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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

精神汚染

あれはいつの事だったか。

かなり昔の事なのであまり覚えてはいませんが、始まりはこうだった筈です。

 

目が覚めると、何もない真っ白な空間におりました。

 

「ここ、どこ?」

 

そんな呟きは、空に吸い込まれて消えていく。

私はその時に何か恐ろしい事に巻き込まれたのでは無いかという考えが頭をよぎり、何かを叫んだ様な気がします。

 

「誰かいませんか?」「助けてください。」

 

そんな事をたくさん、たくさん言った様な気がします。

けれどもそこには誰もおらず、待てど暮らせど何も変わりはしませんでした。

 

その後、私は歩いた様な気がします。

誰かいませんかと叫びながら走った様な気もします。

けれど覚えているのは、無限に続くかの様な白い空間の連続に怖気付いた事だけ。

私は疲れと緊張からその場で眠った事を覚えています。

目を閉じた時に、光を感じれどもそこにある確かな暗さに、私は安堵を覚えたのです。

 

 

目が覚めると、やはりそこは真っ白な空間でした。

意識が芽生え、やった事と言えば歩き、叫び、立ち止まり、眠る事。

これの繰り返しを何度も何度も何度も。

長かった気もしますが、時間にしてみれば案外短かったのかもしれません。

兎にも角にも、私は狂ってしまいました。

頭を床に打ち付け、指で首を掻き毟り、自身の髪を引きちぎる。

痛みによって、正気を保とうと狂気的な行動を起こしていました。

ただ、その行動は良くも悪くも、無意味ではありませんでした。

私はその時に違和感に気付いてしまったのです。

腕の体毛が無くなっている事に、手の皺が無くなっている事に。

 

私の心臓の音が聞こえない事に。

 

始めからそうだったのか、気付いた時にそうなったのか、私には判別が付きませんでした。

だけど、ほんの少しだけ、冷静になれました。

この異常な空間に一体どうやって来たのかを思い出そうとしました。

思い出せませんでした。

この空間に来る直前は何をしていたのか?

思い出せませんでした。

私は何をしていた人なのか、私の親や友人の顔、はては自分の名前すら、私は覚えていなかったのです。

 

ここはどこ?そんな疑問は私は誰?に変わりつつありました。

 

ですが、何も出来ないこの空間においては、私が何者であっても関係なく無意味である。

そう考えた私は唐突に歌をうたいました。

何故歌ったのか、私にもよくわかりませんでした。

何かになりたいと願ったのかもしれないし、ただの暇潰しだったかもしれません。

 

ただ、私の気紛れの歌は、確かに誰かに届いたのです。

鳴り止まない拍手が聞こえたのです。

私が歌う、そのたびに。

求めた助けには目もくれず、私は歌を求められたのです。

 

その時からずっと、眠り、目覚めて歌い、疲れてはまた眠る。

それの繰り返しを今もなお。

 

喜びの声が聞こえます。

私を女神と称えるあなたの声が。

幾人もの歓声が。

私はこの声が聞こえる限り。

私の声が届いている限り。

今日もあなた達に祝福を。

私はあなた達を愛しましょう。

 

いつか滅びるその日まで。

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