としての復讐心が、俺を突き動かしている。


 *****

 法子との「緊急」戦略会議:迫り来る嵐


 その日の夜、法子さんのマンションに戻ると、俺は今日の爺さんからの情報をすぐに彼女に伝えた。

 法子さんの顔から、いつもの柔らかな表情が消え、真剣な眼差しが俺を見つめた。


「『日本潰し』ですって……。それは、ただ事ではありませんわね、宝塔様。私も、弁護士として様々な情報に触れておりますが、ここまでの話は表沙汰になっておりません」


 法子さんは、ソファに深く腰掛け、腕を組んだ。

 彼女の表情は、まるで法廷で重大な証拠を吟味する弁護士そのものだ。


「ああ。爺さんの情報源は、通常のルートでは手に入らないものだ。だが、その信憑性は高い。問題は、その『日本潰し』が、具体的にどのような形で実行されるか、そして、それに誰が関わっているかだ」


 俺は、コーヒーカップを手に取り、静かに語り始めた。


「俺の知る歴史では、この後、資産価格の大暴落が起こる。それが、この『日本潰し』と連動しているとすれば、俺たちはその波を最大限に利用しなければならない」


 法子さんは、俺の言葉を遮ることなく、じっと耳を傾けてくれた。

 彼女は、俺の過去に何があったのか、すべてを語らずとも理解しているかのようだった。


「承知いたしましたわ、宝塔様。私も、典子様や爺様と連携し、あらゆる情報網を駆使して、水面下の動きを探ります。特に、海外からの資金の流れや、不審な企業の買収、そして法的な抜け穴など、弁護士の視点から、あらゆる可能性を洗い出します」


 法子さんの目は、強い光を宿していた。

 彼女は、俺の復讐計画の、まさに「頭脳」であり「戦略家」だ。


「ありがとう、法子さん。君がいなければ、俺はここまで冷静に事を進められなかっただろう」


 俺は彼女の手を取り、優しく握った。彼女の指先が、俺の掌をそっと撫でる。

 その温かさが、俺の心に、この戦いの先に守るべきものが存在することを思い出させてくれる。


 *****

 大蔵省のやり手キャリア:榊原由美との接触


 数日後、婆さんの手配で、俺は都内の閑静な喫茶店にいた。

 指定された席に座っていたのは、すらりと伸びた背筋と知的な眼差しが印象的な女性だった。

 年齢は27歳くらいだろうか。

 皇道学館の制服を着た俺を見て、彼女は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。


「村井宝塔くんね? 典子先生から話は伺っているわ。大蔵省証券局の榊原由美よ」


 彼女はそう言って、名刺を差し出してきた。

 そこには、「大蔵省証券局 課長補佐代理」という肩書きが記されている。

 課長補佐代理という、いささか曖昧だが、この若さで管理職に就いているのだから、相当なやり手なのだろう。

 加えて、その美貌と知的な雰囲気は、彼女がただ者ではないことを物語っていた。高松出身の良家の子女と聞いていたが、まさに絵に描いたような才女だ。俺は軽く会釈し、向かいの席に座った。


「榊原様、お忙しいところ、ありがとうございます」


「いいえ、典子先生にはいつもお世話になっているから。それに、私もあなたのような若手が、国の経済情勢にここまで興味を持っていると聞いて、会ってみたかったのよ。それで、あなたが聞きたいのは、総量規制のことだったかしら?」


 榊原は、俺の問いに単刀直入に切り込んできた。

 その澱みない言葉遣いと、俺の年齢を全く気にしない対等な態度に、俺は感銘を受けた。


「ええ。最近、学園でもその話が囁かれ始めています。本当に、総量規制は導入されるのでしょうか? そして、その背景には、どのような思惑があるのでしょうか?」


 榊原は、一口コーヒーを飲むと、その美しい瞳で俺を見つめた。


「あなたは、なかなか鋭い質問をするわね。表向き、政府は『国民の財産形成を支援する』という名目で、資産価格の安定化を謳っている。しかし、現実には、膨れ上がった資産価格を抑制するための、より抜本的な対策が検討されているのは事実よ」


 彼女の言葉は、政府が水面下で動いていることを明確に示していた。

 しかし、その背後にある深い闇は、まだ語られない。


「それは、海外からの圧力も関係しているのでしょうか? 香港では、『日本潰し』という言葉が囁かれていると耳にしました」


 俺が核心に触れると、榊原の顔が、わずかにこわばった。

 彼女は周囲を警戒するように一度見回した後、声を潜めて答えた。


「……あなたは、どこまで知っているのかしら? 『日本潰し』などという物騒な言葉は、決して表には出せない。しかし、海外の投資家や金融機関が、日本のバブル経済を危険視し、投機的な動きを強めているのは事実よ。彼らは、日本の資産価格が崩壊することによって、莫大な利益を得ようと企んでいる。そして、その動きを牽制するために、政府も何らかの対策を打たざるを得ない状況にあるの」


 榊原の言葉は、爺さんの情報と完全に一致した。

 これは、単なる経済の調整ではない。

 海外からの意図的な攻撃だ。

 そして、その背後には、巨大な力が働いている。


「彼らは、具体的にどのような手法で、日本経済を『潰そう』としているのでしょうか?」


 俺はさらに深く切り込んだ。

 榊原は、疲れたように息を吐きながらも、詳細を語り始めた。


「主に、空売りとデリバティブ取引、そして為替操作よ。日本の株価や不動産価格が下落することに賭け、巨額の利益を得ようとしている。さらに、円安を誘導することで、日本の輸出産業に打撃を与え、経済全体を弱体化させようという狙いもあるでしょうね。彼らは、日本の金融システムが、この狂乱の波に耐えきれないと見ている。特に、ここ最近、外資系の証券会社が日本国内の不動産や株の空売りを仕掛けているという報告も上がってきているわ」


 彼女の言葉に、俺は平田嶺としての知識と、村井宝塔としての復讐心が重なり合った。

 これは、まさにあの時、俺が経験したバブル崩壊のメカニズムそのものだ。


「では、政府は、その動きを止めることはできないのですか?」


「……政府も手をこまねいているわけではないわ。総量規制はその一つだけれど、それだけでは根本的な解決にはならないだろう。海外の巨大な資金力と、彼らが持つ情報網は、私たちの想像をはるかに超えている。私たち証券局も、必死に彼らの動きを追っているけれど、手の内を全て晒すわけにもいかないし、何より、彼らは法的な抜け穴を巧妙に利用してくるから、手が出せない部分も多いのよ」


 榊原は、悔しそうに唇を噛んだ。

 彼女の表情からは、重圧と、国家の危機に立ち向かう一人の官僚としての苦悩が滲み出ていた。


「ありがとうございます、榊原様。非常に貴重な情報でした」


 俺は深々と頭を下げた。

 彼女から得た情報は、俺の戦略をより確固たるものにするだろう。

 高松の地方財閥に繋がる良家の子女でありながら、自らの才覚で大蔵省の要職に就いた彼女は、今後も俺の強力な情報源となり得る。


 喫茶店を出ると、冷たい風が俺の頬を撫でた。

 俺は、この国の未来を賭けた戦いが、すでに始まっていることを痛感した。

 学園生活の裏で、俺は静かに、しかし確実に、その戦いに身を投じている。狂騒の終焉は、もうすぐそこまで来ている。

 そして、その時、俺は、この国の真の姿を暴き出し、新たな時代を築き上げるための、大きな一歩を踏み出すだろう。


 *****

 深まる夜と決意


 法子さんのマンションに戻ると、彼女は俺の帰りを待っていた。

 俺は、榊原から聞いた話を、詳細に彼女に伝えた。

 法子さんの顔は、次第に厳しくなっていく。


「やはり、表社会の裏側では、想像以上のことが起こっているのですね。海外からの『日本潰し』……これは、単なる経済の変動では済まされない」


 彼女は、俺の言葉を反芻するように繰り返した。


「ああ。だからこそ、俺たちは、この状況を最大限に利用しなければならない。彼らが日本を潰そうとしているのなら、俺たちはその崩壊の波に乗って、逆に力を手に入れるんだ」


 俺の言葉に、法子さんの瞳が強く輝いた。


「ええ、宝塔様。私も、あらゆる角度から分析し、あなたの戦略をサポートいたしますわ。この国の未来のために、そして、あなたの……」


 法子さんは、そこまで言うと、言葉を詰まらせた。

 俺は、彼女の言いたかったことを理解した。

 彼女は、俺の復讐を、そしてその先に俺が築き上げようとしている未来を、信じてくれているのだ。


 その夜、俺たちは再び、互いの決意を確かめ合うように深く抱きしめ合った。

 外は静まり返っているが、俺たちの胸の内では、来るべき嵐への準備が着々と進んでいた。

 俺の復讐劇は、今、新たな局面へと突入する。

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