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俺は人生に、この誰もが救われない社会に復讐する  作者: へいたれAI
第一章 雌伏
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第十話 学園生活の裏側:隠された人間模様

 

 翌朝、俺は普段通り皇道学館へ向かった。

 学園内は、生徒たちの活気に満ち溢れていた。


 中等部では、生徒たちは出身ごとにいくつかのグループに分かれている。

 四大財閥系の貴族の子弟、古くからの貴族、新興の財閥、そして俺のような一般家庭出身の者。

 それぞれのグループが、独自のルールと力関係を持っている。


 俺は、意図的にどのグループにも深く所属せず、傍観者の立場を保っていた。

 その方が、より多くの情報を公平に集められると考えたからだ。


 昼休み、食堂で食事をしていると、クラス委員長の暮友が俺のテーブルに近づいてきた。

 彼女は相変わらず高飛車な態度だが、以前よりは遠慮があるように見える。


「村井様、失礼ですが、お一人でいらっしゃるのですか?」


「ああ。別に誰かと一緒に食べる必要もないだろう」


 俺がそう答えると、彼女は少し眉をひそめた。


「この学園では、社交も重要な学びにございます。お一人でいるのは、あまり良いこととは言えませんわよ」


「忠告ありがとう。だが、俺には俺のやり方がある」


 俺がそう言うと、暮友は何も言えずに去っていった。

 彼女の背中を見送りながら、俺は内心で微笑んだ。

 彼女は表面上は高慢だが、根は真面目で、学園の秩序を重んじている。

 だからこそ、俺のような異分子が気になるのだろう。


 放課後、俺は図書室へ向かった。

 この学園の図書館は、貴族の歴史や日本の経済に関する貴重な資料が豊富に揃っている。

 平田嶺としての知識を補完し、この世界の情報を得るために、俺は毎日のように通っていた。


 資料を読み進めていると、不意に声をかけられた。


「村井くん、いつも熱心だね」


 顔を上げると、そこに立っていたのは、俺と同じクラスの藤堂だった。

 生徒会で俺に相談を持ちかけてきた、あの真面目な委員長だ。


「藤堂か。君もここにいるのか」


「ええ。僕は生徒会活動の資料を調べていたんです。村井くんは、何を調べているんですか?」


 藤堂は興味深そうに俺の手元を見た。

 俺は読みかけの経済史に関する本を閉じた。


「まあ、色々とね。この国の経済の歴史について調べているところだ」


「経済ですか!それはまた、難しい分野ですね。よろしければ、僕も少しばかり知識がありますので、お手伝いしましょうか?」


 藤堂は真面目な顔で提案してきた。

 彼は、生徒会の活動を通じて、学園内の様々な情報に精通している。

 彼の協力は、俺にとって大きな助けになるだろう。


「助かる。実は、少し聞きたいこともあるんだ」


 俺は藤堂に、この学園の経済系のサークルについて尋ねた。

 特に、有力な財閥の子弟が多く所属する経済研究会について、詳しい情報を教えてほしいと頼んだ。


「経済研究会ですか。そこは、将来財界に進む者が多く集まるサークルです。現会長は、三条院雅様。四大財閥の一つ、三条院グループの御曹司で、非常に優秀な方です」


 藤堂は雅について詳しく説明してくれた。

 三条院グループは、この国の経済を牛耳る四大財閥の一つであり、その御曹司となれば、学園内でもかなりの影響力を持っているはずだ。


「なるほど。他に、何か特徴的なサークルはあるか?」


「ええ。あとは、華族研究会というサークルもあります。こちらは、古くからの貴族の歴史や文化を研究するサークルで、桜華院様も所属されているとか」


 藤堂はそう言って、華族研究会のパンフレットを差し出した。

 そこには、格式高い雰囲気の写真が並んでいた。


「ありがとう、藤堂。助かったよ」


 俺は藤堂に礼を言い、手に入れた情報に目を通した。

 華族研究会か……梓も所属しているというから、そちらにも顔を出す価値はあるだろう。


 *****

 策略の深化:学園を舞台にした暗躍


 夜――

 法子さんの部屋に入ると、彼女は既にナイトガウン姿で、薄暗い照明の下に座っていた。


「少し、お酒を召し上がります?」


 琥珀色の液体が、グラスの内側を滑り落ちる。


「梓と華道部で話をした。……彼女は、思った以上に鋭い」


「ええ、桜華院のご令嬢ですもの。あの方が“表”だけで生きていると考えるほうが無理がありますわ」


 法子さんはグラスを傾けると、俺の隣に腰を下ろした。

 その横顔に浮かぶのは、微かな寂しさの影。


「あなたが、少しずつ遠くへ行ってしまう気がするのです」


「……何を言ってる」


「わたしは、あなたの“家政婦”ではありません。けれど、立場が違う以上、あなたのすべてに触れられるわけでもない……」


 そう囁いた瞬間、彼女の掌が、俺の頬にそっと触れた。


「だからせめて、今夜だけは、わたしを抱きしめて」


 抱き寄せた彼女の身体は細く、柔らかく、そして熱を帯びていた。


「法子さん……」


「声を出さないで。……聞こえますか?あなたの心の音が、わたしの胸にも響いているの」


 肩に回した腕をきつくしながら、彼女はそっと唇を重ねた。

 最初はやさしく、だが次第に、抑えきれぬ熱が混じっていく。

 指先がシャツの前立てを解き、肌に触れたとき、彼女は微かに震えた。


「あなたがどれほど冷静でも……わたしは、あなたに夢中なのです」


 その夜、俺たちは互いの存在を何度も確かめ合った。

 声にならぬ感情と、触れ合うことでしか伝えられない熱を――。


 翌朝、鏡に映る俺の顔には、もう迷いはなかった。

 華道部という「場」は、ただの趣味の集まりではない。

 権力、情報、そして人間関係の縮図――その渦中で、俺は次なる一手を練っていた。

 梓と法子、どちらもが、俺の未来に関わってくる。

 だが――最後に選ぶのは、俺だ。未来を変える布石は、すでに打たれている。


 *****

「世界情勢研究フォーラム」への入会と新たな関係性


 梓との会話は、俺にとって非常に有益だった。

 彼女は華道部の他にも、兼部しており、もう一つの所属先の話を始めた。

 あまり彼女自身活動していないが、興味深いサークルを俺に教えてくれた。


「村井様でしたら、こちらのサークルもよろしいかもしれませんわね」


 梓が紹介してくれたのは、『世界情勢研究フォーラム』というサークルだった。

 名前だけ聞くと堅苦しいが、実態は、国際情勢や経済、歴史などについて、興味のある生徒たちが集まって自由に議論する場だという。

 しかも、活動は月に数回程度で、強制参加ではない。


「興味深いですね。私も参加してみようかと思います」


 俺がそう言うと、梓は少し目を丸くした。


「あら、意外ですわ。てっきり、もっと活動的なサークルを選ばれるかと……」


「いえ、むしろ、このくらいの方が気楽でいい。それに、世界情勢や経済の話は、俺も興味がありますから」


 俺は平田嶺としての知識を活かせる場があることに、内心密かに期待していた。

 この学園には、貴族の子弟ばかりが集まるという建前があるが、実際には様々な価値観や思惑が交錯している。

 特に、未来の日本を担う人材を育てるという梓の言葉が示すように、ここでの学びは単なる学術的なものに留まらない。

 経済の知識は、この世界で生きていく上で不可欠な武器となるだろう。


 そして、梓が続けた言葉に、俺はさらに驚かされた。


「でしたら、わたくしも、もう少し熱心に活動に参加してみようかしら」


「え? 桜華院様もこのサークルに?」


 俺は思わず聞き返した。


「ええ。実はわたくしも名ばかりで所属しているだけで、あまり顔を出していなかったのですけれど、村井様がいらっしゃるのでしたら、これからはきちんと参加させていただきますわ」


 まさか梓も一緒に入ることになるとは思わなかったが、これは好都合だ。

 彼女と学内で絡む機会が増えるのは、俺にとってプラスになる。

 彼女は公爵家の令嬢であり、この学校の様々な情報を持っている。

 それに、彼女の存在は俺の学校生活での立ち位置を安定させることにも繋がるだろう。


 *****

「世界情勢研究フォーラム」の初会合


 数日後、俺は『世界情勢研究フォーラム』の初会合に参加した。

 放課後、学園の奥にある特別教室に足を踏み入れると、そこにはすでに数名の生徒が集まっていた。

 堅苦しい雰囲気はほとんどなく、各々がソファに腰かけ、飲み物を片手に雑談を交わしている。


「ようこそ、村井くん。桜華院さんから話は聞いているよ」


 そう声をかけてきたのは、フォーラムのリーダーを務める白麗澪先輩だった。

 彼女は穏やかな笑みを浮かべて俺を迎えてくれたが、その瞳の奥にはどこか疲労の色が滲んでいるようにも見えた。

 彼女の隣には、副リーダーの萬斎先輩が控えており、その目からは強い野心が窺える。

 萬斎先輩は、全国規模の財閥である萬斎財閥の御曹司であり、このサークル内では実質的な影響力を持っていると藤堂から聞いていた。

 このサークル自体は、学内では比較的弱小で目立たない存在とされていた。


「初めまして、白麗先輩。村井宝塔と申します」


 俺は頭を下げて挨拶した。


「白麗澪です。どうぞよろしく。村井くんも、世界情勢に興味があるのですね。このサークルは、学園内では正直、地味で目立たない存在ですが、だからこそ、自由に意見を交わせる場として、細々と活動しています」


 澪先輩は、自嘲気味に笑った。

 その言葉の端々からは、このサークルが置かれている状況への諦めのようなものが感じられた。


「そうですね。学園内では、スポーツ系のサークルや、華やかな文化系のサークルが注目されがちですから」


 俺は澪先輩の言葉に同意し、周囲を見渡した。会合に参加しているのは、俺と梓、澪先輩と萬斎先輩の他に、数名の生徒だけだった。

 彼らは皆、四大財閥以外の財閥の子弟や、新興財閥の子弟が多いようだった。


 最初の議題は、東アジア情勢だった。

 白ロシア王国が台頭し、その影響が日本にも及びつつあるという話題に、生徒たちは活発な意見を述べ合った。

 彼らの視点は、それぞれの家庭が持つ情報網や思惑が絡み合い、非常に多角的だった。

 しかし、その議論の中心をリードしているのは、やはり萬斎先輩だった。

 彼は具体的な数字やデータを示しながら、白ロシア王国の経済構造や、日本への影響について、説得力のある意見を述べていた。


「今年の夏の合宿は、萬斎財閥が所有する箱根のゲストハウスを使わせてもらえることになっています。そこで、もう少し深く、この情勢について議論を交わしたいと思っています」


 萬斎先輩がそう言うと、他の生徒たちから歓声が上がった。

 彼がこのサークル内で強い影響力を持っていることが、改めて示された瞬間だった。

 澪先輩は、その様子を少し寂しそうに見つめていた。


 俺は平田嶺としての知識を活かし、冷静に彼らの意見を分析した。

 この世界の歴史は俺の知るそれとは異なるが、大局的な動きは共通している部分も多い。

 国際情勢の裏には、必ず経済的な動機が隠されている。


 議論が白熱する中で、俺は意図的にいくつかの質問を投げかけた。


「村井くんの視点は、非常に鋭いね。我々が普段見過ごしがちな、経済的な側面から情勢を読み解こうとしている」


 萬斎先輩は俺の質問に感心したように言った。


「村井様のおっしゃる通りですわ。経済は、世界の動きを理解する上で不可欠な要素ですもの」


 梓も俺の意見に同意してくれた。

 このフォーラムは、俺にとって予想以上の収穫だった。

 ここでは、貴族の子弟たちが持つ生きた情報に触れることができる。

 そして、俺の経済的な知識が、彼らの間でも高く評価されることを実感した。


 会合が終わると、萬斎先輩が俺に声をかけてきた。


「村井くん、もしよければ、今度個人的に話さないか? 君の経済に対する洞察は、非常に興味深い。特に、今年の夏の合宿で、君の意見を詳しく聞きたいと思っている」


 萬斎先輩は、萬斎財閥の御曹司であり、学園内でも強い影響力を持つ人物だ。彼との個人的な繋がりは、俺の復讐計画にとって大きなアドバンテージとなるだろう。


「喜んで。萬斎先輩のご都合の良い時に」


 俺は笑顔で答えた。

 萬斎先輩は満足そうに頷くと、他の生徒たちに挨拶して去っていった。

 澪先輩は、俺と萬斎先輩のやり取りを、複雑な表情で見つめていた。

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